第94回アカデミー賞・作品賞候補10本の見どころ&公開日まとめ

  • 文:上村真徹

Share:

© 2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

2022年2月8日、第94回アカデミー賞のノミネート作品が発表された。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が4部門にノミネートされたことが話題となっている。この記事では、特に注目が集まる「作品賞」に名を連ねた、秀作揃いの10作品の見どころと公開日や配信情報を紹介する。

『ベルファスト』

監督としても活躍する名優ケネス・ブラナーが、自らの幼少期の体験をモチーフに描いた自伝的作品。ブラナーの出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、宗教紛争で地域が分断された町や住民たちの厳しい現実に迫りながら、「家族」と「故郷」という普遍的なテーマをモノクロ映像で美しく描写。ブラナーを投影した9歳の少年の目線を通じて、笑いあり涙ありのノスタルジックな人生讃歌に仕上がっている。トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を受賞し、アカデミー賞でも作品賞ほか全7部門にノミネート。3月25日より劇場公開。

『コーダ あいのうた』

自分以外の家族全員が聴覚障がいを持つ少女の夢と青春を描いたフランス映画『エール!』をハリウッドでリメイク。障がいというデリケートなテーマを扱いながら、個性的で愛すべきキャラクターたちが繰り広げる騒動をユーモラスに描き、歌の才能をもつヒロインの力強い歩みと家族の絆を爽やかに魅せる感動作となっている。“NEXTエマ・ワトソン”と期待されるエミリア・ジョーンズや、『シング・ストリート 未来へのうた』で注目を集めたフェルディア・ウォルシュ=ピーロらフレッシュなキャストにも注目。サンダンス映画祭でグランプリをはじめ史上最多の4冠に輝く称賛を集め、アカデミー賞でも作品賞ほか全3部門にノミネート。劇場公開中。

【関連記事】映画『ハウス・オブ・グッチ』がレディー・ガガ主演で描く、一族崩壊のドラマ 【今月の映画3選】

『ドント・ルック・アップ』

主演のレオナルド・ディカプリオをはじめ、ジェニファー・ローレンスやメリル・ストリープら豪華キャストが集結したNetflixオリジナル映画。アカデミー脚色賞受賞作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ監督が、巨大彗星の地球衝突というSFディザスターにブラックユーモアを散りばめ、現代社会が今まさに直面している危機の数々をシニカルに風刺。政治家やメディアに踊らされる人々の狂騒を通じて、人類共通の課題である気候変動とどう向き合うべきか、鋭い問題提起を投げかける。アカデミー賞作品賞ほか全4部門にノミネート。Netflixで配信中。

---fadeinPager---

『ドライブ・マイ・カー』

鬼才・濱口竜介監督が村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』の中の同名作を映画化。原作のエッセンスを受け継ぎつつオリジナルのエピソードで大胆に脚色し、妻を失った舞台俳優兼演出家の喪失と再生の物語を多層的なストーリーテリングで綴る。亡き妻の秘密に迫ろうとする主人公の苦悩を体現した西島秀俊や、彼の専属ドライバーを務める寡黙な女性を透明感たっぷりに演じる三浦透子ら、俳優たちの繊細な演技も心に残る。カンヌ国際映画祭4冠、ベルリン国際映画祭銀熊賞、ゴールデングローブ非英語映画賞に輝いた偉業に続き、アカデミー賞でも作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の4部門にノミネート(日本映画の作品賞ノミネートは史上初)。劇場公開中。

【関連記事】世界で絶賛を浴びる映画監督・濱口竜介にインタビュー、 独特な映画作りの裏側

『DUNE/デューン 砂の惑星』

『メッセージ』や『ブレードランナー 2049』でSF映画の鬼才としての地位を確立したドゥニ・ヴィルヌーブ監督が、かつてデヴィッド・リンチも映画化したフランク・ハーバートの名作SF小説の映像化に挑戦。人類が地球以外の惑星に移住し宇宙帝国を築いた未来を舞台に、政治的陰謀劇、未知の惑星での冒険、さらに未来が見える特殊能力を持つ青年の成長物語など多様なテーマを壮大に描き出す。ヴィルヌーブ監督らしいスタイリッシュかつ静謐な映像美にも息を呑む。アカデミー賞作品賞ほか全10部門にノミネート。U-NEXT、Amazonプライムビデオなどで配信中。

