今月のおすすめ映画①『別れる決心』
韓国随一の鬼才が描く、奇妙でスリリングなラブロマンス
グレート・ウィアード・ムービー! 韓国随一の鬼才、パク・チャヌクの最新作は、不条理劇のような奇妙な味わいに満ちた異色のミステリーにしてラブロマ
ンスだ。本作は2022年カンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたが、円熟以上に尖鋭性が際立ち、一筋縄ではいかない展開に眩惑させられること必至。底なし沼にハマるように何度も観たくなる破格の面白さに震える。
物語は刑事の男と容疑者の女が惹かれ合う“禁断の愛”を描く。釜山の警察に勤務する生真面目な刑事チャン・ヘジュン(パク・ヘイル)は、岩山の頂から転落死した男の事件を追ううち、被害者の妻である中国人女性、ソン・ソレ(タン・ウェイ)の魔性に魅せられていく……。
ベタなメロドラマにもなりかねない題材だが、シュールな映像美でスリリングな道行きを見せる。パク・チャヌク監督作では、吸血鬼神父と人妻の数奇な愛の行方を描いた『渇き』と共通する要素が多い。また刑事の男性が女性(の幻影)を追いかけて迷宮状態を彷徨う展開は、ヒッチコックの『めまい』、山岳事故で夫を亡くし、殺人を疑われるヒロイン像は増村保造の『妻は告白する』を連想させ、さらにヴィスコンティの『ベニスに死す』と同じマーラーの交響曲第5番が、主題歌の韓国歌謡「霧」と並び繰り返し流れる。
広大な映画史との接続も濃密に感じさせる中、『ラスト、コーション』で鮮烈な印象を残したタン・ウェイのファム・ファタールぶりが圧巻だ。韓国語が苦手な彼女はスマホの翻訳アプリも用いて会話する。言葉のズレは、主人公ふたりの不安定な関係性の表象のようでもある。
多様な解釈を呼ぶ作品設計は、脳がじんじんする刺激を与えてくれる。ラストシーンの甘美かつ残酷な白日夢のごとき光景は、きっと一生忘れられない。
『別れる決心』
監督/パク・チャヌク
出演/パク・ヘイル、タン・ウェイほか
2022年 韓国映画 2時間18分 2/17よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
---fadeinPager---
今月のおすすめ映画②『エンパイア・オブ・ライト』
田舎町の映画館を舞台に、過酷な現実と希望を描く物語
『ニュー・シネマ・パラダイス』を連想させる映画愛に、社会派の緊張を込めた名匠サム・メンデス監督の詩情あふれる逸品。1980年代初頭のイギリス海辺の町にある映画館、エンパイア劇場で働く孤独な女性をオリヴィア・コールマンが熱演。彼女と心を通わせる青年役のマイケル・ウォードも素晴らしい。サッチャー時代の右傾化を背景に人種差別など過酷な現実を映し出しつつ、生きる希望の光を探す。当時の映画や音楽などディテールも効果的だ。
『エンパイア・オブ・ライト』
監督/サム・メンデス
出演/オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォードほか
2022年 イギリス・アメリカ映画 1時間55分 2/23よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
---fadeinPager---
今月のおすすめ映画③『ボーンズ アンド オール』
ティモシー・シャラメが“人喰い” に、異色のボーイ・ミーツ・ガール
ルカ・グァダニーノ監督が『君の名前で僕を呼んで』に続いて、ティモシー・シャラメを主演に迎えた衝撃作だ。1988年のアメリカ中西部。「人喰い」の衝動を抱えた若者同士が、逃避行の旅を繰り広げる異色のボーイ・ミーツ・ガールを描く。ロードムービー仕立ての中で、青春の抒情とホラーの禍々しさが交錯する独特のジャンルミックス。ヴェネチア国際映画祭で監督賞に加え、ヒロイン役を鮮烈に演じるテイラー・ラッセルが新人俳優賞に輝いた。
『ボーンズ アンド オール』
監督/ルカ・グァダニーノ
出演/ティモシー・シャラメ、テイラー・ラッセルほか
2022年 アメリカ映画 2時間10分 2/17より全国の劇場にて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。