手で仕上げたものこそ、本物の風格を纏う

  • photographs by Jun Udagawa
  • text by Mirei Takahashi

Share:

職人の手仕事にこだわった福岡発の家具ブランド、リッツウェル。代表の宮本晋作がデザインした「GQサイドテーブル」をひも解けば、そこからブランドのフィロソフィが見えてくる。

01_20231017_Pen12135 1.jpg
ステンレス、厚革、木の異素材を絶妙なバランスで構成したカンチレバータイプの「GQサイドテーブル」(φ38×42.5×H60cm)¥205,700〜/リッツウェル

「最初から難解なデザインを考えているつもりはないんです。ただ、ひらめいたアイデアをすぐに製品化するのではなくて、いいと納得できるフォルムになるまで繰り返し考えているうちに、プロセスが難しくなる部分も出てきます」

1992年に福岡で創業したリッツウェルの2代目社長で、クリエイティブディレクターの宮本晋作はそう話す。経営者でありながら、デザイナーとして同社の製品設計からカタログやビジュアルツールのデザインなども担い、新たな家具を世に送り出す意義を問い続けている。

創業者である父親が愛用していた名作家具に触れて育ち、なかでもハンス・ウェグナーやボーエ・モーエンセンらに代表される北欧デザインからは人間工学的な理論と人間味あふれる豊かさを学んだ。華やかなだけではない、筋の通った家具づくりをしたいとイタリアの工房で修業した後、2018年に跡を継いだ。

02_20231017_Pen12113.jpg
「GQサイドテーブル」と好相性なラウンジチェア「マーキュリー」。傾斜した背板と、それを支える細い脚が空間に心地よい余白を生み出す。

ステンレスや木を構造体とし、選び抜いた上質な革や生地を手で加工することによって完成するリッツウェルの家具は、優雅な佇まいとモダンな軽やかさが渾然一体となった姿が最大の魅力だ。一見するとシンプルながらも、細いスチールフレームに厚い革を巻き付け、一つひとつ手縫いで仕上げるといった熟練の技の積み重ねによって、使い勝手がよくて飽きない、長く大事にしたくなるものを目指してきたという。

「たとえばこのGQサイドテーブル。スチールパイプが太ければもっと簡単にできますが、それでは新作としての意味はありません。むやみやたらと量産するのではなく、使う人が“自分らしさ”を保てる家具を理想にしています。心を込めて細部まで手をかけることで機能性やデザインを超えた価値が高まれば、すぐには捨てられない “愛着”も感じてもらえるようになるのではないでしょうか」

03_20231017_Pen12156.jpg
厚い革を手縫いで仕上げる職人技がリッツウェルの真骨頂。細いスチール製フレームに巻き付けた革に手で施したステッチは、経年の魅力を約束してくれる。

宮本の信念は、リッツウェルの職人たちにも浸透している。東京・表参道にある直営店舗で、高度な技を身につけた職人が実際の家具をつくる工程を公開することにしたのも、「家具づくりは、人と人との心のふれあいを結ぶ仕事でもある」との考えからだ。

「もっと便利になるといった必要はなく、むしろ便利になって失われつつある心に響く存在を追求していきたいですね」

再生可能な素材を選んだりという地球環境への配慮を踏まえながらも、ゆったりとしたつくり手の気配をただよわせる。それもまた、リッツウェルの家具が国内外で多くの人を魅了する理由のひとつだろう。

 

04_20231017_Pen12171.jpg

宮本晋作
Shinsaku Miyamoto
デザイナー

福岡県出身。大学卒業後に飛騨高山にて家具の製作、イタリアでクラシック家具を製作する工房にて修業し、帰国後、独学で家具デザインを始める。2005年リッツウェルに入社しデザイナーとして活動、18年に代表取締役兼クリエイティブディレクターに就任。「iF design award」など受賞多数。

●リッツウェル https://ritzwell.com

関連記事