犯罪小説の名手が振り返る、ほろ苦くも残酷な人生譚

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『珈琲と煙草』

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フェルディナント・フォン・シーラッハ 著 酒寄進一 訳 東京創元社 ¥1,760

社会の闇や人間の孤独を硬質な文体で描くシーラッハの小説は、ベルリンで刑事事件弁護士として活躍した経験がベースになっている。そして、もうひとつの原点がナチスの高官でユダヤ人迫害に加担した祖父の存在だ。自伝的なエッセイと依頼人たちとのエピソードを振り返ったこの本でも、抑制の効いた観察眼が冴えわたる。シーラッハ自身、酒は一切飲まないが無類のチェーンスモーカーだという。コーヒーも煙草も単なる嗜好品にあらず。残酷な現実に抗い、生き延びるための切実な処方箋なのである。

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※この記事はPen 2023年5月号より再編集した記事です。

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