禁酒法以前はアメリカンウイスキーの主役の地位にありながら、現在ではバーボンウイスキーの影に隠れた存在となってしまったライウイスキー。そんなライウイスキーの復権を目指すのが「ホイッスルピッグ」だ。
2007年の誕生以来、その革新性とクオリティでウイスキーファンを驚かせ、世界的な酒類コンペティションでも数々の賞を受賞するなど、いまや世界を席巻するプレミアム・ライウイスキー。日本のウイスキーファンにとってはベールに包まれていたその誕生から現在までを、来日した「ホイッスルピッグ」ディスティラー兼ブレンダーのミッチ・マハールさんに聞いた。
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—— 日本へようこそ。マハールさんは今回が初めての来日とのことですが、普段ホイッスルピッグではどのような役割を担っておられるのですか?
マハール 日本に来ることができてとても嬉しく思っています。私のホイッスルピッグでの役割はディスティラー兼ブレンダー。日々蒸留所でつくる原酒ともともと我々が持っている原酒の両方の特長をよく知り、それらをどのようにブレンドすればより相乗効果を発揮するかを考えながら、製品を開発するのが私の仕事です。今回はホイッスルピッグのプロモーションを兼ねて、日本の素晴らしいバーテンダーの皆さんにお会いするために来日しました。
—— 最近ではアメリカ産のモルトウイスキーなども注目されていますが、日本で最も人気があるアメリカンウイスキーといえばやはりバーボンウイスキーです。ホイッスルピッグはほぼライウイスキーだけをつくるという珍しい蒸留所ですが、そもそもアメリカの人たちにとってライウイスキーとはどのような存在なのですか?
マハール バーボンウイスキーがこれほどまでにポピュラーになった背景には禁酒法の影響があります。アメリカでは1920年から10年以上、飲用アルコールの製造や販売などを全面的に禁止する禁酒法が施行されました。禁酒法以前のアメリカでは、ライウイスキーがバーボンウイスキーを凌ぐ人気を誇っていたのです。
ところが禁酒法解禁後、カナディアンウイスキーのようなライトタイプのウイスキーに人々の好みが移ったことや、バーボンウイスキーの主原料であるトウモロコシの生産を政府が優遇したことなどが重なり、一気にバーボンウイスキーの人気が高まりました。結果、ライウイスキーはバーボンウイスキーの陰に隠れた存在となってしまったのです。
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—— そうしたなかで2007年に設立され、プレミアム・ライウイスキーというカテゴリを確立するなど、ライウイスキーの復権に大きな貢献をしてきたのがホイッスルピッグだと思います。ホイッスルピッグのようなプレミアム・ライウイスキーは、アメリカではどのような人たちにどのようなスタイルで飲まれているのですか?
マハール ふた通りのスタイルがあると思います。まずは、熟成感のある深い味わいのウイスキーを好まれる古き良きウイスキーファン。彼らはストレートかワンキューブのアイスを入れたロックなどのスタイルでホイッスルピッグを楽しまれています。対して、特にアメリカの都市部では、若い世代を中心にカクテルを好む方が多く、そうした方々にはホイッスルピッグを使ったカクテルも大人気です。
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ライウイスキーの可能性に賭けた、伝説のマスターディスティラー
—— ホイッスルピッグの創業者であるデイヴ・ピッカレルさんは、メイカーズマークのマスターディスティラーも務めるなど、業界ではとても著名なつくり手です。そんな彼がライウイスキーに注目してホイッスルピッグを立ち上げたことには、どのような理由があったのでしょうか?
マハール ひと言でいえば「ライウイスキーの可能性を多くの人に知らしめたかったから」だと思います。残念ながら2018年に亡くなってしまいましたが、デイヴは素晴らしい蒸留家でした。蒸留の技術はもちろん、ウイスキーの味わいや歴史までを本当に深く理解し、私たちに色々なことを教えてくれました。
彼がよく話していたのは「アメリカのウイスキーはバーボンウイスキーだけではない」ということ。もちろん美味しいバーボンウイスキーはたくさんありますが、ウイスキー自体の味わいをより強く主張できるのはライウイスキーだろうと。偉大なウイスキーのつくり手であるデイヴが、そうしたライウイスキーの可能性に賭けて生み出したのがホイッスルピッグなのです。
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—— ホイッスルピッグはバーモント州のショアハムに、500エーカーにもなるという広大な農場兼蒸留所(ホイッスルピッグファーム)を所有されています。ショアハムとはどのような場所なのですか?