【関連記事】圧倒的な映像力と緻密な音で「伝説の惑星」が目の前に現れる、『DUNE/デューン 砂の惑星』

『ドリームプラン』

黒人姉妹ビーナス&セリーナ・ウィリアムズを世界最強のテニスプレイヤーへと育てあげた父親リチャードのサクセス・ストーリーを映画化。テニス未経験でありながら独学で指導法を研究し、誰もが無謀と思うような“ドリームプラン(計画書)”に沿って姉妹の才能を開花させていく破天荒な父親をウィル・スミスが熱演。全身全霊で家族に注ぐ愛情の深さと、どんな逆境でも信念を貫いて前に突き進む力強さで感動を誘う。アカデミー賞作品賞ほか全6部門にノミネート。2月13日より劇場公開。

---fadeinPager---

『リコリス・ピザ』

カンヌ・ヴェネチア・ベルリンの世界3大映画祭で監督賞を受賞している名匠ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作。出世作『ブギーナイツ』と同じ1970年代アメリカのサンフェルナンド・バレーを舞台に、10代の男子高校生が10歳年上の女性と織りなす初恋模様を、従来のアンダーソン監督作よりも明るく軽やかなタッチで映し出す。共に本作で映画デビューを果たした、三人姉妹バンド「HAIM」のアラナ・ハイムと故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンの瑞々しい演技も印象的。アカデミー賞作品賞ほか全3部門にノミネート。2022年夏公開予定。

『ナイトメア・アリー』

『シェイプ・オブ・ウォーター』で作品賞をはじめアカデミー賞4部門に輝いたギレルモ・デル・トロ監督が、ブラッドリー・クーパーやケイト・ブランシェットら実力派俳優たちを集め、1946年に出版された傑作ノワール小説を映画化したサスペンス・スリラー。興行師としてショービジネス界で成功した男が思いがけず人生を狂わせていく様を、奇妙で不穏な空気に包まれたデル・トロならではの世界観とファンタジックな映像美で魅せる。アカデミー賞作品賞ほか全4部門にノミネート。3月25日より劇場公開。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

『ピアノ・レッスン』で女性監督初のカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたジェーン・カンピオン監督によるNetflixオリジナル映画。1920年代のアメリカ・モンタナ州を舞台に、粗暴で冷酷な牧場主と彼を取り巻く人々との複雑な人間関係を、一触即発の緊迫した心理描写で映し出す。西部劇というフォーマットに現代的なテーマを巧みに織り交ぜながら、予想もしない展開へと誘うカンピオンの作劇が圧巻。物語の軸となる牧場主を演じるベネディクト・カンバーバッチのカリスマ性も必見。アカデミー賞で作品賞をはじめ本年度最多の11部門12ノミネート。Netflixで配信中。

『ウエスト・サイド・ストーリー』

1961年にも映画化された名作ブロードウェイ・ミュージカルをスティーブン・スピルバーグ監督が再映画化。1950年代マンハッタンのウエスト・サイドで移民グループが激しく対立する中、2人の男女が“人種による分断”を越えて禁断の愛に落ちていく様を、スタンダードナンバーとして親しまれている名曲の数々とダイナミックなダンスによって織りなす。さらに「分断」と「不寛容」という現代アメリカ社会にも通じる社会問題を物語の根底に描き込み、「異なる立場の者同士が対立を超えて共存できるのか?」というメッセージを投げかける。アカデミー賞作品賞ほか全7部門にノミネート。2月11日より劇場公開。

【関連記事】映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のあらすじと見どころ。伝説のミュージカルがスピルバーグの手で蘇る!