2023年の思い出に残るクリエイションを振り返る【後編】
TRIP#14 YOSHIROTTEN

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    グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

    この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

    YOSHIROTTENの活動がより国内外へと広がった2023年。YOSHIROTTENのアートプロジェクトをサポートするノリと一緒に、今年の思い出を前半・後半に分けて振り返る。
    アートディレクションを手がけたエルメスによるイベント「SPLASH TOKYO」、4月に発表した山下達郎による「SPARKLE」のMV制作に込めた熱い想いを語った前半につづき、この後半では国内外のプロジェクトの制作の裏側を紹介。新作インスタレーションを発表した「Jennie for Calvin Klein」をきっかけに遊びに行った韓国の思い出、秋にキュレーションを行ったジョニーウォーカー ブルーラベル​​による一夜限りのイベント「「“Be It” curated by YOSHIROTTEN by GQ HYPE in collaboration with Johnnie Walker Blue Label」」、軽井沢で開催された野外イベント「EPOCHS」について楽しく語り合う。

    ——前編から続き、2023年の振り返りとしてGINZA SIXの「ROOFTOP ART PARK」も話題になったプロジェクトでしたね。

    YOSHIROTTEN:4月1日(土)から5月31日(水)までの期間中、GINZA SIX ガーデン(屋上庭園)にアートパークをつくりました。公園でのプロジェクト自体は初めてでしたね。以前Instagramに、架空で公園のデザインイメージをアップしたことがあって、それを見たGINZA SIXの方が声かけてくれたことをきっかけに、そこからいろいろとデザイン案を出した中で、最終的にこの案になりました。

    ノリ:最初の案とはまた違ったりするの?

    YOSHIROTTEN:そうだね。最初は公園っていうくらいだから遊具をつくろうとして、寝っ転がることがメインじゃなかったんだけど。話していくなかで、この屋上が銀座でいちばん高い施設の公園だということで、ゴロゴロしながら昼夜問わず空をぼーっと眺めてゆったり時間を過ごす場所をつくるのはどうでしょう、という着地になって。

    ノリ:音楽もデザインと一緒に提案したんですよね。

    YOSHIROTTEN:XTAL (クリスタル)さんにお願いしました。前にふらっとクラブで会った時に、最近アンビエントをつくってるって話から送ってくれた楽曲がすごく良くて。すぐにGINZA SIXの人にも提案して実現した。プロジェクトが終わってから楽曲としてリリースされることになり、逆にアートワークを僕が提供したり。

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    ノリ:カセットにもしてましたよね。プロジェクトから派生した音源だと、この件とエルメスのためのカセット、んoonの7インチもつくってましたねー。話が飛ぶけど、子どもたちが楽しく遊ぶ光景も印象的だったなー。

    YOSHIROTTEN:子どもたちがばーっと遊んでくれているのもこの音楽のおかげなんじゃないかなって思う。連日賑わって、最終的に約10万人ものひとが遊びに来てくれたみたいで。なんでこんなに来てくれたのか、宣伝もそんなにしていない中で不思議だったんですけど、やっぱり朝から銀座で子どもと遊べる面白い場所ということで、口コミ的にSNSで広がったみたい。

    ノリ:僕もストーリーにあげたら、子持ちの友達からすぐに「それどこの?」って連絡がありましたもん。

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    ——そもそも公園があること自体、知らなかった人もいそうですもんね。

    ノリ:「CROSSING PARK」という名のもと、今後シリーズ化していく予定なんですか?

    YOSHIROTTEN:「CROSSING PARK」自体は僕がつけたんですけど、この企画を通して、いろいろな人が交差点のように集って、少し立ち止まって周りの景色を見る場所になったらいいなと思っていて。GINZA SIXがもつ6つのセンスというコンセプトも含んでいるけど、人々がクロスするようなイメージでデザインをつくっていきましたね。

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    ノリ:素材はなんだったんですか?ゴロゴロできる感じで心地よかったんだけど。

    YOSHIROTTEN:福岡にある再生プラスチックや米粉を原料にしてマットレスを作ってる株式会社モーブルのライトウェーブを使ってる。GINZA SIXのプロジェクトの制作期間で、僕があまり寝れない時に眠りやすくなる枕を探してたら、たまたまタクシー広告としてライトウェーブを見つけて。やわらかい素材だから、今回のプロジェクトでも老若男女にとって居心地いい空間がつくれたように思います。制作には、クリスマスの時のオブジェ同様に、HAKUTENさんがサポートしてくださって、その後、韓国でローンチしたプロジェクト「Jennie for Calvin Klein」もご一緒して。

    ノリ:強力なパートナーでしたね。あ、4月1日ってSUNのプロジェクトの立ち上がりとまったく一緒だったから、ほぼ3つのプロジェクトをこの期間中で制作してたんだ。

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    ——2023年上半期から制作で多忙…。Calvin KleinとBLACK PINKのジェニーとのパートナーシップによるカプセルコレクション「Jennie for Calvin Klein」はグローバルに人気なプロジェクトですが、どのような関わり方をしたのでしょうか?

