買うではなく「預かる」。次世代へのバトンをつなぐ、アンティークの指輪の魅力

  • 写真:丸益功紀(BOIL)
  • 文:杉本勝彦

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岡本龍允(右)、岡本竜(左)●ソラックザーデ 共同オーナー。2005年に大阪で、兄の龍允と弟の竜のふたりで「ソラックザーデ」を設立。12年に拠点を東京に移し、店舗をオープン。歴史を踏まえた提案力でアーティストなどの支持を集める。国内外の映画でジュエリーやアイウエアの監修も行う。 小林新(中央)●スタイリスト。1978年生まれ。2006年に独立。UM所属。雑誌や広告、俳優のスタイリングなど幅広く手がける。アートへの造詣も深く、独自の世界観に定評がある。www.um-tokyo.com/kobayashi

サステイナブルな観点からもヴィンテージやアンティークの品々がいままた注目されている。さまざまな歴史や文化的な背景を纏い、現在まで大切に受け継がれてきたアンティークの指輪。その魅力を、識者が語り合った。

指輪というモノを通して、文化や歴史を背負う

東京・原宿の一角で、希少なヴィンテージアイウエアとアンティークジュエリーを取り揃えるショップ「ソラックザーデ」。世界にも類を見ない指輪を扱うのが岡本龍允さんと竜さんの兄弟だ。この日は、スタイリストの小林新さんを迎え、龍允さんとアンティークの指輪の魅力について語り合った。ファッションのアクセサリーとしてだけでなく、世代を超えて受け継ぐことの意義とは?

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ソラックザーデで扱う指輪の一部。古代ローマの彫刻を施した宝石「インタリオ」をはめ込んだ指輪をはじめ、1930年代〜40年代につくられた指輪「タンク」など、20世紀初頭のアール・ヌーボーやアールデコ様式のものも。

岡本 小林さんはトラッドやヴィンテージにも精通されていて、歴史的な文脈を踏まえたスタイリングも多く、いつも興味深く拝見しています。ジュエリーについてはどのようにお考えでしょうか。

小林 アンティークジュエリーをファッションに取り入れるとしても、単にアンティークだからいい、というわけではない気がします。私のまわりの古いもの好きな人は、その時代背景を知っていたり、独自の美学をもっていたり、身につける理由をちゃんともっている人が多いように思います。

岡本 この店には10代から100歳まで、幅広い年代の方がいらっしゃいますが、本物に触れて自分の感性を磨きたいという人や、歴史や文化を大切に考えられている人が多いです。流行として世の中で提案されているスタイルではなく、自分のスタイルをつくりたいという方たちですね。

小林 それは素晴らしいですね。スタイリストという仕事柄、身につけているものを尋ねられることがあります。同じものを買って真似することはできますが、その人に似合うかどうかは別の話。自分のスタイルというものを意識できる人はお洒落だと思いますね。

岡本 自分の感覚やスタイルを大事にするというのが重要ですよね。小林さんはファッションの文化や歴史がお好きで、それを現代的な解釈で提案されていると思いますが、それは私たちも同じです。アンティークジュエリーをスタイリングに取り入れるなら、小林さんはどのような提案をしますか?

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ヴィンテージの服や時計にも造詣の深い小林さん。「古い時計と同じく、年代モノの指輪には『預かる』という感覚が生まれる」と、世代を超えて受け継ぐことの意味を感慨深げに語る。

小林 普段の着こなしにジュエリーを取り入れるのであれば、一点豪華主義が好みです。ジーンズやTシャツといったカジュアルなスタイルに合わせるのが素敵だと思いますね。ただデニムとTシャツを着ているだけの人と、ジュエリーをうまく重ねている人とでは雲泥の差がある。そこにセンスの違いが表れると思います。それをサラッとできるとかっこいいですよね。たとえば、ニューヨークのカーライルホテルに泊まるような人が、ヤンキースのキャップにTシャツ姿だけど、きれいなジュエリーをつけていると、無茶苦茶かっこいい。人は見た目で判断してはいけないというけど……。

岡本 図らずもジュエリーがすべてを物語っている感じですよね。

小林 それは裕福か否かにかかわらず、偽物と本物が感覚的にわかるような人だとも思います。

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次代を担う若い世代にこそ、アンティークに触れてほしい

岡本 私たちの店でも、実際に買うことはできないけどアンティークジュエリーに憧れる、という若い世代にたくさん見てもらっています。それはなぜかというと、彼らが次代の文化を担うからです。歴史的、文化的なものを自分の感覚に馴染ませて新しい時代をつくってほしいと思っているんです。

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弟の竜さんとともにソラックザーデのオーナーを務める岡本龍允さん。しっかりと対話を重ねた上で、信頼して預けられると思う人にしか指輪は売らないという。その一方で「次代の文化を担う若い人にこそ、アンティークに触れてほしい」との想いから、若い世代とも積極的にコミュニケーションを取るという。

小林 アンティークジュエリーの場合は、歴史の一端を担うという自覚のある人に身につけてほしい。いま、古い腕時計を買うことを「預かる」と表現したりしますが、個人で所有する期間は限りがあっても、そのものは存在し続け、また誰かの手元に渡る。だから、いまは預かっているだけという感覚が生まれます。買い替えの効く現行品にはない感覚ですよね。

岡本 100年もののアンティークも、つくられた当時は現行品だったわけです。それが現代まで残っているのは、大切にされてきた証し。「つくる」「伝える」「使う」というバトンが、今日まできれいにつながっているからです。アンティークの価値は経年変化や物理的な要素だけではなくて、それが大切につながってきたという点にもあると思っています。

小林 親がつけていたりと、アンティークジュエリーには受け継いでいく魅力がありますよね。

岡本 イヴ・サンローランがファッションについて語ったことで、「ファッションは見た目の美しさだけでなくて、不安を取り除き、自信を与えるパワーがある」というような言葉を残していますが、ジュエリーも同じだと思います。

小林 僕は俳優のスタイリングも手がけますが、舞台挨拶のように複数人が登壇する場なら、その人がいちばん魅力的に映るようにと背中を押してあげるのも仕事です。アクセサリーも“本物”をつけるとお守り代わりになり、その姿から自信があふれるんです。

岡本 私たちもお守りという言葉はよく使います。指輪は儀式で使われてきた歴史がありますし、信じるという力の結晶のようなもの。現代でもそんな信じる力が大切だと思います。

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ソラックザーデの店内。商品はディスプレイせずに、客との対話の中で、その人その人に合ったジュエリーやメガネを提案する。

SOLAKZADE

住所:東京都渋谷区神宮前4-29-4 ゴローズビル1F・B1 
TEL:03-3478-3345 
営業時間:14時〜19時 
定休日:水
http://solakzade.com

※この記事はPen 2022年2月号の第2特集「男たちの指輪物語」より再編集した記事です。