豊かな想像力を育む、「魔法の文学館」の“いちご色”の空間【今月の建築ARCHITECTURE FILE #17】

  • 文:佐藤季代

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なぎさ公園のなだらかな丘の中腹に立つ。キャンバスのような純白の建築が、鮮やかな“いちご色”や周囲の緑を引き立てている。 photo: Masaki Hamada( kkpo)

宮崎駿の手で映画化もされた『魔女の宅急便』の著者として世界的に知られる、児童作家の角野栄子。彼女の豊かな想像力で紡ぎ出される物語の世界を体感できるミュージアム「魔法の文学館」が、2023年11月に、東京・旧江戸川のほとりにあるなぎさ公園内に完成した。設計は隈研吾が担当。地上3階建ての建物とランドスケープ、内部の展示空間が一体となり、角野の世界観が表現されている。

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既存の樹木を活かすために小さく分節した空間構成が特徴。上空から見ると花びらが開いたような屋根形状になっている。 photo: Masaki Hamada( kkpo)

なだらかな丘の中腹に佇む純白の建物は、桜やツツジ、ケヤキなど、四季折々に変化する園内の樹木に寄り添うように、小さな箱を並べた外観が特徴的。「フラワールーフ」と名付けられた軽やかな屋根がかけられ、建築そのものが花びらを連想させる。

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“いちご色”をテーマカラーとした1・2階の内装デザインは、角野栄子の娘で、アートディレクターのくぼしまりおが担当している。 photo: Ooki Jingu

 

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約1万冊の児童書が並ぶ2階のライブラリー。開館中は外の読書テラスや園内にも持ち出しができ、好きな場所で読書が楽しめる。 photo: Masaki Hamada( kkpo)

館内に入ると『魔女の宅急便』の舞台「コリコの町」が出迎える。家型をモチーフに、テーマカラーでもある“いちご色”で彩られた目にも鮮やかな空間だ。1〜2階にかけては、4面映像シアターやギャラリー、アトリエなど、子どもたちが能動的に過ごせる居場所がちりばめられており、なかでもライブラリーは角野自らが選書した約1万冊の世界の児童書や絵本が無作為に並べられ、思いがけない本との出合いが体験できる。館内を移動するたびに五感で楽しめる非日常空間が、子どもから大人まで、豊かな想像力を育んでくれるに違いない。

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最上階にあたる3階のカフェテラスでは物語にちなんだ料理を提供。開放感のあるガラス張りの空間から旧江戸川を眺められる。 photo: Masaki Hamada( kkpo)

魔法の文学館

住所:東京都江戸川区南葛西7-3-1 なぎさ公園内
TEL:03-6661-3911
開館時間:9時30分~17時30分 ※入館は閉館1時間前まで 
休館日:火曜日
料金:一般¥700
https://kikismuseum.jp
【設計者】隈研吾建築都市設計事務所
建築家の隈研吾は、 1954年神奈川県生まれ。東京大学大学院建築学科修了。90年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。2019年に竣工した国立競技場の設計に携わったほか、紫綬褒章をはじめ受賞多数。

※この記事はPen 2024年3月号より再編集した記事です。