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人間国宝・須田賢司が語る、新型レンジローバーと木工藝に通じるモノづくりへの姿勢

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:猪飼尚司
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須田さんの最新作のひとつにあたる小箪笥「以加留賀(いかるが)」。亀の甲羅を使う古代中国の占い「亀卜(きぼく)」から発想を広げ、横長六角形のフォルムをもつ木製の引き出し箱を制作した。

新型レンジローバーでの旅を考えたとき、そのヒントになったのは、20世紀のモダニズム建築を牽引したドイツの名建築家、ミース・ファン・デル・ローエの遺した言葉だった。彼の言葉に導かれるように、群馬県・甘楽町にある、人間国宝・須田賢司さんの工房「木工藝ギャラリー清雅-SEIGA-」を訪れた。

ミース・ファン・デル・ローエの言葉
─「神は細部に宿る」

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須田賢司●重要無形文化財「木工芸」保持者。1954年、祖父から続く木工一家に生まれる。73年に父、須田桑翠(そうすい)に師事。75年日本伝統工芸展初入選。2010年紫綬褒章受章。14 年重要無形文化財認定。木工芸に対する意識をまとめた著書『木工藝 清雅を標に』を刊行。

緻密かつ繊細な手技で、凛とした佇まいの木工作品をつくり上げる人間国宝の須田賢司さん。群馬にある工房を訪れると、壁に鉋(かんな)や鋸(のこ)などの工具が整然と並ぶ。適切な道具をさっと手に取り、黙々と木と向かい合う。

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左:細かな部分を削るために須田さんが使っている小さな鉋の数々。素材や使用する場所、仕上げによって、さまざまなものを適宜使い分けている。 右: 頻繁に使用する道具は、すぐに取り出せるように、手元に近い場所や壁際に順番に並べて、整頓している。

「私は昔から曖昧なことが苦手。物事の真理をとことん追求してしまう性分なんです。作家だからといって感覚の赴くままに創作したり、見た目の美しさだけを追求することには興味はありません。なんのため、誰のためにつくるのか、要素のひとつ一つを明確にしたい。ときには仕事の域を超え、生きる理由までも考えます」

1000年以上の時をかけて先人たちが積み上げてきた木工藝の歴史をひも解きながら、同時に須田さんの現代的な感覚を重ねあわせる。素材の見立て、道具選び、加工や仕上げの手法など、すべての最適な条件に自身の思考を重ね合わせた結果、生まれる調和。こうして作品はカタチになる。

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左:小箪笥の側面に設けられた格子状の細かなスリットを覗きながら、内側をスライドさせると3種類の象嵌紋様が現れては消え、万華鏡のよう。 右:エッジ部分をよく見ると細かに切り込みが入っているのがわかる。これは緊張感のある角ながら、触ったときには、指先には柔らかく当たるように配慮した超絶技法のひとつ。

「自然の成り行きでモノが出来上がるのではなく、すべてに理由がある。そのなかにひとつとして無駄な要素は存在しません」

ディテールにこそ、ていねいなモノづくりの真意があることを解いた「神は細部に宿る」というミース・ファン・デル・ローエの言葉は、まさに須田さんのモノづくりに通じている。

「神の定義は、それぞれ異なると思いますが、日本人の私にとっては、森羅万象にその存在を見出す八百万(やおよろず)の発想があります。材料や道具、すべての力を借りながら、自分がどのようにまとめるのか。わずかな部分をも見落とすことなく、すべての行為に全神経を集中させています」

「微の集積こそが、完璧な美を成す」。すべての物事に真摯に向き合う姿勢こそが細やかな部分への意識を生み出し、作品の調和をつくり出すのだ。

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自身の作品制作に加え、文化財などの修復や復元の依頼もある。これは正倉院に所蔵されている厨子(ずし)の復元模造のための測定具。大切な宝物を傷つけないよう木製ノギスや木製の自由矩(じゆうがね)を自作した。過去の作家たちや木工が歩んできた足跡に配慮する。

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新型レンジローバーを見て即座に発したのは、「柔らかいですね」という言葉だった。

「どちらかと言えば無骨なSUVの印象をもっていたのですが、エッジが滑らかで心地よいです」

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チーフ・クリエイティブ・オフィサー、ジェリー・マクガバンが手がけた新型レンジローバーのつくり込みの細やかさ、上質な仕上げに納得の表情の須田さん。

運転席に座ると真っ先に手で確認したのが、センターコンソールのウッドパネルだ。

「このように単板で木口を見せながらモザイク状に仕上げるのは、手間のかかる仕事。現代的で上質感もあります」

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木工家だけに、センターコンソールの木製パネルが気になる様子。「クルマの内装は非常に条件が厳しいと思うのですが、機能を保持しながら、細やかに仕上げていますね」

過剰と思えるほどの手間をかけすぎるほどかけること。そこには膨大な時間がかかるし、身体の負担も大きい。ただし、そうしなかった場合は「絶対に後で後悔することになる」と須田さんは語る。

「実際に自分の手を動かしてつくり、何度も経験をしなければ、わからない感覚かもしれません。自分の意識は明らかにモノの表情に現れる。それを知っているから諦められないんです」

工芸は使われてこそ息づくもの。つくり手のこだわりを残しつつも、あくまでも美しく清らかな存在でなければならないそうだ。

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左:地元の甘楽町武家屋敷地区でボディに触れながら、フォルムを確かめていく。「つくり手の意識がきちんとカタチに示されている」と須田さん。 右:木製のセンターコンソールパネルは、後部座席にも反映。内部にはカップホルダーをはじめとしたさまざまな機能を格納。タッチパネル操作によって、必要に応じて滑らかにせり上がる設計。

「私が求めるのは“清雅”であること。柔らかさや優しさを感じさせるものでありたいです」

木工藝を始めて半世紀。ようやく落ち着いて自分自身と向き合えるようになった。

「続けてこそ、いろいろと出来るようになる。これは、すべてのモノづくりに共通していることだと思います」

木工藝ギャラリー清雅-SEIGA-

場所:群馬県甘楽郡甘楽町小幡1207
開館時間:10時~16時
休館日:月~金 
www.mokkougei.com

Range Rover SV Serenity P530 LWB(レンジローバーSV セレニティP530 LWB)

●サイズ(全長×全幅×全高):5265×2005×1870㎜
●排気量:4394㏄
●エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
●最高出力:530PS/5500-6000rpm
●最大トルク:750Nm/1850-4600rpm
●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
●車両価格:¥28,580,000~
●ランドローバーコール TEL:0120-18-5568
www.landrover.co.jp
※写真の車両は日本仕様とは異なります。

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※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。
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