Netflixでしか観られないおすすめ映画15選

  • 文:上村真徹

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アカデミー賞にもノミネートされた秀作から、気鋭の映像作家によるドキュメンタリー、人気俳優が競演する日本映画まで、オリジナル作品も含むNetflix独占配信作品の中から、おすすめの映画15本を紹介したい。

アカデミー賞受賞・ノミネートの映画

『シカゴ7裁判』

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実話映画の名手として名高い『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』の脚本家アーロン・ソーキンがメガホンを握り、ベトナム戦争の抗議運動から逮捕・起訴された男7人(シカゴ・セブン)の裁判の行方を描いた実録ドラマ。有罪ありきで進められていく理不尽な裁判の行方と、己の信念を決して曲げない若者たちの闘いを通じて、現代に通じるさまざまな社会問題を浮き彫りにする。膨大なセリフの会話劇を得意とするソーキン節も冴え渡る。作品賞、助演男優賞などアカデミー賞全6部門ノミネート。

『Mank/マンク』

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鬼才デヴィッド・フィンチャー監督が、元ジャーナリストの亡き父が遺した脚本を映画化。オーソン・ウェルズ監督の不朽の名作『市民ケーン』の脚本を手掛けた“マンク”ことハーマン・J・マンキウィッツをゲイリー・オールドマンが人間味豊かに熱演し、彼が体験した“生みの苦しみ”を中心に同作の舞台裏を明かしていく。1930年代ハリウッド黄金期の光と影を映し出すモノクロ映像も秀逸。作品賞をはじめアカデミー賞全10部門にノミネートされ、撮影賞と美術賞を受賞。

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『マリッジ・ストーリー』

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『イカとクジラ』のノア・バームバック監督が、すれ違いの末に離婚への道を一直線に進んでいく夫婦を繊細かつ赤裸々に描き出すヒューマンドラマ。円満な協議離婚を望んでいたはずが、いつの間にか弁護士を立てた争いへと突入し、傷つけ合ってしまうという思わぬ事態への戸惑いやジレンマを、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーがそれぞれ好演。作品賞をはじめアカデミー賞全6部門にノミネートされ、敏腕弁護士役のローラ・ダーンが助演女優賞を受賞。

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『マ・レイニーのブラックボトム』

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1920年代のシカゴを舞台に、“ブルースの母”と称される実在の歌手マ・レイニーと彼女を取り巻く人々の人間模様を描いた音楽ドラマ。マ・レイニーが依頼主やバックバンドと衝突しながらレコーディングを行う数時間の物語を通して、黒人たちが日常的にさらされていた差別や搾取の実態を浮き彫りにする。白人に主導権を譲らず堂々と渡り合うマ・レイニーをヴィオラ・デイヴィスが威厳たっぷりに熱演。マイノリティの苦悩を背負う若きトランペット奏者に扮した故チャドウィック・ボーズマンの遺作でもある。アカデミー賞全5部門にノミネートされ、衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。

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『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』

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名匠ロン・ハワード監督がJ・D・ヴァンスの全米ベストセラー回顧録を原作に、ある家族の愛と苦悩を描いたヒューマンドラマ。名門イェール大学に入学するも家族の問題で故郷へ戻ることになった青年を中心に、抜け出すことが困難な貧困の連鎖という米国社会の厳しい現実を突きつける。愛憎入り混じる複雑な母娘関係を、エイミー・アダムスとグレン・クローズの新旧演技派女優が熱演。アカデミー助演女優賞(グレン・クローズ)とメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネート。

関連記事:ラストベルトで育った青年が、故郷と自分の未来との狭間で揺れ動く『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』

『ザ・ファイブ・ブラッズ』

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戦友の遺骨とひそかに隠した金塊を求めて、再びベトナムを訪れた黒人退役軍人4人の冒険を描いた戦争ドラマ。さまざまな題材を通じて人種差別問題に鋭く切り込むスパイク・リー監督が、1960年代のニュース映像をはじめ膨大なブラック・カルチャーを随所に散りばめながら、黒人の視点からベトナム戦争とアメリカの闇に迫る。そうした社会派メッセージを宿しつつ、戦争中の回想シーンを16mmフィルムで撮影するなど、多彩な映画的技巧でも楽しませる。アカデミー作曲賞にノミネート。

『最後の追跡』

亡き両親が遺した牧場を差し押さえから守るため銀行強盗を繰り返す兄弟と、彼らを追う引退間近のベテラン保安官を、それぞれの視点から感情移入できるよう掘り下げて描いた犯罪ドラマ。『ボーダーライン』のテイラー・シェリダンが脚本を手がけ、アメリカンドリームが崩壊して時代に取り残されたテキサスの“今”を骨太に綴っている。西部劇の香りを濃厚に醸し出す老保安官役のジェフ・ブリッジスがアカデミー助演男優賞候補となり、他にも作品賞など全4部門で候補に。

