ヴァン クリーフ&アーペルのサポートを受け、2012年に開校したジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」が主催する、貴重なメンズリングをテーマにしたエキシビション「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」が3月13日まで開催中だ。会場となるのは、東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3」。展覧会の詳細は『Pen』2月号でも特集されているが、その特集に登場したスタイリストの小林新さんが実際に展覧会へ足を運び、集められた多彩な指輪をつぶさにチェック。男の指輪の魅力を熱く語った。
デザインの殿堂に集結した、メンズリングの希少なコレクション
「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」は、ジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」が、ヴァン クリーフ&アーペルのサポートで開催したエキシビションだ。パリでデザイン家具やアートを扱うアンティークディーラーとして知られたイヴ・ガストゥが、30年以上にわたって個人的に蒐集し続けてきた指輪のコレクション。その中から選りすぐりの、古代から現代までの貴重な指輪400点以上を一挙に展示するというもの。
その展覧会場に選ばれたのが、東京ミッドタウン内にある21_21 DESIGN SIGHT。デザイナーの三宅一生が発起人となり、デザインを通じてさまざまな出来事や物事について考え、世界へ向けて発信&提案を行う場として2007年に誕生した施設だ。設計を担当したのは安藤忠雄。「日本の顔としての建築」をテーマにデザインされ、折り曲げられた巨大な鉄板の屋根が特徴的だ。
イヴ・ガストゥは1984年にパリのサンジェルマン=デ・プレ地区にギャラリーを開いているが、ギャラリーのファザードのデザインを依頼したのが、イタリア建築界の巨匠であるエットレ・ソットサス。いまではすっかりサンジェルマンのアイコニックな建物になっているが、ファザードのデザインは当時、スキャンダラスな話題を集めたほど独創的だったと聞く。そういう意味では日本の会場の21_21 DESIGN SIGHTとの親和性もあるのではないだろうか。窓をステンドグラス風に設えたギャラリーに並ぶ、類希な指輪の数々。ゴシックで神秘性を帯びた彼のコレクションの世界観とマッチした空間演出が見事だ。
「想像していたよりもひとつ一つがデザイン性に富んでいて、僕の想像を超えるデザインの指輪ばかりでした。見た覚えがあるものもありましたが、宗教色が強いものに特に惹かれました。魅力的というか、目新しかったし、すごく興味深かったですね」
そう語るのはPenでも活躍するスタイリストの小林新さん。
「宗教色の強い指輪は、たぶん手を動かなくていい人たちのもの。ある意味装備のひとつ。それは権威の象徴だったりするわけです。だから指輪そのものも大きい。装飾の細かさも素晴らしい。ひとつのものに情熱を注いで、つくられていた時代のものでしょう。それは現代とは比べることができないものだと痛感しました」と小林さんは話す。
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個人コレクションとして秘蔵されてきた、膨大な数の指輪をお披露目
ジュエリー、特に指輪は、女性のためのものと思われがちだが、男性も太古から指輪を身につける習慣があった。皇帝や王族たちはその権威や権力、精神性の象徴として長い間、指輪を用いてきた。現代では個性を発揮するファッションの要素として指輪を気軽に身につけるようになったが、それでも社会秩序やジェンダーに対する反抗のシンボルとして指輪は使われてきた歴史がある。
本展では、17世紀ベネツィア共和国のドージェ(元首)がはめていた指輪から、現代アーティストが手がけた指輪や、1970年代のアメリカにおけるバイカーリングまで、400点以上ものメンズリングが集められている。会場は「歴史」「ゴシック」「キリスト教神秘主義」「ヴァニタス(空虚)」「幅広いコレクション」という5つのテーマに分類され、それぞれのテーマの解説と指輪が展示され、メンズリングの多彩な魅力が一挙に味わえる構成になっている。これほどの男性用の指輪が一堂に会した例はなかったのではないだろうか。
