ダイアナがチャールズとの離婚を決意した3日間を描く。『スペンサー ダイアナの決意』ほか

  • 文:細谷美香(映画ライター)

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今月のおすすめ映画①『スペンサー ダイアナの決意』
ひとりの女性として描く、ダイアナの苦悩と解放のプロセス

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没後25年となる今年、ダイアナの結婚から死までを追いかけたドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』も9月30日に公開。パパラッチに追いかけられる様子も収められており、セレブリティとマスコミの関係など、現代に通じる問いも投げかけられている。 © Pablo Larrain, 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED

スペンサー伯爵家の令嬢として生まれ、20歳でチャールズ皇太子と結婚したダイアナ元皇太子妃は、まるで生き急ぐようにわずか36歳でこの世を去った。

『スペンサー ダイアナの決意』は実話をベースにしているが、彼女の人生をなぞった作品ではない。フォーカスが当てられているのは、夫の不倫によって夫婦関係がほころび、拒食症を患っていた頃のダイアナの姿だ。舞台はエリザベス女王の私邸。ロイヤルファミリーや息子たちとクリスマスの3日間を過ごすことになった彼女は、子ども時代を過ごした屋敷が残る地で、大きな覚悟を決める。

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© Pablo Larrain

パブロ・ラライン監督は『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でもそうだったように、ひとりの女性の苦悩に寄り添い、精神の暗い森へと分け入って奥深い場所へと潜り込んでいく。すべてをコントロールされる王室に馴染めず、不安定な心を持て余しているダイアナ。彼女の首には呪縛の象徴のように大粒の真珠のネックレスがまとわりつき、ときには悲劇の王妃、アン・ブーリンの亡霊がゆらりと立ち現れることもある。全編に宿っているのは、観る者に主人公の息苦しさを生々しく体感させる、ラライン監督の作家性だろう。

不協和音が鳴り響いて現実と幻が交錯するなか、ダイアナから息子たちに注がれる愛だけが、たったひとつの確かなものだ。母と子で過ごしたベッドルームでのわずかだけれど温かな時間が、彼女の決断を後押しする。ダイアナ役のクリステン・スチュワートは、彼女の話し方や仕草を完璧に身につけ、抑えた芝居で失望や苛立ち、痛みなどあらゆる感情を表現した。溺れそうな自分を引き上げ、自分の歩幅とスピードでいまを駆け抜ける。最後に描かれる解放の瞬間は、気高くも清々しい。

『スペンサー ダイアナの決意』

監督/パプロ・ラライン
出演/クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシングほか
2021年 イギリス・ドイツ映画 1時間57分 10月14日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『アフター・ヤン』
ロボットと家族をめぐる、記憶の断片をつなぐ物語

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© 2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.

人型ロボットがベビー・シッターを担っている近未来。ある夫妻の中国系の養女が慕っていた、ロボットのヤンが故障してしまう。修理の過程で見えてきたのは、ヤンから家族への温もりにあふれた眼差しだった。小津安二郎を敬愛するコゴナダ監督がA24とタッグを組んだ、心でつながるロボットと人間の物語。記憶の断片をめぐるミステリアスで美しい旅が、穏やかで澄んだ空気感で描かれる。余情のあるオリジナルテーマ曲を手がけたのは坂本龍一。

『アフター・ヤン』

監督/コゴナダ
出演/コリン・ファレル、ジョディ・ターナー= スミスほか
2021年 アメリカ映画 1時間36分 10月21日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『愛する人に伝える言葉』
末期ガンに侵された男とその母が、死と向き合った先で見つけたもの

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© Photo 2021: Laurent CHAMPOUSSIN - LES FILMS DU KIOSQUE

膵臓ガンを患い、母とともに名医のもとを訪ねたものの「治せない」と宣告されたバンジャマン。彼はときに自暴自棄になりながらも、やがて現実と対峙していく。母親のなかに渦巻く後悔をすくい取りながら、死と向き合う主人公を見つめた人間ドラマ。カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメルが共演し、実際のガン専門医も出演。旅立つ者と残される者、死を目前にした人たちの命の灯が、生き切るためのヒントを授けてくれる。

『愛する人に伝える言葉』


監督/エマニュエル・ベルコ
出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメルほか 
2021年 フランス映画 2時間2分 10月7日より新宿ピカデリーほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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※この記事はPen 2022年11月号より再編集した記事です。