制約をポジティブに捉えた、都心の狭小縦長ホテル【今月の建築ARCHITECTURE FILE #11】

  • 文:佐藤季代
  • 写真:堀越圭晋(エスエス)

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ランダムに設けられた窓から、異なる都心の風景が眺められる。外側コーナー部分の柱をなくす設計によって、より開放感が感じられる。

コロナ禍を経て、日本各地で再びホテルの開業ラッシュが続いている。今年8月には、ビル群が立ち並ぶ東京・日本橋エリアに、地上9階建ての「ホテル ラクラグ」がオープンする。わずか25坪ほどの狭小地に、スイートルームからツインルームまで全14室を設けた都市型ホテルだ。

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ブレース(筋交い)を意匠としてあえて隠さず見せたスイートルーム。5つのバリエーションがある客室は、どれもシンプルな内装に仕上げた。

設計を手がけたのは、隈研吾建築都市設計事務所出身の小嶋伸也と小嶋綾香。現在、東京と上海の二拠点で活動する若手建築家だ。このホテルには、都心の狭小地という立地など厳しい条件を受け止め、居心地のよさや開放感を生む工夫が随所になされている。

そのひとつが、隣接するビルの隙間を縫うように各階に点在させた三角形のバルコニー。あえて屋外空間に面積を割き、窓からの風景を楽しめるよう、周辺環境を考えながら客室ごとに異なる方向にバルコニーを設けた。また同時に、縦長の建築をランダムにくり抜いたような個性豊かなファサードをつくり出している。

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12室あるツインルーム。右側の洗面台と奥のバルコニーを斜めの形状にし、客室入り口から屋外までの視線の抜けを促している。

客室のインテリアは、わずかに曲線をつけたアールの壁面によるシームレスな空間が特徴。落ち着きのあるグレーの色合いでまとめることで、窓からの自然光や間接照明をやわらかく拡散させ、広がりを感じることができる。

このほか、デザインスタジオのwe+(ウィープラス)による1階ロビーにあるアートも、宿泊者を楽しませる仕掛けのひとつ。都心の狭小地という制約をポジティブに捉え、デザインへと昇華した新しい都市型ホテルのカタチと言えそうだ。

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ギャラリーとしての活用も想定した1階のロビー。音符をイメージした柱周りの大きな円弧のアートは、we+による「Rhythm」。

ホテル ラクラグ

住所:東京都中央区日本橋本町1-7-9 
TEL:03-6628-5109 
全14室 
料金:スタンダードルーム¥23,100~
www.instagram.com/hotelrakuragu
【設計者】小大建築設計事務所
代表の小嶋伸也は1981年、小嶋綾香は86年生まれ。ふたりとも、隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て2015年に小大建築設計事務所設立。国内のみならず中国の各地でも建築設計を手がける。

※この記事はPen 2023年9月号より再編集した記事です。