TRIP#2 YOSHIROTTEN×NORI対談
限定500冊のアートブック『ヴェルク(WERK)』をめぐって

  • 編集:穂上愛
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©WERK MAGAZINE

グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

NORI 先月、香港の「THE SHOPHOUSE」でやっていた個展 “Cityscape Resolution – Hong Kong”の展示をまとめたアートブック『ヴェルク(WERK)』がついに届きましたね。

YOSHIROTTEN  『ヴェルク』は展示した作品と、「THE SHOPHOUSE」のためにつくったアートワークの大きくいうと二部構成。「THE SHOPHOUSE」のためにつくったアートワークは、「THE SHOPHOUSE」が改装中の写真をもらって、その写真のなかに入っていった作品で、それが中面の合間合間に入ってる。
それらを『ヴェルク』のアートディレクターでデザイナーである、テセウス・チャン(Theseus Chan)が料理するっていう。その料理に僕は期待してたんで、全部おまかせでとくに何も言わず、作品画像だけ渡したらこういうのが出来上がってきた。

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カラーチャートやトンボも残されたまま。裁断された紙の生々しさと手触りが伝わる装丁だ。
『WERK Magazine No.29: THE SHOPHOUSE with YOSHIROTTEN』¥11,550 272mm x 315mm 中綴じ 全160ページ 500部限定。
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「THE SHOPHOUSE」改装中の写真を使ったアートワーク。
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写真家・森山大道が撮影した「新宿」シリーズをリワークした作品。
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ウォン・カーウァイ作品の元フォトグラファーとして知られるウィン・シャ(Wing Shya)とのコラボレーション作品。
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NORI すごい本の作りですね。どうなっているのか、実際に手に取らないと100%は伝わらないですね。

YOSHIROTTEN 基本的に『ヴェルク』って、手作業を取り入れた本の装丁をしてるから、部数が本当に少ないんだよね。今回は500部なんだけど、場合によってはもっと少ない号とかもあるんじゃないかな。手にとって見て欲しいけどね。もう売り切れてるところもあったりして、なかなか。

NORI ヨシローくんから最初にこの話を聞いたとき、すごい興奮してるなって思ったんですけど(笑)。いつくらいから『ヴェルク』に思い入れがあったのか、改めて聞きたいです。

YOSHIROTTEN 僕は結構、本を買ってるんですよ。アートブックだったり、海外へ行ってもZINEみたいな本をいっぱい買ってきていたし。日本でも60年代、70年代のアバンギャルドなアーティストたちの本を、ヤフオクで探ったりするライフワークもあって。
そんななかで、何年前かな? 10年以上前になると思うんだけど、この『ヴェルク』に出会って、衝撃的だった。まずこの本のつくりと、一切説明がないんですよ。説明的なものは最初のクレジットくらい。基本的にはビジュアルだけで成り立っていて。頭から終わりまで、“読む”っていうか“体感する”っていうか。そうしたときに、すごいおもしろいことやってるなっていうのと、この装丁どうやってるんだろう? とか、グラフィックデザイナーとしての自分の心もくすぐられるし。ずっと追っかけてた人って感じですね。あとはギャルソンとか、これはメンフィスの人たちなんですけど、まずは好きなアーティストたちの特集号みたいな形でも出していて。

NORI 本当に錚々たるラインナップですね。過去にはドーバーストリートマーケットやイーリーキシモトだったり、田名網敬一さんも手がけてるんですね。

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『ヴェルク(WERK)』のバックナンバー。2000年の1号目から現在まで全29号を発行している。
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YOSHIROTTEN 本のなかにタグみたいなのがついていて、日本語で注意書きが書いてあるんですけど、“一冊ずつ手づくりで作られているので、不揃いであっても不良品ではない”というような注意書きが書かれてあって、それもいいなって思って。

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NORI (バックナンバーを手に取りながら)これなんて分厚いから重いのかと思ったら、めっちゃ軽い。

YOSHIROTTEN インクの滲みや汚れなど、印刷でできたこの自然現象っていうのをすごく大事にしていて、そういうフィジカルなところを大切にしているところも、好きですね。

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WERK Magazine No.26: BETON BRUT "THE BRUTALIST"の中面。©WERK MAGAZINE

──どれくらいの刊行ペースなんですかね?

NORI 年に1冊から2冊くらいみたいですね。

YOSHIROTTEN 最近だと、この号は久しぶりだったんじゃないかな。今回の号は、投げ込みのポスターが入っていて、これもすごいことになってるんですけど。中面で閉じられているページが、断裁する前の色校正を入れているんだと思うんですよね。おまけで入れちゃおうっていう。

NORI 本をつくっているときのやりとりは、「THE SHOPHOUSE」を通してやっていたんですか?

