環境保護とサステイナブルに取り組む先駆者たちを讃える、「ロレックス賞」の2023年度受賞者が発表

  • 文:並木浩一

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© Rolex/Sofia Lopez Mañan

未来の世代のために地球を守り、生活を向上させるための野心的なプロジェクトに取り組む個人を支援する「ロレックス賞」。その2023年の受賞者5人が発表された。彼らの活躍のフィールドはケニア、コートジボワール、ゴビ砂漠、アンデス高地、インドネシア。世界中のさまざまな場所、しかもそれぞれ異なる分野で展開されるパイオニアたちの革新的な試みに、「ロレックス賞」はスポットライトを当てる。

「パーペチュアル」の名のもとに展開する、ロレックスの支援活動

「ロレックス賞」が始まったのは1976年のことだ。世界初の防水腕時計「オイスター」の誕生50周年を記念して創設されたこの賞は、世界に関する知識を向上させ、環境を保護し、生息地や種の保全をサポート、人間の福利を向上させる革新的なプロジェクトを行う個人を支援している。当初は1回限りの予定だったが、2年に1度の開催となり、創設以来48年間で160人の受賞者、65カ国でのプロジェクトを支援してきた。

さらにロレックスは2019年に「ロレックス パーペチュアル プラネット イニシアチヴ」を立ち上げ、科学技術を駆使して世界の環境問題を理解し、生態系のバランスを回復する解決策を考案する、個人と組織を支援する活動を強化した。「ロレックス賞」は現在この「ロレックス パーペチュアル プラネット イニシアチヴ」の一環として位置付けられ、環境、科学と医療、応用技術、文化遺産、探検の分野にフォーカスしたプロジェクトを支援する。そして、受賞者はプロジェクトのための資金を提供され、歴代受賞者たちのネットワークに参加することができる。

世界的に著名な専門家やリーダーたち10人の選考委員により選出された、2023年度の受賞者と彼らの活動を紹介しよう。

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森林保護から衣料品ブランドまで、多様な取り組みをサポート

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かつてインカ帝国を興したと言われるケチュア族の農民の家系出身、ペルー人の生物学者コンスタンティーノ・アウッカ・チュータス。©Rolex/Sofia Lopez Mañan

受賞者のひとり、コンスタンティーノ・アウッカ・チュータスは、ペルー人の生物学者だ。彼はわずか2%まで原生林が減少しているアンデス山脈の高地で先住民コミュニティと協力し、地域の森林再生活動と固有の生態系の保護に取り組んでいる。現地では氷河の後退や急速な森林伐採による土壌の浸食、水資源の減少といった環境変化の悪循環に陥っていた。

チュータスはその対策として地域固有の在来樹木を植樹する活動を開始。既にペルーだけでも450万本もの植樹を行い、60以上の地域コミュニティと関係を結び、アンデス高地諸国の山間部に16の保護区を創設した。彼が自然保護活動家たちと共同設立した、森林再生活動をアンデス中に広めるNGOの「アクシオン・アンディナ」は、エクアドル、チリ、ボリビア、アルゼンチン、ペルーで展開。コロンビアやベネズエラにも拡大して100万ヘクタールの植樹を予定している。

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水不足に取り組むケニア出身の社会起業家、ベス・コイギ。©️Rolex/Eva Diallo

ケニア人社会起業家のベス・コイギは、太陽エネルギーを用いて空気から水を採取する革新的な装置を提供する、マジックウォーター社の共同設立者だ。彼女の母国のケニアでは、人口の半分が清潔な飲料水を利用できていないという。一方で彼女の大気水生成装置は乾燥地帯でも大気中から水を抽出、ろ過し、ミネラルを添加して清潔な飲料水とする一体型装置である。

この装置がいままでに乾燥地帯や半乾燥地帯に供給され、毎月20万リットル以上の清浄な水を1900人以上に提供してきた。さらに現在、ケニア北部の極度の乾燥地帯・トゥルカナにあるアフリカ最大級の難民キャンプであるカクマ難民キャンプと、カロベイエイ居住地区の中心部で、生成した水を適正な価格で販売する「ウォーターキオスク」計画を進めている。

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霊長類学者のインザ・コネ。2006年からコートジボアールのタノエ・エヒ森林の保護に取り組む。©️Rolex/Nyani Quarmyne

コートジボワール初の霊長類学者であるインザ・コネは、西アフリカの最後の原生林のひとつといわれる広大な湿地帯のタノエ・エヒ森林を「地域管理の自然保護区」にすることに尽力した。1万1000ヘクタールの森林には固有種の動植物が少なくとも45種が生息し、絶滅の危機にある霊長類もいる、生物多様性のショーケースだ。

しかしながらコートジボワールでは、人間の活動により原生林はわずか2%まで減少している。彼は2006年、タノエ・エヒの11農村とともに保護プログラムを確立し、開発計画から森林を守った。かつては狩猟者だった地元住民も、森の専門家として知識を調査のために提供する。2021年、森林はコミュニティが管理する自然保護区として正式指定された。

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インドネシア出身の社会起業家、デニカ・リアディニ=フレッシュ。©Rolex/Sébastien Agnetti

インドネシアのデニカ・リアディニ=フレッシュは、再生可能な”farm-to-Closet”(農場からクローゼットまで)を一貫して行う衣料品サプライチェーンを設立した社会起業家だ。もともとは開発経済学者であった彼女は、幸福を意味する「スッカチッタ」という名の衣料ブランドを起業した。

製品は協力農家での再生可能農法によるコットンの栽培から始まり、女性たちが収穫し、紡ぎ、織り出した後に、天然植物由来の染料で染色される。このサステイナブルなビジネスは、32カ国で顧客を獲得している。一方で彼女は農村に工芸学校を設立し、そこで女性たちは伝統的な農業と織物の生産技術、製品の収益化を可能にするビジネススキルを学ぶ。現在までに農家から織物職人、裁縫職人ら1400人以上がプロジェクトに参加しているが、2030年までにはその数を1万人に増やして、荒廃した1000ヘクタールの土壌を再生する計画が進行中だ。またインドネシア内の僻地までスッカチッタのトレーニングを広げるアプリを開発中である。

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中国出身のシャオチュアン・リュウ。リモートセンシング(遠隔検知)の知見でラクダの保護に取り組む。© Rolex/Liu Xiaoxue

シャオチュアン・リュウはリモートセンシング=遠隔検知のスペシャリストであり、中国の月探査機と火星探査機の開発で重要な役割を果たした実績がある。その科学的専門知識はいま、中国とモンゴルのゴビ砂漠地域で野生のラクダを衛星追跡し、未来に向けた保護の支援活動を行なっている。何千年も前からモンゴルと中国にまたがるゴビ砂漠に生息してきた野生のラクダは、現在約1000頭まで減少。月面ローバーの試行運転の候補地として乾燥した岩だらけのゴビ砂漠を訪れたリュウは、滞在中に野生のラクダの窮状を知った。現在、彼はチームとともに、衛星トラッカーと遠隔検知技術を利用して群れを追跡。「中国野生ラクダ国立公園」と「中国・モンゴル越境野生ラクダ自然保護区」の2カ所の新設を視野に入れ、生息地の調査を続けている。

今回も多種多様なプロジェクトに挑む受賞者たちが揃った「ロレックス賞」だが、ロレックスは彼らをサポートするだけではなく、45年以上にわたり、そのネットワークの中で受賞者たちを引き合わせてきた。新世代の受賞者たちに知識を伝えたり、補完的な専門分野を共有したり、この唯一無二のグループは、お互いのスキルや専門知識によって、さらに大きな影響力を生み出し、地球の環境問題の解決策を見いだそうとしているのである。

日本ロレックス

TEL:0120-929-570
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