日本と台湾。各ジャンルに精通するクリエイターそれぞれが考えるクリエイティブのいまと、未来のクリエイティブを予想する短期連載<日本×台湾クリエイター未来予報>。
第四回のゲストは、桃園国際空港オリジナルの香り「国門香」を手がけたことで国内外から注目される台湾茶の香水ブランド「P. Seven」の創業者兼パフューマーの潘雨晴(Pan)と、サスティナブルフードやアジアの食文化をユニークに解釈し続ける日本人シェフ、森枝幹。
アフターコロナでますます重要視されていくであろう、生活の中で自らを整える「癒」をテーマに、クリエイションの今と未来について語ってもらった。
<癒/心身を整える>の未来予報
台湾で生活に根付く漢方や薬膳料理。日本でも少しずつ、その良さが伝わり、若い人の間ではゆるやかに健康を維持していく無理ない方法として人気になっている。かかりつけ漢方薬局に遠隔で症状を伝えると、自分用に配合された漢方を送ってもらえる仕組み。台湾茶や台湾薬膳を取り入れた生活で心も体も癒される。
一日一回は必ず台湾茶を淹れます。お湯を沸かすところから、茶の香りを聞き、口に含んで甘さを感じるまでの時間が、自分を落ち着かせてくれます。この時間が取れないと「自分に申し訳ない」ですね。
――潘雨晴(P.Seven)
コロナ禍で外出を制限され、会いたい人に会ったり、行きたい場所へ行くことが減り、様々なことを感じにくくなったことで、生活のなかの「香り」が果たす役割が重要視されていく流れを感じています。
現在は台湾各都市やブランドの香りを創作するプロジェクトが忙しく、なかなか時間が取れていないのですが、自分にとって大切なのは、台湾茶を愉しむ時間です。
今は昼食後の午後に一服するだけで精一杯ですが、本当なら朝起きたてにも淹れたいですね。私は10年以上経っている「老茶」の中でもとくに2、30年くらい経っているものや、東方美人茶のようにしっかり発酵したお茶の余韻を味わうのが好きです。
お湯を沸かしながら自分を静め、香りを聞いてから口に含むと、一口目がとても甘く感じるんですよ。このゆっくりした時間が私を癒してくれます。逆にこの時間が取れないと、自分自身に申し訳なくなりますね。
朝ごはんには、削ぎ落とされて柔らかく、角が立っていないものを取ります。出汁も一番出汁だと強すぎるくらい。今、「抜く勇気」こそが必要とされているようにも思います。
――森枝 幹
コロナ禍ではこれまでに味わったことのないような制限を体験しましたよね。普段から「あと何回旅行できるだろう」、「あと何回料理できるだろう」っていうことはよく考えていたけれど、当たり前のように来ると思っていた明日が来なくなったことで、人に会う一回一回の機会の重みが変わりました。
ガストロノミーで旨味や酸味など扱う情報が多いからか、自分にとっての「食」による癒しは朝ごはん。削ぎ落とされて柔らかく、角が立っていないものを取ります。出汁にしても、一番出汁だと強すぎるくらい。
味を決めるのは比較的簡単だけど、「抜く勇気」こそ今必要とされているようにも思うんですよね。台湾やアジアの料理ってそういうのがまだ残っていて、いいなって思います。大根の甘酢漬けとかピーナッツとか、それ単品で食べるとなんてことはないんだけど、肉料理の横にあることでじわっときて「いいねこれ」ってなりません? 日本では少なくなってきている気がするけど、そういう抜けを大切にしていかないと、疲れる社会になってしまう気がします。
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視覚が訴えてくる情報は多いけれど、嗅覚はそれとまた違う情感を与えられる。香りは「魂」を吹き込むことができる。
――潘雨晴(P.Seven)
世界には紅茶や緑茶の香水というのはありますが、私は台湾茶の“香りの層が変化していく”という魅力に惹かれたので、それを香りで表現したいと思って「P.Seven」を立ち上げました。
人間にとって、視覚で入ってくる情報はたくさんありますが、嗅覚はまたそこに違う情感を与えることができるので、香りは「魂」を吹き込むことができるといつもみなさんにお伝えしています。桃園国際空港の香り「国門香」はこの秋、日本で開催された台湾ナウのキックオフプログラムのデザインイベント「台湾ハウス」で、会場の香りとして採用されました。これも主催者が「いまは行き来が制限されているけれど、いつか台湾の空港で再び『国門香』を嗅いだ時に、日本のみなさんに台湾を感じていただきたい」という気持ちが込められています。
香りをデザインする時は、まず絵を描くようにそのテーマを想像します。するといくつかキーワードが浮かぶので、それを手がかりにメインとなる香りのベースを6〜7個ほど選びます。油絵と同じで、混ぜたり重ねたりすることで自然にその絵画を表現することができます。シグネチャー的な存在の「茗」は、ミルクのような香りと味わいのある「金萱(キンセン)茶」という台湾茶と、ラストノートに「トンカビーンズ」や「オリバナム」といった漢方薬にも使われる植物を調合することで、安心感を感じられる香りに仕上げました。
台湾では個人の味の好みが確立されていて、出された料理をそれに合わせていけるのがすごい。「自分はこう思うけど、あなたはそう思うんですね」っていうのが受け入れられると、クリエイティブ性が高まりますよね。
――森枝 幹
私がレシピをデザインするときもまさに、ゾーニングによって香りのあるものを使い分けています。それも、スパイスごとにというよりは、“こういう土地で育つものはこんな感じ”とか、実の形といった情報が脳内で本棚のように仕分けされているから、新しいものに出合うと「これはどこに入れようかな」って思います。
レシピをデザインする時はそれこそマインドマップのように、そのなかから近いもの同士をスワップして、料理の香りにほんのり違和感をつけるようなことをしますね。ただ、国やエスニシティ(民族性)によって、味覚に関する“見えている色”が違うとも感じます。
台湾をはじめアジアの人って、自分の味の好みがそれぞれ確立されていて、店で出された料理を自分の好みに合わせていくことができますよね。店側も「最後は自分で調整してね」ってテーブルに調味料セットみたいなものが置いてあったり。食べる側の好みに調整することを嫌がらない。漢方薬も、自分の体調によって調合を変えるでしょう?
料理をつくる側、食べる側の双方が「自分はこう思うけど、あなたはそう思うんですね」っていうのが受け入れられると、クリエイティブ性が高まりますよね。
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台湾では消費者も企業もサスティナブルに対する意識は非常に高くて、これが良い循環を生み出していると思います。
――潘雨晴(P.Seven)
最近、台湾がサスティナブルに対して先進性があるという認識が広がっているのも嬉しいです。
先ほどお話しした「台湾ハウス」でも、リサイクルガラスで作られた「珊瑚ストロー」という作品や、それまで廃棄されていた台湾パインの皮や葉で作られたトレイといったプロダクト、リサイクル可能なレンガ素材で作られた会場の什器などが話題になりました。
台湾では消費者も企業もサスティナブルに対する意識は非常に高くて、これが良い循環を生み出していると思います。「P.Seven」が香水を入れている三角形のガラス瓶も、リサイクルガラスを用いていますし、パッケージ類はできるだけ台湾で製造しています。今後はさらに、包装を開封した後に香水置きなど別の用途で使っていただけるよう、工夫していくつもりです。
食のために払うお金も投票の一つ。現代社会の大量消費、おいしいと言われているものの“価値を分散させる”ことが自分のテーマ。
――森枝 幹
自分がずっとテーマとしているのが、現代社会の大量消費だったり、おいしいと言われているものの価値を分散させること。「夏には鰻を食べよう」とか「やっぱり刺身はマグロだ」とかね。料理にブラックバスを使うのも、それが一番おいしいというわけではないけれど、食べることのために使うお金を払うということも、投票の一つだということを伝えていきたいからなんです。
台湾のことはずっと気になっているんですよ。高雄にいる友人のシェフのところを訪ねたことも、彼と東京の私の店でイベントをしたこともあります。最近、台北から東部に行きやすい道路ができたことも知っています。絶対に面白くてハマるに決まってるから、ずっと片目で見ていたようなところがあるんですけれどね。台湾が本当にカルチャーのど真ん中になってきていると思って、うらやましく見ていますよ。
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Taiwan NOW(台湾ナウ)
台湾・高雄会場(12月25日予定):衛武営国家芸術文化中心
※東京会場(KITTE丸の内) / バーチャル会場は既に会期終了
https://www.taiwannow.org/
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※開催日時・内容などは変更となる場合があります。事前の確認をお薦めします。