マハール 東と西を山々に囲まれ、一面にライ麦畑が広がるとても美しい場所です。私たちはそこにあるファームでライ麦の栽培から仕込み、蒸留や熟成、ブレンドといったプロセスを全て自分たちの手で行なっています。 ケンタッキーでつくられるバーボンウイスキーでは、原料となる穀物の51パーセント以上にトウモロコシの使用が義務付けられています。
対して、ライウイスキーでは51パーセント以上のライ麦の使用が義務付けられていますが、ホイッスルピッグではほぼ100パーセントの割合でライ麦を使用しています。そうしたライ麦比率の高いマッシュビルから生まれる、豊かな味わいがホイッスルピッグの特長です。
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—— たしかにホイッスルピッグのウイスキーは、スパイシーで味わいが驚くほどリッチですね。一般的なバーボンウイスキーやライウイスキーの熟成は長くても8年ほどですが、10年以上の熟成を経て商品化されるのもホイッスルピッグの特長だと思います。ほかにも、ホイッスルピッグのウイスキーづくりにおけるスペシャルな点を教えていただけますか?
マハール 我々はデイヴから、伝統的なウイスキーの製法からモダンな手法まで、様々なことを教わりました。なかでも彼の教えで最も大切にしていることは、ウイスキーの新しい味わいを追求するために常に挑戦するということです。たとえば、私たちは自分たちのファームで栽培したライ麦をはじめ、様々な品種のライ麦を使ったウイスキーの仕込みに挑戦しています。
また、バーボンウイスキーの場合はオークの新樽での熟成が義務付けられていますが、ライウイスキーでは様々な樽を熟成に使用することができます。ホイッスルピッグでは、バラエティ豊かなワイン樽や、ラム樽にメスカル樽、さらには日本の焼酎樽まで、あらゆる樽でのフィニッシュを実験的に試みるなど、イノベーティブなウイスキーづくりを行なっています。
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—— マッシュタン(糖化槽)やファーメンター(発酵槽)、蒸留器などの設備はどのようなものですか?
マハール マッシュタンもファーメンターもステンレス製で、発酵の際に投入する酵母は主に、ライ麦に特有のベイキングスパイスやブラックペッパーのような香味を引き立ててくれるディスティラリーイースト(蒸留酒用酵母)を使います。また、ファーム内の野生酵母を栽培して実験的に使用するなど、酵母についても様々なチャレンジを行なっています。
そして2基の蒸留器はデイヴが細かな注文をして完成させたオリジナルで、アメリカで最も有名なウイスキーの設備会社であるヴェンドーム社が手掛けたもの。内部に8段のシーブトレイがあり普段は連続式で蒸留を行いますが、シーブトレイを使わずスコットランドや日本のモルトウイスキーのように単式での蒸留も可能です。
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日本で飲めるホイッスルピッグ。その味わいは?
—— お話を聞いていてホイッスルピッグの深い味わいの秘密やその革新性がよくわかりました。最後に、日本でリリースされている「ホイッスルピッグ10年 スモールバッチ・ライ」、「ホイッスルピッグ 12年 オールドワールド・ライ」、「ホイッスルピッグ 15年 エステーオーク・ライ」について、それぞれマハールさんからコメントをいただけますか。
マハール ありがとうございます。まず「ホイッスルピッグ 10年 スモールバッチ・ライ」ですが、これは禁酒法以前に飲まれていた“正真正銘のライウイスキー ”をイメージしてつくりあげたもの。味わいはビッグでパワフル。ブラックペッパーや焼き菓子、ベイキングスパイスなど、ライウイスキー特有のスパイシーさやトフィーのような風味が楽しめます。ストレートやロックはもちろん、こちらはオールドファッションドなどのカクテルで楽しんでいただくのもいいと思います。
次の「ホイッスルピッグ 12年 オールドワールド・ライ」は、我々のイノベーションをショーケースするようなウイスキーをつくろうというアイデアから生まれた製品です。オーク樽での12年間の熟成を経た原酒を、ポルトガルのポートワイン樽とマデイラワイン樽、フランスのソーテルヌワイン樽という3種のワイン樽でフィニッシュ(追加熟成)させました。フィニッシュに使用したそれぞれの樽に特徴的な香りが次々に現れ、飲めばまた味わいがどんどん変化していく。私たちのイノベーションを象徴する素晴らしいウイスキーだと思います。
そして「ホイッスルピッグ 15年 エステート・オーク・ライ」は、我々のファームがある「バーモント州のテロワールを表現したい」という思いが形になったもの。こちらは10年以上の熟成を経た原酒のなかから最高のものを厳選し、ファーム内やその周辺で伐採したオーク(バーモント・エステート・オーク)の樽で追加の熟成を行なっています。
アメリカのなかでもバーモント州は気候が寒く、木がゆっくりと育つため年輪が詰まったオークになります。そんなバーモント・エステート・オークでつくった樽で熟成したウイスキーには、不思議なことにスコッチでよく見られるスモーキーな燻製香が現れます。そうしたほのかなスモーキーフレーバーやマシュマロのような甘さが「15年」の特長。リッチでありながら繊細な香りや味わいを、ぜひ思い思いのスタイルで楽しんでいただきたいですね。