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新型レンジローバーで訪れる、nendo佐藤オオキが手がけたミニマルな建築「土管のゲストハウス」

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:和田達彦
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7月に竣工したnendoの作品保管庫兼ゲストハウス。浅間山山麓の御代田町に位置する約3000坪の敷地は、アカマツが生い茂り小川が流れるロケーション。建物は、工場で成形したコンクリートパーツをワイヤーによって締め上げて連結する「プレキャスト工法」と「プレストレス工法」を組み合わせて施工された。

新型レンジローバーでの旅を考えたとき、そのヒントになったのは、20世紀のモダニズム建築を牽引したドイツの名建築家、ミース・ファン・デル・ローエの遺した言葉だった。彼の言葉に導かれるように、デザイナーの佐藤オオキさんとともに長野県・御代田町にある最新作「土管のゲストハウス」を訪れた。

ミース・ファン・デル・ローエの言葉
─「より少ないことが、より豊かになる」

もともと母校の早稲田大学では、建築を学んでいた。しかし、大学院の卒業旅行で仲間とミラノサローネを訪れたことが転機となって、nendo設立へ。以来、専門にしていた建築ではなく、枠にとらわれずさまざまなものをデザインしてきた佐藤オオキさん。しかし近年は、また建築に取り組む機会が増えてきた。

「ひとつの建築物というよりも、ソフト面を含めて一から場をつくるような仕事を手がけるようになりました。コンテンツについて考えるなかで、アウトプットのひとつとして建築物も入ってくるようになったという感じですね」

そんな佐藤さんがデザインした建築の最新作がこの「土管のゲストハウス」。作品の背後にあるコンセプトや歴史といったストーリー性を重視する佐藤さんだが、この建物に関してはまず機能ありきで構想がスタートした。

「というのも、『年々増え続けていくnendoの作品やサンプルを、どこかにちゃんと保管したほうがいいよね』というのがそもそものきっかけだったからです」

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佐藤オオキ●1977年カナダ・トロント生まれ。2002年、早稲田大学大学院修了後、nendoを設立。現在は、パリ五輪開催の24年へ向けてフランス高速鉄道TGVの新型車両デザインに取り組む。25年の「大阪・関西万博」では日本政府館の総合プロデューサー/総合デザイナーを務める。

「最初はここまでするつもりではなかったのですが」と佐藤さん。インフラ整備の土木工事に近いつくり方となる建物だけに、着手するまでの施工業者との事前調整に2年近くかかったそうだ。

当初は倉庫として、できるだけ原始的で、シンプルな構造物を考えていたという。

「トンネルとか、土管のようなものでいいというイメージがあって、じゃあ実際に土管でつくれないかとリサーチしたら、プレキャスト工法でいけそうだということがわかりました」。あらかじめ工場で共通のコンクリートパーツを成形し、それを現場で組み立てるプレキャスト工法は、2017年の天理駅前広場「CoFuFun(コフフン)」の古墳状の施設で経験済みだった。

「水路や通信線などを収容するために地中に埋設される『ボックス・カルバート』というロの字型のコンクリート構造物があるので、それを敷地に並べて建物にする。将来的に収めるものがさらに増えたら、継ぎ足していけばいいという発想でした」

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ロの字型の「ボックス・カルバート」パーツを連結することで生まれた、内寸約2×2.3mの土管のような空間。作品保管室は3つあり、最も長い部屋は約40mの全長がある。

しかし長野県の山中というロケーションのため、湿気対策として空調が必要ということになり、気密性を確保するにはただ並べるだけではダメだということもわかった。そこでコンクリートパーツを整列させた上で、ワイヤーで締め上げて連結するプレストレス工法を採用することになる。

「これは本来、橋梁などを建設する際の技術。そして、どうせしっかりした構造のものをつくるなら、ゲストハウスとしても利用できるものにしようと思いました」

こうした経緯を経て完成したのが、長短の“土管”5本を井桁状に組み、屋根を掛けることで、3つの作品保管室に加えて簡素な宿泊機能も備えた「土管のゲストハウス」。組み合わされた合計63個におよぶ箱型パーツそれぞれの大きさは、搬入トラックの最大サイズやクレーンで吊り上げ可能な重量から逆算して決められている。

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「土管」を5本、井桁状に積み重ね、屋根を掛けた明快な構成。

シンプルなデザインを損ねないように、開口部には金属製サッシを極力使わず、大判の高透過ガラスを溝に差し込んで固定。またドアには扉と壁の隙間に隠れるハンドルをオリジナルで製作した。

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左:コンパクトな寝室と書斎を2階部分に設けている。高透過ガラスが金属サッシを使わずにはめ込まれているため、室内空間がそのまま外界につながっているかのよう。 右: キッチンや浴室、トイレなどの水回りは1階に集約。浴槽は床部分を掘り下げた形にしていて、水面の高さを床面と揃えることで、土管の形状がそのまま連続しているような見た目を実現している。

土管の外と中が緩やかにつながるよう、外構と同じ砂利を屋内リビングスペースにも使用。屋内リビングはあらかじめ下地に樹脂を塗ってから砂利を敷き詰めて固定する独自の工法を開発するなど、一見単純なつくりに見えてこの土管のゲストハウスは、その素材や工法、ディテールに至るまでのあらゆる面で凝りに凝った建築物となっている。

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左:外構で使用しているものと同じ砂利やシャラの植栽を屋内でも使用。 右: 砂利のままでは歩きにくい部分には、砂利の下側だけ樹脂で固めるという独自の工法を採用。

「建築的なアプローチというよりも、土木工事の考え方にプロダクトデザインのディテールを組み合わせたような性質です」

高いエンジニアリングを有しつつも、それを意識させないシンプルなデザイン。エンジニアリング主導でもデザイン主導でもなく、構造や機能がそのまま意匠となっているところに、土管のゲストハウスと新型レンジローバーは近しいものが感じられる。

オフロード車は悪路を走破するという目的が最初にあるが、レンジローバーは武骨なクルマに快適性やラグジュアリー性などが加わり、新しいクルマへと昇華していった歴史がある。

「この建物は、用途に徹したものに快適性だとか、情緒的な要素を加えていった結果、こういった形になったわけです」と佐藤さんがいう通り、進化の過程のようなところもレンジローバーとシンクロしているのだ。

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レンジローバーとのコラボレーションアイテムのサンプル。「積層」「反復」など、佐藤さんが分析したレンジローバーのデザインにおけるDNAを、ペンケースなどのプロダクトとして表現。「レンジローバーを見ていると、これがクルマのあるべき進化の形じゃないかと思わされます。なぜそう感じるのか、自分なりに手を動かして消化したいと思って、アイテムをデザインさせてもらいました」と語る。近くノベルティとして完成予定だ。

Range Rover Autobiography P530 LWB(レンジローバー・オートバイオグラフィー P530 LWB)

●サイズ(全長×全幅×全高):5265×2005×1870㎜
●排気量:4394cc
●エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
●最高出力:530PS/5500-6000rpm
●最大トルク:750Nm/1850-4600rpm
●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
●車両価格:¥22,610,000~
●ランドローバーコール 0120-18-5568
www.landrover.co.jp

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※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。
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