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なぜ、レンジローバーは世界最高峰のSUVと評価されるのか?

  • 写真:谷井 功
  • イラスト:うえむらのぶこ
  • 文:小川フミオ
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「砂漠のロールスロイス」「SUVの最高峰」と評されるレンジローバー。こうした名声はいかに生まれたのか。過去のエピソードを振り返り、検証する。

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左:2022年式 レンジローバーSV セレニティ P530 LWB 右:1970年式 レンジローバー・クラシック サフィックス A

レンジローバーのはじまりは、意外にシンプルだった。「街乗りもできるランドローバー(本格クロスカントリー車)があったら便利だろう」という思いつきが原点だ。「ロードローバー」と呼ばれたそのコンセプトを、エンジニアのスペン・キングとゴードン・バッシュフォードが煮詰め、1967年から本格的にプロジェクトとして着手。デビッド・ベイチュのデザインによるボディを載せて年に初代を発表したのだった。

当時のロンドンでは、オーナーの生活を如実に物語るクルマとされていた。レンジローバーを持つことは、それを必要とする広いエステート(土地)をスコットランドなどに所有していることを意味したからだ。

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ルーブル美術館に展示された、工業デザインの模範的作品/1970年代初頭、レンジローバーのコンセプトは斬新で、成功は未知数だった。それでも市場での可能性を感じた英国政府は、71年にパリで英国製品販促イベントを開催。工業デザインの模範的作品としてルーヴル美術館の入り口に初代レンジローバーを飾った。「古典美術に匹敵する審美性がある」という主張であったのだろう。その後、このクルマは欧州市場でも熱狂的に受け入れられる。

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英国のみならず、世界中でこのクルマが評価されたのは、まずは機能性からだった。広いウィンドー、クルマの脇が目視しやすいように、うんと低くされたウエストライン、エンジンメンテナンスが容易なクラムシェル型ボンネット、さらに出先で破損しても汎用品と交換可能な丸型ヘッドランプなどの特長にあった。

シンプルだけれど、つくり手の主張が随所に感じられるプロダクトとしてのデザインが、クルマ好きの食指を動かすことになる。

レンジローバーのデザイナーの才気を感じるのは、機能とデザインが強く結びついたこのクルマのモデルチェンジを、巧みにやりとげてきたこと。フルモデルチェンジを4回行い、52年にわたってレンジローバーというブランドを確固たるものとしてきた。

4代目では、イタリアの高級スピードボート「リーバ」にヒントを得たというボートテイルスタイルを採用。車体後方にいくにしたがって、ぎゅっとすぼまったようなリアの造型は、それまでと一線を画すスピード感をもたらすデザインとして成功している。

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過酷なパリ・ダカールラリーの4輪部門で優勝した初のクルマ/世界一苛酷なラリーといわれたパリ・ダカールラリー(現在はサウジアラビアが舞台)。パリを出発してセネガル共和国の首都ダカールまで走った。砂丘でジャンプして車両が大破したり、道がないため迷子になったりは当たり前。第1回が開催されたのは1979年。4輪部門での栄えあるトップはレンジローバーだった。上のイラストは81年の優勝車。個人参戦者の強い味方だった。

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エンジニアの努力もブランドに大きく貢献した。高速でも快適なサスペンションシステム、アルミニウムボディによる軽量化(4代目以降)、オフロードでも一般道でもすぐれた走行性能を発揮するドライブトレイン、という具合。初代で早くも4輪ディスクブレーキを搭載し、90年には4チャネルのABS(アンチロックブレーキシステム)を装着。これはSUVとして世界初の装備だった。

レンジローバーは、ラグジュアリーな雰囲気がよく似合う一方で4WDの性能を限界まで追求。電子装備も駆使し、最善の機能性を目指している。その徹底ぶりもブランドの価値を担保しているのだ。新型が出るたびに私たちはうれしい驚きをおぼえてきた。

新しい道を常に切りひらくことを得意とするレンジローバー。そこに名だたるSUVの真価があるのではないか。

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名エンジニアが集結し、現在も革新を続ける/レンジローバーは数々の才能が集まってつくられた。エンジニアのスペン・キングは、映画『ガタカ』にも登場したローバーP6などを手がけた俊英。ゴードン・バッシュフォードは初代ランドローバーの開発にも参画。デザイナーのデビッド・ベイチュは多くのランドローバー車も担当。4WD車の機能性と、思想を感じる造型美の結晶。ふたつの要素は現在まで主題となり続けている。

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※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。
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