男にとって、指輪とはどんな意味があるのか――。そのヒントを探る展覧会が、日本でまもなく幕を開ける。2022年1月から東京・六本木で開催される『メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション』展だ。会場に並ぶのは、パリでアートと家具のギャラリーを営むイヴ・ガストゥが個人で集めた私的コレクション。指輪の歴史や文化的な側面から、装身具としての意義まで、男たちの指輪をめぐる物語をひも解いていこう。
親子2代にわたって情熱を傾けてきた、男の指輪の魅力とは?
蜘蛛の巣や骸骨をモチーフとしたバイカー御用達のリングから、仕掛け細工が施されたアンティークの品々、宝石をはめ込んだ高貴な司教の指輪まで。イヴ・ガストゥによる指輪コレクションは、900点を数える壮大なものだ。
「男の指輪をテーマにしたコレクションは、世界でも唯一でしょう」
そう語るのは、先頃亡くなったイヴの情熱を受け継ぐ、息子のヴィクトール・ガストゥだ。
「指輪は小さな彫刻。そして彫刻は最も官能的なアートです。手で触れ、かたちやボリュームを感じるもの。指にはめるとすぐに自分に合うか否かが感じ取れる。指輪は身につける者と肉感的な関係を結ぶ、特別なアクセサリーです」
イヴ・ガストゥは、1984年、パリのサンジェルマンのボザール美術学校の隣にギャラリーを開いた。ファサードのデザインをイタリア建築界の巨匠エットレ・ソットサスに依頼し、アレッサンドロ・メンディーニやロン・アラッドなどの斬新なデザイン家具を紹介。いまも変わらぬ白黒のファサードは、当時は反対署名運動が起きるほど前衛的だったという。
「父はいつも、他人とは違うものを見ていました。90年代には60年代〜70年代の未来派デザインを再発掘しましたが、流行り始めると『つまらない』と別のものに目を向けた。父のギャラリーは常に“発見”のある場所でした。現在も彫刻と家具との境界にこだわっています。これは彫刻か、椅子か、と考えてしまうようなら面白い」
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蒐集のきっかけとなった、司教の指輪
先見の明と独自の視点をもったギャラリストとして知られ、オブジェとしてだけでなく有用性のある彫刻にこだわったイヴ。彼がプライベートでコレクションしていたのが、小さな彫刻、指輪だった。その情熱の発端は幼少期に遡る。
「カルカソンヌの教会でミサに出席した父は、聖体拝領の時に司教の指にはまっていた指輪に魅せられ、指輪見たさに何度も拝領の列に並び直したのだそうです」
イヴが本格的に蒐集を始めるきっかけも、司教の指輪だった。
「ある時、メレリオ・ディ・メレーという老舗ジュエラーがストックを放出しました。買い取りに出かけた父は、教会に納品されなかった司教の指輪の数々を発見します。こんなお宝があるのに誰も見向きもしないとは!と、本格的にコレクションし始めたのです」
父から指輪をプレゼントされ、父のコレクションを日々目にするうちに、その情熱は息子へと受け継がれる。父子は旅先やオークションで、指輪を購入し続けた。
指輪を買う際の基準は?との質問にヴィクトールはたったひと言、「男の指輪」と答える。希少な宝石や値段ゆえではなく、特定の年代のアンティークだからでもない。一つひとつの指輪に惹かれる理由は、言葉では説明できない。コレクションの中には、大きすぎたり、彫刻が込み入って肌に引っかかったりと、身につけるのに適さない指輪もあるが、親子それぞれに愛用の指輪がある。
「父のお気に入りのテーマはヴァニティと宗教。熱心なカトリック信者ではないが、キリスト像をめぐる審美性、大聖堂や彫像、宗教がもたらす狂気や教会の力に魅せられていました。過ぎゆく時を思い、ユーモアを交えて人生を捉えることを重んじていたのです」
スカルやキリスト像の入った指輪は、ときに相手を挑発し、驚かせる。そんな効果を、イヴは楽しんでいたという。蒐集が進むにつれ、男性用の指輪といえばガストゥに、と持ち込む人も増え、コレクションは拡大を続けた。最後にはなんでも買ってしまい、どこでノンと言えばいいのかわからなくなった、とヴィクトールは笑う。
「コレクションはすべてを集めたところで完成するものです。でも男の指輪に終わりはありません」
そこで父子は、書籍に残すことで、いったん終止符を打つことに。ヴァン クリーフ&アーペルが支援するジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」と出会い、書籍の刊行と同時に『メンズ リング』展がパリで開催されたのが2018年。コレクションの主が世を去ったいま、その情熱を宿す指輪から選りすぐりの270点が日本にやって来る。
『メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション』
会期:2022/1/14~3/13
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
東京都港区赤坂 9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
TEL:0120-50-2895(レコール事務局)
開館時間:10時~19時
無休 入場無料 予約不要
※開催の詳細は下記サイトで確認を
www.lecolevancleefarpels.com/jp/ja/mens-rings-exhibition