高級スポーツクーペとして一級品で、ほれぼれする完成度
アウディEVモデルのフラッグシップ、Audi RSイートロン(e-tron) GTに乗った。2026年に販売するすべての新車をEVにすると宣言しているアウディ。最近のV8エンジンモデルはどれもとても静かで落ち着いた乗り味で「その延長なんだろうな」と思ってた訳。乗ってみると、その予想は間違いではなかったもののEV化によって大きくイメージチェンジを図ってきていた。これまでとはひと味ちがう高級化路線でね。これが大成功している。
アウディといえばクワトロ(4WD)とともに、オールアルミの軽量ボディがブランドイメージだった。どんな車種においても軽快さをキープし、洗練させていくところに高級ブランドとしての独自性があった。でも航続距離を延ばすために巨大なバッテリーを搭載し、車重が重くなるとその乗り味を維持するのは難しくなる。
アウディはそんなEVの逃れられない宿命にいっさい抗うことなく、ど真ん中に進路を決めてきた。モーター駆動の静かさにV8ツインチャージャーエンジンをおもわせる濃密なトルク感。そしてあらゆるタイプの走りに絶妙のバランスをもたらす、3チャンバー式エアサスの素晴らしい足回り。車重をいかした“よいクルマ感”があって、降りると名残惜しくて振り返りたくなる。すべてが高級スポーツクーペとして一級品で、ほれぼれする完成度ですよ。
デザインもいいでしょ?「私の背中を見て」と言わんばかりのルーフラインはグラマラスで先鋭的でアウディらしい。細部にわたって「アウディEV」っていう新たなプレミアムラインを宣言しつつも、これまでのファンを戸惑わせることなく、新時代へと向かっている。このあたりは90年代のクラブカルチャー全盛期にジャズを持ち込んだDJユニット「ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーション(U.F.O.)」を彷彿とさせるのね。もともと需要があるシーンに、新しい手法を融合させることで本来の前衛性や先鋭性を際立たせる。
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クルマ好きの夢をかなえるEV
EVはアウディにとって「選んでもらえるブランド」になるための大切な変化の機会。主要コンポーネントを共有するポルシェのEVスポーツカー「タイカンターボ」と較べるとよくわかる。EVならではのシャープな挙動をハードコアに追求してるタイカンターボに比べると、Audi RS e-tron GTはEVらしさを追求したというより、よく出来たエンジンを搭載したスポーツクーペのマナーに近い。
トルクだって急激に立ち上がるものの、ドンと踏んでも驚くような鋭さはなくてあくまでも波のように丸みを帯びた加速感。これは音に言い換えるとデジタルではなくてより温かみのあるヴァイナル(レコード)の質感を目指しているのに近い。前段でV8ツインチャージャーと言ったけど、V8エンジンにさらにスーパーチャージャーをつけてターボもつけるようなエンジンは昨今、環境的にはつくりえない。
そんな「夢のエンジンをEVで実現しましょう」って気概を感じたし、その余裕と力に満ちたパワーユニットに贅沢さも感じたのね。なるほど。軸足はあくまでも「クルマ好きの夢をかなえるEV」ってことかと。
さらにいえば“ニュージャズ”よろしく、語りつくされたクーペの文脈をトレースしつつ新機軸を見せてきたのがAudi RS e-tron GTの凄み。転校デビューじゃないけど、覚悟をもって新スタイルに挑む「今日から俺は!!」感もある(笑)。クーペ好きは見た目も走りもこだわる、ひときわ手ごわいヴァイナルジャンキー(アナログレコード至上主義者)ってところ。そのど真ん中にEVで勝負する。おもわず「先輩、恰好いいっす」って言葉ももれようというものですよ。
アウディ RS イートロン GT
Audi RS e-tron GT
サイズ(全長×全幅×全高):4,900×1,965×1,395mm
モーター:永久励磁同期モーター(PSM)
航続可能距離:534km
最高出力:645ps
最大トルク:830Nm
駆動方式:4WD(クワトロ)
車両価格:17,990,000円
Audi コミュニケーションセンター
TEL:0120-598-106
www.audi.co.jp