YOSHIROTTEN そうだね。テセウス(・チャン)には、ほぼおまかせっていう感じでデータを渡していたので。インスタのダイレクトメッセージで、「最高だね!」っていうやり取りをしたくらいかな。
『ヴェルク』で自分の特集号をつくってもらえたことは、例えるなら「オール・トゥモローズ・パーティーズ」(※イギリスのオルタナティブ・ミュージックの祭典)に出れた、みたいな感じかな(笑)。

NORI  やっぱりPDFで見るのと実物では、全然違いますね。意外と素材自体には手を入れてないみたいですね。

YOSHIROTTEN うん、全然入れてない。使用する写真は自分で決めて送っていたし。映像作品には入っているけど、展示はしていない作品だったりも渡していて。
あとは、この本のためにLEDの撮影をした作品が後半のほうに入っていて。日本人の写真家のMANA HIRAIに撮ってもらったんだけど、これも僕的には大事だった。“解像度”っていうところで、LEDのモニターにめちゃくちゃ寄ってもらって、解像度が出るように撮影しました。

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NORI かなり手が込んだ撮影なのに、そういう説明が一切書いてないのも、渋くていいですね(笑)。ヨシローくんが次にやりたい出版物とかあるんですか?

YOSHIROTTEN 自分の作品集を年内に出そうと思ってる。過去のクライアントワークとエキシビジョンワークの二軸で活動した自分の作品を、どちらも見れるようなものにしたい。
やっぱりインターネット上で流れていく情報じゃなく、本みたいにずっとあり続けるっていうのが大事だと思っていて。今回の『ヴェルク』もそうだけど、なにかの形になっているというのはよかったなって。何十年後とかに、だれかがまた手に取ったときに意味があるなって思うので。世界中で500人しか手に取らないって、奇跡のような出会いでもあるし。そういうのが、自分が本つくったりZINEつくったりしている理由かな。

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500部限定のエディションナンバー入り。表紙の裏に印刷されたQRコードから、ミュージシャンTAKAKAHNによる“CITYSCAPE RESOLUTION”のサウンドトラックを聴くことができる。
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NORI 今回、ヨシローくんのを見せてもらってばっかりだと悪いなと思って、僕も一冊持ってきました(笑)。2020年の7月に、渋谷パルコのギャラリー「OIL by 美術手帖」であった展覧会「PARALLEL ARCHEOLOGY」で販売していたアートブックです。
東京のアーティストのBIEN、ロンドン在住のLucas Dupuy、東京・世田谷にあるショップ「Out of museum」のオーナーでアーティストのMakoto Kobayashiの3人それぞれの収集品と作品をミックスした展示で、BIENがキュレーションしてました。
まず展覧会があって、その展覧会の様子を写真に収めてこのアートブックをつくっているんですけど。これも100部限定とか。分厚い生のスクラップブックのような体裁なんですが、BIENと沼田創くんって本のデザイナーや友人たちですべて手作業で製本したって言ってました。

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まさにスクラップブックのような体裁の「PARALLEL ARCHEOLOGY」表紙。

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「PARALLEL ARCHEOLOGY」の中面。ひとつひとつ手作業で貼り付けたイメージが、コラージュされている。

YOSHIROTTEN 宝物になるね。こういう本を持つのって。

NORI 宝物ですね。展覧会自体もすごく良くて。2年前ですけど、いまも記憶に残ってますね。これは「収集癖のある作家」だからこそできるキュレーションと内容で、自分にはどう頑張っても無理と思って悔しかったな。ステートメントもいいですよ。

「PARALLEL ARCHEOLOGY」とは、ひとつの時間軸や価値観で定義されない考古学という意味である。本来モノには作られた意味や固有の文脈が存在するが、PARALLEL ARCHEOLOGYではそこから離れて、個人個人の観点でそのモノの意味や文脈を切り離し、個人の価値観で再定義する。それはモノを一つひとつの単体として考えるのではなく、収集していく過程で個人的な文脈を育て、コレクションをひとつの物語として再認識するということだ。

つまりモノを収集するアーティストにおいては、そのような「モノから物語を紡ぎ出していく」過程のなかで、物語の分岐点(ターニングポイント)としてアート作品の制作という行為が生まれくるのだ。

※ステートメント一部抜粋

YOSHIROTTEN (ステートメントを読んで)自分が物を作るときって、アートの歴史やトレンドだけじゃなくて、自分がどうであったか、何を見てきたかっていうところに行き着く。そういったものの収集っていうことだと昨年開催したグループ展「CHAOS LAYER」がまさにそうで。インスタレーション作品“CHAOS DESK”に、KOSUKE KAWAMURA、GUCCIMAZE、自分の3人が、過去に集めていたものや影響を受けたものを集めたんだけど。その蓄積が、自分たちのルーツでもあり作品の一部でもあると思う。

──これからの活動予定は?

YOSHIROTTEN 3年ぶりの東伊豆で開催される「RAINBOW DISCO CLUB」で、インスタレーション"SUN"を行いますよ。

NORI 現地で合流しましょう!

※次回の「TRIP」ではインスタレーション"SUN"について詳しくお届けします

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YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


Official Site / YAR

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グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


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