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     YOSHIROTTEN:韓国でカプセルコレクション「Jennie for Calvin Klein」のポップアップストアをローンチするにあたって、店舗にインスタレーションをつくってくれないかというご依頼が最初にあって。それが1月くらいですかね。パリで担当者から企画書を共有してもらって、帰国後の1ヶ月でばーっと動き出したという流れです。コレクションから影響を受けたカラーや世界観からつくったイメージをいくつか提案して、韓国の会社とロンドン拠点・Kennedy London​​​​さんとHAKUTENさんと僕らの4社で色々やりとりしてからあっという間に当日を迎えました。

    ノリ:当日はすごかったよね。僕はこのプロジェクトに関わってはいないんですけど、せっかくだからと一緒に韓国に行って。厳戒態勢のなか行われたプレスビューには、韓国の芸能人が集まり、会場の周りには望遠カメラを持ったファンもいたりして。プレスビューの後ってそのまま宿に帰ったんでしたっけ?

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    YOSHIROTTEN:いや、梨泰院にあるクラブ「NYAPI」にアフターパーティ的な感じで行ったよね。小箱なんだけど「FUNKTION-ONE」って高品質なスピーカーがあってすごいいい場所だった。

    ノリ:それで気づいたら、ヨシローくんもDJしてましたよね(笑)

    YOSHIROTTEN:そう、気づいたらDJしてた(笑)

    ——その後は、少し韓国旅行もできましたか?

    YOSHIROTTEN:そうですね。その後、韓国のいろんなクラブとかお店とかに触れる機会があって。「KOCKIRI」もよかったよね。

    ノリ:韓国初のオープンなゲイバーらしくて、ブース前以外はつくりもいい感じだったな。バー前からDJブースと大きな窓から景色が見えて。

    YOSHIROTTEN:あとは「Kompact Record」っていうレコード屋さんもよかったですね。何回か行ってたらオーナーとも仲良くなって、Tシャツもらったりして。夜のシーンも面白かったけど、昼は書店「Post Poetics」も面白かった。オーナーの事務所にも遊びに行って。

    ノリ:「Picnic」っていう私設美術館も良かったです。5日間で7箇所くらいクラブ行った気がする。もう無理、ってなった夜があったな(笑)。みんなの「ソウル楽しいよ!」てのを体感したすごい充実した旅になりました。

    ——その後は、EASTEAST_TOKYO 2023SUN INSTALLATION 2023幕張でのSUNの発表香港最大級のショッピングモール・LANDMARKでのインスタレーションなど夏にかけてもさまざまに発表の場がありました。9月にはスパイラルホールにて、一夜限りのイベント「「“Be It” curated by YOSHIROTTEN by GQ HYPE in collaboration with Johnnie Walker Blue Label」にキュレーションという形で関わっていましたね。

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    YOSHIROTTEN:最初にキュレーションをお願いされた時に、自分の周りにいる若手のアーティストを呼んでイベントを行うような内容を求められていたんですけど、もっと楽しくできないかなと考えて。そうした時に、思い出したのが10代の時にすごく好きになったイギリスのガールズバンド・The Slitsのアルバム『Trapped Animal』(2009)に収録された日本語曲「Be It」。当時、アルバムを聴いてたら最後にいきなり日本語の曲が入ってきてびっくりして。しかもすごく歌詞の世界も良くて、サポートメンバーとして日本人のLittle Annaさんが作詞作曲をしていました。自分の創作のインスピレーションになった曲でもあるから、この曲を他のアーティストにも渡したらどういうイメージができるんだろうという好奇心でキュレーションしました。

    ノリ:どんな人たちを誘ったの?

    YOSHIROTTEN:自分とアーティスト河村康輔によるユニット「UTOPIE」含めて、合計6組だね。グラフィックデザイナー/ペインターのAsuka Watanabe、アーティストのifax!、コラージュ・アーティストのKei Kubo、コラージュ・スクリーンプリント・アーティストのmt.chills、アーティストのNico Ito。ライトボックスの表裏にそれぞれが楽曲を解釈した2つのアートワークを展示しました。

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    ——それぞれのアーティストとは以前から面識があったんですか?

    YOSHIROTTEN:nico itoさんは初めてだったけど、他のみんなは音楽イベントを通して絡みがある人たちでした。ifax!はビジュアルだけではなく自身でも音楽をつくってるし、Aya WatanabeはフジロックやBONNA POTなど音楽イベントのビジュアルを手がけていて、ライブペインティングもするアーティスト。Kei Kuboはノイズバンド・VOVIVAVをやってて、最近はコラージュアーティストとして活動しているんですが、僕にとってパーティをするきっかけになったDJなんです。

    ノリ:あ、VOVIVAVのKeiさんだったんだ。

    YOSHIROTTEN:20代でボノボに行った時に、KeiさんがニューウェーブとハードコアをミックスしてDJしてたのをみて衝撃を受けて。これまでにKeiさんのイベントにもよく出させてもらってたんですけど、アーティストとしてオファーするのは初めてでした。mt.chillsは、大阪拠点の音楽レーベル・Chill Mountain Recのアートワークをやっていて。そのレーベルには、Gr◯un土っていう日本のアーティストから、ヨーロッパで活躍しているDJやトラックメーカーが集まっています。「UTOPIE」は以前、河村康輔と立ち上げたコラージュユニットで久しぶりに復活しようということで参加しました。

    ——イベント中盤では、実際にLittle Annaさんがキーボードの弾き語りで生歌を披露したそうですね。

    YOSHIROTTEN:ちょうど僕が連絡したときに、Little Annaさんが埼玉にいるっていうことで、本当にタイミングよく出演いただけて、すごく嬉しかったです。DJにはダブ山ジャズ男、EZ、Makiko Yamamoto​​というこの流れでパーティつくったら面白いだろうなという方々を呼びました。グループ展示とはまた違って、パーティの中でアーティストが集まった感じがよかった。

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    ——その後、10月に軽井沢で開催された野外フェス「EPOCHS」も心地いいイベントでした。

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    YOSHIROTTEN:話が来たのは、去年の末くらい。軽井沢でフェスをやること自体40年ぶりくらいのことらしくて、タイのフェス「Wonderfruits」帰りに、いまの時代らしいフェスをつくりたいって話をオーガナイズチームと話して。その後、会場にも実際に足を運んで今年頭からビジュアル作りを始めていました。

    ノリ:アーティストの選定には関わってないんですか?

    YOSHIROTTEN:まったくノータッチ。でも友達とかも出てて、大貫妙子さんも出ればkzmも出て、いろんなバリエーションがある面白い選定だなと思ってた。それでイベントが近づくにつれて、自分もビジュアル以外でもう少し参加したいなと思って、キービジュアルを映像として流して、そこでアンビエントセットをやるのはどうですか?って1ヶ月前くらいに連絡して。

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    ——当日行ったら、ヨシローさんが会場入ってすぐのところでDJしててびっくりしました(笑)

    YOSHIROTTEN:映像もつくり終わったのが、イベントの3日前くらい。それを持ち込んで、エクスペリメンタルミュージックのレコードを持って行こうかと思ってたんですが、機材の関係でUSBに前日、データを集めるだけ集めて持っていきました。友達の子どもがブースの前にいたから、おいでって言って機材触らせたり、会場全体の空気感がめっちゃ良かったですね。

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    ——会場のDIY感ある照明や舞台もよかったです。

    YOSHIROTTEN:会場のデザインをしているのが、タイのフェス「Wonderfruits」のステージデザインも手がけているエンドウケイイチロウさん。今回も軽井沢の自然を生かしながらもSF感のある空間になっていたのが、僕としては感動したポイントでしたね。DJしていたスペースもただ単にテントってより、偶然的に映像を投影しても景色と合うような形になっていて面白かったです。そうした自然あふれる会場の浮遊している空気の中で、葉っぱが揺れたり、どんぐりが落ちてきたりする雰囲気をキービジュアルでは表現しました。 

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    ノリ:軽井沢は行ったことありましたか?

    YOSHIROTTEN:前に、スマイルズの遠山さんに北軽井沢の谷川俊太郎さんから引き継いだ「斜めの土床のお家」に連れてってもらったことがあって、それ以来だったかな。会場デザインもしかり、家族連れも楽しめてリラックスして過ごせるフェスだったね。また来年の開催も楽しみです。

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    アーティストYOSHIROTTENの「TRIP」 

    連載記事一覧

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR