江戸時代の伝統建築を活用した、宿泊施設「上原屋 -ビャク ナライ-」【ウワサの建築】

  • 編集&文:佐藤季代
  • イラスト:阿部伸二(karera)

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長野県の奈良井宿に、竹中工務店が手がけた複合施設「歳吉屋 -ビャク ナライ-」の離れとして計画された宿泊施設。photos:Kai Nakamura

江戸時代からの伝統的な町並みがいまなお残る長野県の集落、奈良井宿。重要伝統的建造物に選定された町家をリノベーションし、4つの客室とギャラリーを備えた「上原屋 -ビャク ナライ-」が開業した。一部構造補強を施し、インテリアを刷新することで古い建物に新たな息吹を吹き込んでいる。

観光地の活性化につながる伝統建築の活用を提案したのが、山道拓人、千葉元生、西川日満里による建築ユニット、ツバメアーキテクツだ。国内外の設計事務所などを経て、2013年に共同設立。以降は次世代を担う若手建築家集団として注目を集める。

彼らの作品はおもに設計を行う「デザイン」と、周辺エリアのリサーチや建物の運用といった設計前後を考える「ラボ」の二部門の連携から生まれる。“なにをつくるべきか”といったソフトまで深く関わることで、従来の建築家の職能を超えた多様な提案を行っている。

独自の活動スタイルの中で生まれた代表作のひとつが、下北線路街に立つ再開発プロジェクト「ボーナストラック」だ。カフェや本屋などが入店する店舗兼住居など5棟と路地を設計。旧街並みを引き継ぎながら、下北沢らしさの残る新たな賑わいの場を創出した。

こうした街のコミュニティ空間をはじめ、地域に根ざしたコモンスペースの在り方を提案するなど、使い手や訪れる人を巻き込みながら建築の役割を追求する彼ら。社会的な課題を解決する柔軟な活動に、今後も期待したい。

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増改築の設計をツバメアーキテクツが担当。
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築200年を超える既存の町家を四棟に分割し、一部耐震補強を施すことで町家特有のスケール感を活かした空間を実現。
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新設したトップライトや左官風の塗装、耐力壁のパンチングメタルなどで、古い建物に新たな価値を付与している。

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ツバメアーキテクツが携わってきた代表的な建築

【Keyword 1:人が集うコモンスペース】

1階をギャラリーとして開放した西川日満里の自邸「ルーム&ハウス」や、オフィスやキッチンなどのシェア施設をもつビル、道路に開いたコモンスペースのある集合住宅など、人が集う場の在り方を提案。

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ルーム&ハウス。2019年竣工。●東京都杉並区阿佐ヶ谷(以下非公開)
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押上のビル プラット295。2020年竣工。●東京都墨田区業平1-7-9 photo: Kenta Hasegawa
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リノア北赤羽。2020年竣工。●東京都北区浮間1-3-1 photo: Kenta Hasegawa

【Keyword 2:都市にコミュニティを生む】

「デザイン」と「ラボ」の二部門で構成されるツバメアーキテクツでは、設計前後の計画に関わりながら、都市におけるコミュニティの場を創造。ひとつの建築を通して、街全体の魅力を高める工夫をしている。

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ボーナストラック。2020年竣工。●東京都世田谷区代田2-36-12~15 photo: morinakayasuaki
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マイクロバスケットコート ワン_スロー。2021年竣工。●神奈川県川崎市多摩区宿河原3-8-3 photo: Tomoyuki Kusunose

【Keyword 3:建築の保存と活用】

構造補強や内装の刷新による改修で、地域に根づいてきた古い建築を現代につなぐ提案を行う。社会的な課題に対し、建築を通した解決方法を提示し続けている。

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地域活動拠点 センゲンボウ。2016年竣工。●山梨県富士吉田市上吉田4-1-22 photo: Kenta Hasegawa
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天窓の町家。2018年竣工。●長野県塩尻市奈良井(以下非公開) photo: sandotakuto

TSUBAME ARCHITECTS

山道拓人、千葉元生、西川日満里によって、2013年にツバメアーキテクツを共同設立。空間設計を行う「デザイン」と設計のための枠組みや完成後の使い方を担う「ラボ」で構成される。おもな受賞歴はU35伊東豊雄賞、グッドデザイン賞など。

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※この記事はPen 20225月号より再編集した記事です。