1. OMEGA(オメガ)
コンステレーション
象徴的な爪のデザインを施したブルーセラミック製ベゼルには、ホワイトのグラン・フー・エナメルでローマ数字インデックスを焼成した。透明感のある白エナメルと純白のセラミック製ダイヤルとが一体となり、ポリッシュ仕上げしたツヤのある青との絶妙なコントラストを描く。15000ガウス以上の超高耐磁性能を誇るMETAS認定の高精度ムーブメントを搭載。
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2. ULYSSE NARDIN(ユリス・ナルダン)
マリーン トルピユール トゥールビヨン
ペールホワイトの文字盤にブルーのローマ数字が映える新モデルは、エナメルの手練ユリス・ナルダン会心の作だ。SS製のケースながら、トゥールビヨンと傘下の名工房ドンツェ・カドラン社製のグラン・フー・エナメル文字盤を纏った。アンカー形の自社開発脱進機を組み込んだトゥールビヨンケージ、対置してレイアウトされたパワーリザーブ・インジケーターなど、細部の意匠も光る。
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3. JAQUET DROZ(ジャケ・ドロー)
グラン・セコンド トゥールビヨン アイボリー エナメル
淡くやわらかなアイボリーカラーのグラン・フー・エナメル文字盤に永遠のシンボル(∞)を描き、その一方の円をうがった空隙からブルースチールの秒針を備えたトゥールビヨンのケージがのぞく。複雑機構を眉目秀麗に仕上げるさまは、近年ではまれとなった社内にエナメル工房をもつジャケ・ドローならでは。超ロングパワーリザーブのムーブメントも魅力。
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スポーツウォッチ全盛の裏で、密かに注目されているのがクラシック時計の“進化”だ。スイス時計業界で受け継がれてきた「グラン・フー」エナメルは、フランス語で「大きな炎」を意味する通り、800℃を超える高温焼成でフィニッシュする伝統の製造技術。文字盤への用途が一般的だが、近年ではベゼルにも応用したりトゥールビヨンを併存させるなど、腕時計のデザイン性に豊かなアクセントを加えるとともに、独特の風合いが見る者を魅了する。その一方で、歩留まりはめっぽう悪く、製造できるメーカーも限られている。
グラン・フー・エナメルの歩留まりが悪いのには理由がある。通常、真鍮やゴールドといった金属製のベースの上に釉薬を掛け、焼成するのがエナメル文字盤だ。その工程を経て、金属を含む釉薬の成分はガラス質に変化して硬化し、文字盤全体を覆う。深みを出すため、施釉と焼成の工程は一度とは限らない。そのプロセスの中で、金属盤であるベースは膨張と収縮を繰り返してガラス質に緊張を与え、盤自体も少なからず変形する。冷めないうちに平板に整え、しかも美しいガラス質を守らなければならないのだ。
そんなグラン・フー・エナメルには、ローマン・インデックスがよく似合う。腕時計のローマ数字は通常の表記と異なり、4を4本棒で表す独特のものだ。伝統を正しく守るアワーマーカーが、手作業による美しきエナメルの風合いと呼応する。その佇まいは時計の歴史そのものであるような、名共演と言えるだろう。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。
※この記事はPen 2022年11月号より再編集した記事です。