「強欲でミーハーで裏切り者の烙印を押された」『令嬢アンナの真実』のアンナの元友人がNetflixを訴える

  • 文:中川真知子
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2022年2月にNetflixで配信されて世界中で大きな話題となった『令嬢アンナの真実』。

20代半ばの女性が海千山千のニューヨークエリートビジネスパーソンを手玉に取って詐欺を働いた事実を元にした作品で、事実とフェイクを織り交ぜた作りとなっている。アンナは銀行からの融資を受けてアンナ・デルヴィ財団を作る夢を叶える一歩手前までいったものの、徐々に化の皮が剥がれてロスアンゼルスで逮捕される。

ドラマの中で、アンナの逮捕のきっかけは元友人のレイチェル・ウィリアムが作ったとされている。このレイチェルと言う女性が、『令嬢アンナの真実』における自分のキャラクター設定を巡ってNetflixを訴えたそうだ。

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ドラマの中のレイチェル

レイチェル・ウィリアムズは元Vanity Fairの編集者で、アンナ・デルヴィ(本名アンナ・ソロキン)の友人だった実在の人物だ。

同作におけるレイチェルは、ミーハーで強欲で人の金をあてにして豪遊する日和見主義。美味しい蜜を吸って、いざ自分に金銭的負担がくると知ると、かつての友人の居場所を通報する嫌な女性だ。正直、筆者もそう感じたし、なにより、視聴者をそう考えるように誘導するシーケンスがある。結果として、レイチェルの印象は悪く、『令嬢アンナの真実』配信後は多くのバッシングが寄せられたそうだ。

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本当のレイチェル

では、今回、Netflixを訴えたレイチェルとは、どんな人物なのか。2019年7月に出版した告白本『My Friend Anna: The true story of Anna Delvey, the fake heiress of New York City』を読む限り、彼女はどこにでもいる普通の女性だ。金銭感覚も狂っておらず、人の金をあてにして豪遊しているわけでもない。アンナと出会い、62,000ドルという大金を詐欺された被害者だ。

もちろん、告白本はレイチェル視点で書かれたものであり、多少は自分を正当化しているだろう。だが、『令嬢アンナの真実』配信後にさまざまなインタビューに応じたレイチェルの動画を見るかぎり、レイチェル本人と本から受ける彼女の印象に乖離はない。

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Netflixはレイチェルを守るべきだった

レイチェルの弁護士は、Netflixはドラマ化するにあたってレイチェルを守るべきだったと主張している。

というのも『令嬢アンナの真実』に登場するアンナの近しい人物は、偽名になっていたり、職業がぼやかされていたりしている。一方でレイチェルは、物語を盛り上げる「問題人物」として脚色された上で、本名、職場、住んでいる地域、母校がそのまま使われているのだ。

ドラマを作る上で人物を脚色するのは致し方ない部分もあるだろう。だが、そうやって作ったキャラクターに実在する人物のプロフィールを当ててしまっては、視聴者に誤解を与えるのは必然だ。

レイチェルの弁護士は、The Deadlineに対して、Netflixがレイチェルの名前を偽名にしなかったのは、彼女がNetflixではなくHBOを選んだからだ、と話している。

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脚色された実話ベースの映画はこの他にも

レイチェルの訴訟がどんな結末を迎えるのかわからないが、実話ベースと宣伝しつつ、実は脚色してあやふやにしている作品は数多く存在する。有名なものをいくつか紹介しよう。

『ファーゴ』(1996年)は、金が必要になった男が妻をターゲットにした狂言誘拐を企てるも殺人事件に発展してしまった、という作品だ。ウッドチョッパーで死体を粉砕するシーンが印象的だ。

The Huffington Postのインタビューによると、この作品は60〜70年代に車のシリアルナンバーを捏造してGMファイナンス・コーポレーションを騙していた男性の話と、コネチカットで発生した妻を殺してウッドチョッパーにかけた男性の話を織り交ぜたものだという。

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『レヴェナント:甦りし者』(2015年)は、アメリカの西部開拓時代に活躍した猟師 ヒュー・グラスのサバイバルを描いた作品だ。

グラスは息子をフィッツジェラルドに殺されたことで復讐心を燃やすが、実在するグラスに息子はいないとされている。

『しあわせの隠れ場所』(2009年)は、NFL選手であるマイケル・オアーの半生を描いた作品だ。

本作の中では、マイケルの成功は全て里親のリー・アンによるものとして構成されているが、リー・アンと出会う前に高校のアメフト選手として活躍していた。

これだけでなく、実話がベースとされているが実際は脚色されている作品は数多く存在する。「実話」といいつつも、実は実話となる部分がコンセプトであったり、インスピレーションを与えた程度だったりする場合も多々ある。「実話」を全面的に押し出す理由は、そうした方が観客に興味をもってもらいやすいからで、脚色してしまうのは、事実だけだとストーリーテリングの面が弱くなってしまうからだ。

だから、『令嬢アンナの真実』の登場人物がデフォルメされたキャラクターアークになっていることについては致し方ない面もあると考えられる。だが、だとするならば、レイチェルと彼女の弁護士が主張するように、レイチェル本人と関連付けらない方法を取るべきだった。Netflixという世界展開するストリーミングで、ネガティブに脚色された登場人物があたかも自分だとされるように配信されたレイチェルの気持ちを想像すると、同情を禁じ得ない。

訴訟では、劇中におけるウィリアムズへの誹謗中傷の疑いがある部分を削除するよう求めている。これが受け入れられれば、内容は大きく変化するだろう。

『令嬢アンナの真実』は9月13日発表のエミー賞にノミネートされている。Netflixは、この訴訟をどう受け止めているのだろうか。

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【動画・画像】「強欲でミーハーで日和見主義の裏切り者の烙印を押された」『令嬢アンナの真実』のアンナの元友人がNetflixを訴える

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本当のレイチェル

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『ファーゴ』(1996年)

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『レヴェナント:甦りし者』(2015年)

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『しあわせの隠れ場所』(2009年)

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