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ドキュメンタリー映画

『イカロス』

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ロシアスポーツ界で行われていた国家ぐるみの大規模なドーピングの実態を、ロシア人科学者グリゴリー・ロドチェンコフの証言によって詳細な手口まで赤裸々に暴き出す衝撃作。アマチュア自転車レーサーでもあるブライアン・フォーゲル監督が薬物投与の無意味さを証明しようと始めた“人体実験”ドキュメンタリー製作が、薬物投与に協力者するロシア人科学者がドーピング計画の中心人物だったと判明してから迎える急展開は、フィクションかと疑うほどサスペンスフル。アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞。

『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』

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2017年にカリブ海に浮かぶ小さな島を貸し切って開催され、史上まれに見る大失敗に終わった音楽フェス「ファイア・フェスティバル」の裏側に迫るドキュメンタリー。ゴージャスな体験の提供を約束してド派手なプロモーションで話題を集めるも、ずさんな運営実態が明らかになり大炎上へと発展していく様が、まるでブラックジョークかパニック映画かのように映し出される。無責任な主催者だけでなく、実態をろくに知らないままフェスを宣伝するインフルエンサーたちの責任も追及する視点が秀逸。

『チャドウィック・ボーズマン: あるひとりの表現者』

2020年に43歳という若さで亡くなった俳優チャドウィック・ボーズマンの生きざまに迫るドキュメンタリー。自らのことをアーティストと語るボーズマンが、台本の中の“余白”を埋めながら役を作り上げていく演技への真摯な姿勢が、遺作『マ・レイニーのブラックボトム』で共演したヴィオラ・デイヴィスや『ザ・ファイブ・ブラッズ』のスパイク・リー監督ら、ボーズマンと関わりの深かった映画関係者たちの証言を交えて明かされていく。

『あるアスリートの告発』

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米国体操連盟で29年間チームドクターを務めたラリー・ナサール医師による、未成年の女子選手への性的暴行事件を告発したドキュメンタリー。500人にも上る被害者の中から勇気を出して声を上げた女子選手たちや、事件を調査・報道した地方紙の記者たちを追いながら、“治療”と称したナサールの不適切な行為を徹底的に追及する。さらにそうした加害の実態だけでなく、告発を警察に届け出ず隠蔽し続けた体操連盟の旧来的な体質や、低年齢から選手を育成する女子体操競技ならではの構造的な問題にもメスを入れる。

『アメリカン・ファクトリー』

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オバマ米国元大統領とその妻ミシェルが共同運営するプロダクション会社によって製作されたドキュメンタリー。オハイオ州で閉鎖されていた自動車工場が中国企業により再開されるも、仕事や労組に対する価値観の相違が浮き彫りになっていく“埋めようのない分断”を、さながら米中対立の縮図のように映し出す。アメリカンドリームの終焉を無情に突きつける一方、米中の衝突に対して安易な善悪のジャッジを下さず、フェアに描こうとする姿勢に好感が持てる。アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞。

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話題の日本映画

『浅草キッド』

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ビートたけしの自伝的小説を劇団ひとりの監督・脚本によって映画化。浅草の“笑いの殿堂”フランス座での下積み時代から、漫才コンビ「ツービート」で人気芸人となるまでの青春時代を、 大泉洋と柳楽優弥の競演でノスタルジックに綴る。“カメレオン俳優”柳楽がたけし本人の仕草や話し方をナチュラルに再現しながら、まっすぐに夢を追う青春模様を等身大に魅せる。たけしが師匠でもある“幻の浅草芸人”深見千三郎と芸人魂をぶつけ合って育む不器用な絆や、フランス座の仲間と織りなす人情模様にも胸が熱くなる。

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『ボクたちはみんな大人になれなかった』

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作家の燃え殻が2016年に発表した同名ベストセラー小説を、数々のMVやCMを手がけてきた映像作家・森義仁が映画化。昔の恋人のSNSアカウントを見つけてしまった46歳の“ボク”が思い返す、彼女と過ごした忘れられない青春の日々を、90年代の空気感と懐かしのカルチャーを織り交ぜながら切なく綴る。森山未來が久しぶりにストレートな恋愛映画に出演し、忠実に再現されたそれぞれの時代背景と相まって、25年間の時間の流れを絶妙に演じ分けている。

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『彼女』

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中村珍が2007年に生み出した衝撃の漫画「羣青」を、『さよなら歌舞伎町』の廣木隆一監督が映画化。同性愛者であることを家族に言えず生きづらさを感じるレイと、夫からDVを受け続け人生に絶望している七恵。殺人の実行犯と依頼者として10年ぶりに再会した女性2人の暴走と逃避行を、過激な性描写や暴力描写もいとわずインパクト満点に描き出す。レイ役の個性派女優・水原希子と、七恵役を演じたロックバンド「ゲスの極み乙女。」のドラマー・さとうほなみによる化学反応も鮮烈。