グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
——3月21日、春分の日(太陽の日)に「SUN」プロジェクトの全貌が公開されましたね。NFT、アルミニウム・プリント、レコード、そして4月1日と2日には、国立競技場の大型車駐車場で、「FUTURE NAUTURE」以来の大規模インスタレーション展覧会も開催するということで本当に楽しみなんですが、まずはいま目の前にある作品集「SUN」の書籍について伺えますか?
YOSHIROTTEN:これは365部限定で、365個のアートワークを日めくりカレンダーのようにめくりながら鑑賞してもらえるアートブックです。



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——印刷も素晴らしいですね。
YOSHIROTTEN:ノリと「こういう本にしたいね」っていう話をしていたそのタイミングで、たまたまご縁があって、京都のサンエムカラーさんを紹介していただいたんです。
——タイミングも素晴らしいですね!
YOSHIROTTEN:それでノリと二人で、サンエムカラーさんへ見学に伺いました。その時は、僕の中で作品集をつくろうというのと、「SUN BOOK」をつくろうというのがあったので、どちらかを相談しに行こうと思って見に行ったんですけど。
行って初めて知ったんですけど、すごい技術を持っている印刷会社さんだったんです。通常のオフセット印刷だと175〜200線くらいの線数で印刷されることが多いんですが、サンエムカラーさんは1000線! 細かいメッシュを可能にした独自の印刷技術を持っているんですよ。
それができるとなにができるかっていうと、解像度の高い印刷物がつくれるんですよ。RGBに近いような高彩度の印刷物がつくれる。そのプリント技術を持っているのは、世界でもここだけみたいなんですよね。杉本博司さんとか、ゲルハルト・リヒターとか名だたる現代アーティストたちが、ここで作品集をつくってるんです。
——なるほど。
YOSHIROTTEN:僕は前にメイクアップアーティストのUDAさんの著書『kesho:化粧』を見ていて、メイクの繊細な、日本の美しい色をテーマにしていたのがすごく素敵で、それが印象に残ってたんですけど、その印刷を手掛けられたのが、サンエムカラーの松井勝美会長だったんです。
NORI:去年の11月くらいに、本社にお邪魔して。そこで松井会長にご挨拶して、役員の方をご紹介いただいたり。資料室もあるんですが、サンエムカラーさんが手がけられた数々の作品集のなかに、三島由紀夫の写真集『薔薇刑』もあったり。資料がまずすごくて、興奮してるうちに、ミーティングになって。オフィスだけじゃなくて、印刷所も見せてもらったんですよね。
YOSHIROTTEN:そうですね。製版の現場も見せてもらいました。
NORI:有名な展覧会のポストカードをその場で刷ってたりして。
YOSHIROTTEN:なんでそこで(アート系の)印刷物が刷られているかっていうと、最高峰の印刷技術と、色の再現性が高いっていうところで。今回の「SUN」のプロジェクトは光と色をテーマにしているから、まさにという感じで。
前回の対談でも話したように、「SUN」はシルバーの太陽だから、メタリックなシルバーのカバーにしたいというところから相談しました。
NORI:日本というか世界でトップクラスの印刷技術なんですよね。

——本紙校正とかはどのようにやってたんですか?
YOSHIROTTEN:基本的には東京に送ってもらってたんですが、表紙だけ現場へ刷りだしを見に行って。そのときはノリはいけなかったので、僕とカメラマンで。
最初に刷り出し見本を見たときは、ちょっと「え?」っていう感じだったんですよ。それは8Kを使ってたんですけど、どうやらメタリックな印刷は8Kより4Kのほうが合うっていうことが分かって。その場で版を変えて、印刷の手法も変えて刷りだし直したんです。
そうなった経緯は、ちょっとザラザラしていてグラデーションが綺麗に出てなかったんで、松井会長にラップトップを持っていって、「こういう風にしたいんですよね」って相談したら、「ぜんぜん違うやんか。すぐ製版行くぞ」って、版を変えてもらったという。
——最初8Kで進めていたのは、どうしてだったんですか?
YOSHIROTTEN:写真とかだと、8Kのほうがより細かいから再現性が高いんです。僕の作品は、写真じゃないから、グラデーションを使うことによって、線数が細かいほど粗が出てしまったんですよね。それは発見だったんですけど。
NORI:インクの網の数が、8Kだと網点同士が重ならなくなるみたいなんですよね。グラデーションは多少重なってるほうが、綺麗に見えるみたいですね。印刷技術もすごいし、厚みも6センチくらいある、辞書みたいな本ができあがりました。


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——制作期間はどれくらいかかったんですか?
NORI:実際の制作自体は1カ月くらいだったんですけど。仕様を決めるのに結構、時間がかかりましたね。
YOSHIROTTEN:全面は箔で、装丁はドイツ装の糸かがりで、分厚い銀色のメタリックのカバーです。


——読書体験みたいなところは、どういうデザインで考えてました?
YOSHIROTTEN:元々、365個の「SUN」を日めくりカレンダーみたいに見せていこうっていうところがあって。一日一日を重ねていくと、自然とこんなに分厚くなりました。日付があって、毎日「SUN」をめくりながら見れる。結果、本っていうより、これそのものが作品だよねっていうような感覚で。どういうつくりにしようか?って考えていきました。
NORI:いまのところ全部の「SUN」を手元に置いておけるのはこれだけ。
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“SUN” YOSHIROTTEN INSTALLATION 2023
数十体のモノリス型「SUN」と、巨大LED スクリーンやプロジェクションを駆使した映像、そして環境音楽などで構成されるインスタレーションが4月1日〜2日に開催される。
前日に行われる3月31日のレセプションでは、マヤ文明の音楽をAIを使ってメキシコの研究機関と作り出したミュージシャン「DEBIT」とYOSHIROTTENの音楽ユニットYATTの相方である「Takayuki Isayama」によるライブが行われる。その模様は、SUNオフィシャルインスタグラムからライブ配信を予定。

インスタグラムライブ配信
開催日時:3月31日(金)19時〜
LIVE: DEBIT (MODERN LOVE) 7PM-(30min) , Takayuki Isayama (YATT) 8PM-(30min)
LASER: YAMACHANG(REALROCKDESIGN)
URL: https://www.instagram.com/sun_nwoi/
“SUN” インスタレーション
開催日時:4月1日(土)12:00~21:00
4月2日(日)12:00~17:00
開催場所:国立競技場 大型車駐車場(東京都新宿区霞ヶ丘町10-1)
入場料金:無料
URL:https://sunproject.ydst.io/
NON FUNGIBLE TOKEN
365 日間をかけて色彩が変化するNFT。「SUN」NFT 所持者に向けた独自のユーティリティが計画されている。

ORIGINAL ALUMINUM PRINTS
YOSHIROTTEN の作品群にとって主要なメディアであるアルミニウムにプリントされた「SUN」。A1サイズ。複製はなく、365点それぞれ違う。

VINYL RECORD
YOSHIROTTEN と共に音楽ユニットYATT として活動する、Takayuki Isayama による「SUN」環境音楽がプレスされたレコード。約20 分間の楽曲が収録されている。片面は逆再生を収録。

ACRYLIC MINI MONOLITH
A5 サイズ、厚み5cm のアクリル製小型モノリス。

YOSHIROTTEN「SUN」PROJECT
HP:http://ydst.io/sunproject
INSTAGRAM:https://www.instagram.com/sun_nwoi/
Twitter:https://twitter.com/SUN_NWOI
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神出鬼没のアートプロジェクト「SUN」。その全貌が徐々に明かされていく…?

グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR