【小山薫堂の湯道百選】第七二回“湯は、閃きを導く。”

  • 写真:杉本 圭
  • 文:小山薫堂
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〈京都府京都市〉
馬鹿庵

1-KS100177-ARW_DxO2.jpg風呂が道になることを信じて、京都、大徳寺の門を叩いたのが2015年。真珠庵の山田宗正住職から「湯道温心」の言葉を賜り、湯道の歴史が始まった。

最初に行ったのは、入浴する際の心構えを変えるということ。湯の心地よさに魂が解けた時、一日を振り返り、感謝すべき人の顔を思い浮かべて「ありがとう」と呟く。たったそれだけのことで、風呂が心を豊かにする装置に変わることに気づいた。小宇宙と呼ばれる茶室のような湯室があればいい。ちょうどその頃に引き取った古民家の倉庫が空いていた。以前の持ち主が馬主であり、庭に鹿が来ることから「馬鹿庵」と名付けた。床材は江戸期に使われてきた敷瓦。その片隅に岐阜の檜ひのき創そう建けんと隈研吾氏がコラボレーションした檜風呂をポツンと置いた。余白を設けたのは、宴会を開くため。そうなると目隠しが欲しくなる。二十年ほど前に購入していた高橋信雅氏の四枚組の絵を屏風に仕立てた。道具への欲が生まれ、辻村史朗氏に手洗い鉢を、中川周士氏に手桶を拵(こしら)えてもらった。

窓を開け放ち、目の前の木々を見つめながら湯に浸かる。たかが風呂が、道のように思えてきた。次の瞬間、不思議といろいろなアイデアが閃く。湯道の魅力をより多くの人に伝えるためには、エンターテインメントの力が必要だ。そうだ、映画にしよう。湯室で構想を練り、およそ1年半を費やして映画『湯道』の脚本は完成した。この空間でどんな物語を紡いだのか? 23年初春、ぜひ劇場でお確かめください。

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京都某所に構えた湯室。お湯を介し、人とのつながりをより深くする「湯会」の会場でもある。

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7年前に始まった湯の旅は、徐々に仲間を増やし、映画化のほか、国内外での講演活動や展覧会など、活動の場を広げ、一般社団法人化も果たした。建物は魚谷繁礼建築研究所によるもの。詳細は湯道公式サイトへ。https://yu-do.jp

馬鹿庵

住所:京都府京都市
※個人宅のため、非公開

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※この記事はPen 2022年9月号より再編集した記事です。