ドイツメイドの哲学を秘めた、ライカ独自ムーブメントの機械式腕時計とは。

  • 文:ガンダーラ井上

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ドイツの名門カメラメーカーであるライカカメラ社から、本格的な機械式腕時計「ライカWatch」の2機種「ライカL1」「ライカL2」が発売される。ライカの腕時計といえば2014年にライカ誕生100周年を記念してスイスのValbray 社とのコラボレーションで100本が製作された「Valbray EL1 100 Years of Leica Photography Edition」という前例があるが、本作はドイツ製、そして純粋なライカ製であることを特長とする。

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「ライカL2」正面からの印象は堂々としたもの

「ライカ Watch」は腕時計の伝統的なフォルムを保ちながら、特許取得の新機構を搭載した機械式ムーブメントが搭載されている。まるで写真用レンズのような、なだらかな凸面のカーブを描くサファイア製の風防の両面には無反射コーティングが施され、ケース径41mmの腕時計全体の雰囲気は奇をてらうことなく精密な仕上がりを見せる。

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ライカL2の裏蓋

フラットなサファイアガラスの裏蓋にも両面に無反射コーティングが施され、精密なムーブメントを鑑賞することができる。「ライカL1」「ライカL2」ともに手巻き式を採用していることから、自動巻きのための半円形ローターがないので内部機構がよく見える。裏蓋のベゼル部には“エルンスト・ライツ・ヴェルクシュタッテン”(ライカの創業者の名前を冠した工房)との刻印がある。それはライカカメラ社の本拠地であるドイツのウェッツラーにあり、「ライカWatch」の思想的な源泉である。

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ライツパークのオープニングの様子。写真:ガンダーラ井上

ライカカメラ本社社屋のある敷地内に2014年にオープンしたライツパークには、写真文化のミュージアムやホテルなどがあり、2018年にエルンスト・ライツ・ヴェルクシュタッテンも竣工した。赤いライカのロゴをあしらい、カメラのファインダー窓のような意匠のミュージアムの右にある建屋がそれで、ライカにおける通常製品とは少しレンジの異なる製品を手がける部門だ。

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エルンスト・ライツ・ヴェルクシュタッテン。写真:ガンダーラ井上

「ライカL1」「ライカL2」のプロトタイプは、2018年にライツパークが複合施設として拡張した際に初公開された。エルンスト・ライツ・ヴェルクシュタッテンのエントランス正面には、本作の外観デザインコンセプトを担当したベルリン芸術大学のアヒム・ハイネ教授による「ライカWatch」のアイデアスケッチが展示されていた。

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「ライカL」のプロトタイプには赤いダイヤルのモデルも。写真:ガンダーラ井上

前述のとおり「ライカWatch」はドイツ製であり、精密技術に関するパートナーシップをドイツ・バーデンヴェルク州のシュヴァルツヴァルト地方にあるレーマン・プレシジョン社と締結することにより実現している。同社は機械式腕時計の開発製造を手がけるメーカーであり、精密機械をライカカメラ社に提供してきた歴史を持つ。

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ライカカメラ社社主のカウフマン博士。写真:ガンダーラ井上

ライカカメラ社の社主であるアンドレアス・カウフマン博士は「この長期プロジェクトをようやく発表することができ、大きな喜びを感じています。パートナーであるハイネ教授とレーマン・プレシジョン社とともに、ライカらしさを備え、プレミアムブランドとしての価値を体現した“Made in Germany”の腕時計を生み出せたと確信しています」と語る。

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ライカWatch「ライカL1」

「ライカL1」は、26石の手巻き式ムーブメントを搭載し、秒針が6時位置にあるシンプルな3針モデルだ。2時位置のボタンはカレンダーの早送りに使う。文字盤の8時〜9時位置にはパワーリザーブ表示があり、最大巻き上げから60時間以上稼働する。

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ライカWatch「ライカL2」

「ライカL2」は、「ライカL1」と同等の仕様に加え、12時間表示のインナーベゼルの回転により、第2時間の表示も可能とするモデルだ。インナーベゼルは4時位置のリュウズを操作することで動かせる。第2時間が午前なのか午後なのかを示す、デイ&ナイト表示の小窓も備えている。

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パワーリザーブのユニークな表示機構

ゼンマイの残動力を示すパワーリザーブの表示方法は、クロージングブレードを用いて白い部分が残量減少とともに狭まる仕組み。これはクラシカルな写真用レンズの細部に詳しい者にとっては、絞りの開閉によってピントの合う範囲を示す被写界深度の目盛り表示機構を連想させてくれる。

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「ライカL2」のディテール

時分針とバーインデックスの意匠は、アール・デコ時代の建築物の尖塔のような輪郭を持つ。数値表記の字体は現行のライカカメラ社の光学製品に採用されているLeitz-Norm(ライツ・ノルム)、いわゆるライカフォントではなく、1970年代までの光学製品に数多く採用されていたデッケル・フォントに近いクラシカルなもの。

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「ライカL2」の側面

「ライカL1」と「ライカL2」の最もユニークな機構は、特許取得のリュウズ操作による時刻合わせの方法にある。赤いセラミックの埋め込まれたリュウズを一押しすると、スモールセコンドはクロノグラフの計測針のような動きで0秒の位置に帰針する。そこでリュウズを回すことで時刻の変更が行われ、もう一度リュウズを押すことで秒針が動き始めるのだ。

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LEICA銘の入った文字盤の取り付け

腕時計のリュウズは、1段もしくは2段引くことで時刻が停止し、それから時刻を合わせるというのが従来の方式だ。それに対し、まるでカメラのシャッターボタンを押すことで一瞬を写しとるように腕時計の時刻を止めるというアイデアは、まさにライカと名乗る製品として相応しく、オリジナリティーと精密機械の魅力に溢れている。

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ライカWatch 「ライカL2」「ライカL1」

問い合わせ先/ライカ銀座店 TEL:03-6215-7070
E-mail:leica-ginza@leica-camera.co.jp 

ガンダーラ井上

ライター

1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。

1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。