【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】 第149回
きてるね、パラダイムシフト!? エレクトロニックで先鋭化した脱構築系EV

  • 写真&文:青木雄介

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ミニマルなモノシリックデザインを特徴とするiXのエクステリア。

BMWのEVである「iX」。ここのところ欧州メーカーのEVに乗る機会が増えて、いよいよ百花繚乱の趣がある。

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「ストリームフロー」と呼ばれる独自のエアロダイナミズムにより高効率を追求。

それぞれブランドの個性があって興味深いんだけど、なかでもiXの個性は際立っている。まずわかりやすい違いが、アクセルを戻すと回生ブレーキを効かせるワンペダルドライブ。

他のメーカーのEVは軒なみ、エンジン車に近いペダルフィールにこだわって回生ブレーキは弱めに感じる。でもBMWは、ほぼすべてのモードで明確に回生ブレーキを介入させるのね。減速するなら電気を回収。一般家庭の台所感覚でいえば普段から支出を抑えてこまめに貯金するタイプ (笑) だね。「あれ、もしかしたら逆に航続距離が伸びてる?」と錯覚させる回生ブレーキ・ボーナスが嬉しい仕様なんだ。

面白いのは、いちばんハードな節電モードで走ると、一般道を普通に走っていてもスポーツカーで峠を走ったような達成感があること。よくあるエコチャレンジにも似たパラドクスが、iXの商品性をひときわ尖らせているんだな。

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オリーブの葉でなめしたレザーやエコニール100%のフロアマットなどサステイナビリティにこだわったインテリア。

可能走行距離は、すでに650km(WLTCモード)でテスラのモデルSに匹敵。実際に乗ってみると92%の充電量で520kmと表示されていたのでほぼほぼカタログ並みの走行距離は出せるはず。エフィシエンシーと呼ばれるいちばんエコなドライブモードで東京から小田原までの70kmを走ったけれど、電池量の10%も使わなかったのは驚きだった。効率のよさを実感できるので、EVにありがちな残電池量の少なさからくる充電プレッシャーも少なからず解消されているんじゃないかな。

操作感はSF映画『トロン』のような効果音が盛りだくさんで、音楽のジャンルでいえばゴリゴリのエレクトロニックミュージック。実際、シートの下にウーハーが内蔵されていて低音系は全身で体感できる仕様になっている。スポーツモードに入れれば出力特性に鋭さが増し、2.5トンの巨体が異次元の加速をする。四輪操舵がキレのある走りを実現していて峠だって悪くない。

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異素材をたくみに組み合わせたiDriveのコントロールエリア。

巨体を支えるエアサスのマナーはBMWならではで硬めのセッティングだけど、ホイールにプラスチックパーツを採用するなど、足まわりの重量を軽減したり、ドライバーにストレスを感じさせない工夫も施されている。こういう気づきにくいところもさりげなくバランスをとっているのは特筆したいところだね。

室内はえんじ色のレザーを中心に再生プラスチック、クリスタルガラス、木材と多様な素材をたくみに配置。大きなウインドーと可変光ガラスを使用したサンルーフで、解放感も演出する。この辺の組み合わせの妙は、音楽でいえばアンビエントを主体にしながら、サンプル音やジングルを組合せ、異物感さえひとつのエッセンスとして取り入れるブルックリンのアーティスト「OPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)」を彷彿とさせる。巨体をワンペダルで操るシンプルな運転感覚と解放的な空間で多様なエッセンスを平行させる感覚は、まさにEVへのパラダイムシフトを促しているんだ。

 

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曲面を描いたフローティングディスプレイに表示されるARナビ。

極めつけは賛否両論のキドニーグリル。このクルマに試乗したあとには、完全に推しポイントになっていた(笑)。実際に見ると平面なんだけど、奥行きがあって艶っぽい高級感が3Dプリントによって醸し出されている。グリル内部にはカメラやレーダー、センサー類が内蔵され、今後の自動運転に対応する予言めいたスペースでもある。

平面3Dプリントのキドニーグリルが「これでいくよ」と言っているのね。思想と主張を感じる走り、そしてタッチセンサーがついた木材やスポーティなエコマナー。アンチテーゼはどこにもない、2020年代の脱構築系EVの登場ですよ。

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BMW史上もっともスリムなテールライトデザイン。トランクハッチを開けてもボディに内蔵されたライトにより後方車両への視認性を確保する。

BMW iX xDrive50

サイズ(全長×全幅×全高):4955×1965×1695mm
モーター:交流同期式 (前/後)
最高出力:523ps
最大トルク:765N•m
駆動方式:4WD
車両価格:¥12,800,000
問い合わせ先/BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL:0120-269-437
www.bmw.co.jp

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