本コレクションを集めたイヴ・ガストゥは1948年にフランスのカルカソンヌで生まれた。アンティーク商を経て、84年にパリのボナパルト通りにギャラリーをオープン。家具やアート作品を中心に、前衛的なデザインを紹介する先駆け的な存在として知られていた。そんな彼が集めた膨大な数のメンズリングのコレクションは、2018年にパリの「レコール」で展示されるまで、その存在が秘密にされていたと聞く。今回のエキシビションでは30年以上にわたって世界を旅して指輪を蒐集し、コレクションをつくり上げていった彼のトレジャーハンターとしての一面を明らかにすることも目的のひとつになっている。指輪それぞれが、コレクターとしての彼の嗜好やヒストリーを想起させる。残念ながらイヴは2020年に逝去し、コレクションは彼の息子のヴィクトールに受け継がれているが、彼の最後の遺言、あるいは最後のクリエーションともいえる展覧会になっている。
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歴史や成り立ちなど、物語のある指輪に興味を覚える
「職業柄、普段は結婚指輪以外で身につけることは少ないですね」と苦笑いする小林さん。衣裳などに引っ掛けてしまうことは避けなければならないし、仕事で大きな指輪は邪魔になることもあるからだ。しかしスタイリングする立場からすると、男性が指輪をしていることは好きだと話す。「時には女性以上にセクシーさを感じる」と笑う。
「会場で見たコレクションでまず気になったのは、図録の表紙にもなっている『天使の指輪』と名付けられた指輪です。ゴールドにブルーの印章がついているモデル。写真で見るよりもはるかに装飾の細かさが秀逸で素敵でした」と、会場の入り口付近の「歴史」に展示されたデュポンシェル社製の指輪が印象に残ったという。
手持ちの指輪のなかでは特にカルティエの三連リングが好きという小林さん。「歴史」のコーナーに展示された1968年にカルティエがつくった指輪も気になった様子。
「このカルティエ製の指輪のタイトルは『ヘリオトープ、あるいはキリストの血』。緑の色がとにかくきれいでした。しかも石に赤の斑点があり、それが中世の時代は、キリストの血が含まれていると信じられていた。服でもディテールの意味を知ると、ついつい惹かれてしまうものってありますよね。まじないや宗教的な意味合いとか、この指輪にもそんな感覚が感じられます。そういうの、すごく好きなんです(笑)」
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アンティークとの出合いは一期一会
今回のエキシビションでは、厳選されたといえどもその膨大な指輪のコレクションに小林さんも驚いている様子。しかも普段からアンティークなどの古いものが好きな小林さん。図録に掲載された指輪の詳細についても気になるようだ。
「骨董市とかアンティークマーケットとか、海外に行くと必ず訪れます。欲しい!と思ったものを発見するとすぐに買ってしまいますね。アンティークとの出合いは一期一会なわけで、悩んでる暇はないですから。僕が欲しくなるものって、そもそも実用的に要るものではないものがほとんどなんです。要らないのに直感的に買ってしまう。計算ではなく心が動くかどうか。その時に買わなければ二度と手に入らないものだからです」
小林さんもある意味、トレジャーハンターだ。だからこそ、イヴ・ガストゥのようなコレクターの心情も理解できるのだろう。それにしてもこれほどの量の、これほどの多彩な指輪は、小林さんの言う“偶然”だけでは集まらない。イヴ・ガストゥの情熱と心眼なしに蒐集は叶わなかったはずだ。この希少なコレクションは、決して見逃してはならない。
『メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション』
会期:2022/1/14~3/13
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
東京都港区赤坂 9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
TEL:0120-50-2895(レコール事務局 平日11時〜19時)
開館時間:11時~18時
無休 入場無料 予約不要
まん延防止措置等重点措置の適用地域につき、開館時間に変更の場合があります
開催の詳細は下記サイトで確認を
www.lecolevancleefarpels.com/jp/ja/mens-rings-exhibition