ロシア人観光客、防空システムS-400の位置をうっかり漏洩 記念撮影で

  • 文:青葉やまと
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無邪気な観光客の写真は、ロシアの軍事機密だった...... Defense of Ukraine-Twitter

<ご機嫌な水着姿の老紳士。その背後その後方に映り込んでいるは、ロシア軍のS-400「トリウームフ」対空防衛ミサイルだった......>

一枚の記念写真が、ロシアの軍事機密をウクライナ側に暴露する形となった。

ロシアによって強制的に併合されたクリミア半島には、ロシア人観光客に人気の観光スポットが点在する。そのひとつ、エフパトリアの街の郊外を訪れた男性観光客が、図らずもロシア軍の対空防衛システムの所在地を明かすこととなった。

男性は砂地に立ち、カメラに向かってリラックスした様子でポーズを決めている。ほぼ全裸に水着一枚という出立ちで、観光を満喫している様子がうかがえる。だが、その後方に映り込んでいるは、ロシア軍のS-400「トリウームフ」対空防衛ミサイルだ。

S-400は、S-300の後継として2007年ごろからロシア軍に配備されており、同時に複数の目標を攻撃可能な超長距離地対空システムとなっている。ロシア側の防空を担っているが、配備先が判明すれば攻撃を受けるおそれがある。例えばウクライナ側は8月22日、写真とは別のウクライナ南部で、S-400および自走式榴弾砲などを空爆で破壊したと発表している。

このため位置は秘匿したいところだが、無邪気なひとりの観光客により、機密情報が漏れてしまったようだ。観光客男性が自身のソーシャルメディアに記念写真をアップロードすると、瞬く間に注目を集める結果となった。Twitterユーザーたちは写真から詳細な位置を特定し、所在地をツイートしている。

ウクライナ国防省は写真を添え、Twitterに次のように投稿した。「われわれはロシア人観光客を冷遇しすぎていたかもしれない......。時として彼らは本当に役に立ってくれる。占領地クリミアのエフパトリア近郊で、ロシア防空システムの所在地で写真を撮ったこの男のように。ありがとう、そしてこれからも貢献を!」

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ヨーロッパ著名サイトの記者が検証

位置の特定に大きく寄与した人物のひとりが、ラジオ・フリー・ヨーロッパ記者のマーク・クルトフ氏だ。Twitterのスレッドを通じ、分析の軌跡を明かしている。

氏は観光客男性がアップロードしたほかの複数の写真を検証し、男性のスマホの位置情報が正確である裏付けをとった。あとは写真に付加されていた位置情報をもとに、別途撮影された航空写真など複数の写真を照合し、S-400が現地に存在することを確認したようだ。さらに、複数の日付で撮影された衛星写真をもとに、同地に配備されたタイミングを7月15日から22日までの1週間と特定している。

氏によると、当該地点の緯度経度は「45.181211, 33.211716」となっている。当該のポイントはクリミア半島南西部の海岸で、砂が堆積して海上に砂地が出現した砂嘴(さし)とみられる一帯だ。ウクライナ本土に近く、なおかつクリミア側の町から比較的遠い地帯を選んで配備されているようだ。

地元関係者によると、このS-400はほぼ毎日のように稼働しており、実際にロシアの防空網を支えている模様だ。だが、砂地にあまりにも堂々と配備されているため、位置は非常に検証しやすかった、とクルトフ記者は述べている。

南部セバストポリの自治体関係者は、機密の漏洩を以前から懸念していたようだ。付近の住民や観光客に対し、「忠告です。われわれの防空システムに関する写真撮影は控え、動画はアップロードしないでください。写真や動画を撮る際は、最低でもエリアを明かさないようにしてください」と述べていた。だが、呼びかけも虚しく、漏洩は止められなかったようだ。

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旅先の自慢が、ウクライナの情報源に

一般の観光客に機密を暴かれるというロシア軍の失態は、世界各地で報じられることとなった。英テレグラフ紙は、「ミサイルシステムの横でポーズをとった写真は、バケーションでクリミアを訪れたロシア人にとって、家に帰ってから友人への究極の自慢となる。ウクライナ軍にとっては、戦場での重要な情報源だ」と述べている。

ウクライナを支援するあるTwitterユーザーは、「ロシアの兵器の位置を教えてほしいという私たちの声が、クリミアの人々に届いたようだ。クリミアのフラッシュモブは続く。#ロシア兵器 の隣で写真を撮り、ソーシャルメディアに投稿した」として紹介している。

英サン紙は、「水着のロシア観光客がクリミアにあるプーチンの兵器の場所を暴露し、ウクライナは『役立つ』記念写真だと嘲笑う」との記事を掲載した。

配備先が漏れた直接の原因は、観光客が投稿した写真ではある。だが、観光地のすぐそばの見通しのよいエリアに防空システムを配備したロシア軍は、いったい何を考えていたのか、理解に苦しむところだ。

青葉やまと

フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。

※この記事はニューズウィーク日本版からの転載記事です。

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