1. PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ)
ノーチラス 5811/1
ラグスポの代名詞として不動の地位を誇る名作は、巨匠ジェラルド・ジェンタによるデザイン。こちらの新作は、ステンレス・スチールケースの3針「ノーチラス」をホワイトゴールドケースで復活させ、横幅は1㎜プラスし、薄さは8.2㎜へとアップデート。外周に向かって深みを増すブルーのグラデーションダイヤルも美しい。
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2. HERMÈS(エルメス)
エルメス H08
2021年にデビューした「エルメスH08(エイチ・オーエイト)」コレクションは、直線と曲線を駆使した斬新なクッションフォルムが特徴。「08」は無と無限を意味する。ベゼルは放射状のヘアラインを施し、文字盤はラメをまぶしたかのような独特の質感で、細部への仕上げも凝っている。軽量でありながら加工が難しいチタン素材をサテンとポリッシュで磨き分けたブレスレットも秀逸だ。
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3. PIAGET(ピアジェ)
ピアジェ ポロ デイト
クッションシェイプのダイヤルに丸形のベゼルを組み合わせた独創的なスタイルで、ケースは、ポリッシュとサテンに美しく磨き分けたブレスレットと一体化。ケースの厚みを9.4 ㎜にまで抑制できる秘密は、4㎜の極薄に仕上げた自社製の自動巻き「1110P」ムーブメントだ。サファイアクリスタルのケースバックからのぞく、ピアジェの紋章が刻印されたローターの装飾も圧巻。
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丸形でも角形でもない独特の形状が見る者を惹きつけるクッションシェイプのケース。手元に確かな存在感と個性を添えつつも、どこか優雅でクラシカルな佇まいが大人の品格を誇示してくれる。
実はクッションシェイプの歴史は古く、およそ100年は遡る。1910年代の後半には最初のブームらしきものが訪れていたであろうことが、アンティーク市場の品々からもうかがわれる。当時一世を風靡したのが俗に「デニソンケース」の名で知られる、英国デニソン社製のケースだ。ウォルサムやロレックスらに採用されたことから、ヴィンテージのクッション型ウォッチはいまも不動の人気を誇る。それまで主流であった懐中時計はポケットから引っぱり出すために、角のない丸形が必然だった。一方で腕時計にはそうした制約がなく、むしろ丸形でないことが、当時の英国では最新スタイルの象徴であったのだろう。
時は流れて1976年、パテック フィリップは初のスポーツウォッチ「ノーチラス」に、八角形をベースにした独特のフォルムを選択した。79年に初代が誕生したブレスレット一体型の「ピアジェ ポロ」は、幾多の変遷を経て2016年発表の「ピアジェ ポロ 」以降、クッションシェイプを採用。ピアジェならではの薄型を探究している。エルメスは21年に「エルメスH08」をラインアップに加え、新たなスポーツウォッチ市場を開拓。1世紀を超えて愛され続けたクッションシェイプは、「薄型」という進化を纏い、次なるステージへと移行している。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。
※この記事はPen 2023年1月号より再編集した記事です。