『イカゲーム』が使い古されたフォーマットでも面白い理由

  • 文:てらさわホーク

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Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

『バトルランナー』(1987年)や『バトル・ロワイアル』(2000年)、または『ハンガー・ゲーム』(12年)などなど、「死のゲーム」映画の歴史は古い。コミックの世界に目を移しても『カイジ』シリーズを筆頭に、同ジャンルはいつでも花盛りだ。フィクションにおいて、たいがいは大金持ちの支配階級が主催するゲーム大会。参加を強いられるのはいつでも貧しいものか、脛に傷をもつものだ。彼らは巨額の賞金のために、または生存のために理不尽極まりない戦いに身を投じることになる。敗けて無惨に死ぬか、たったひとり勝ち抜いて自由を手にするか。

このジャンルに新たに参戦し、全世界で大ヒットを記録したのが韓国発、Netflixオリジナルのドラマシリーズ『イカゲーム』だ。借金まみれで自堕落な主人公ギフン(イ・ジョンジェ)を含む456人のプレイヤーがゲーム会場に集められ、わけもわからず死闘を繰り広げる羽目になる。出場者の一人ひとりには100万ウォンの値がつけられ、彼らが命を落とすたびに賞金額が積み上げられていく。

最終的には総額456億ウォン(日本円にして約45億)となり、勝ち残ったひとりがその全額を手にすることになる。サブマシンガンで武装した仮面の係員たちが監視する物騒な状況に似合わず、出場者たちが最初に強いられた競技は「だるまさんがころんだ」。完全に子どもの遊びだが、失格になったその瞬間に頭をブチ抜かれるのだからただ事ではなかった。

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巨大な少女の人形が、「だるまさんがころんだ」を唱える。

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「死のゲーム」そのものの創意工夫が秀逸

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『イカゲーム』の物語自体はそう新しいものではない(というか「死のゲーム」もののフォーマットは作品を超えて概ね共通しているから、それは大した問題ではない)。が、本作はもはや定番となったジャンルのなかでも出色といえるシリーズとなった。実際のところ、配信開始時にとりあえず試しに第1話を……と観はじめたが最後、そのまま最終回の第9話まで見続け、気付けば約9時間が経過していたというぐらいだ。思わずそこまで引き込まれたのは、いくつもの理由がある。

まずは肝心要の「死のゲーム」、それそのものの創意工夫だ。全話を通して計6種の競技が戦われることになるが、そのほとんどは我々日本の観客にも馴染みの深い、子どもの遊びだ(ひとつだけ耳慣れないゲームが出てくるのだが、ネタバレになるので黙っておく)。いずれもルールは極めて単純明快で、それだけに勝ち負けがダイナミックなまでに分かりやすい。この手の作品におけるゲームはシンプルであればあるほどよいのだ。

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巧みな絵作りと抑制の効いた演出

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画作りも巧みだ。揃いのジャージを着せられた出場者たち、マスクを被ってピンク色の制服に身を包んだ監視者たち、あるいは彼らが集められる謎のアリーナなどなど、プロダクション・デザインは狙ってチープに作られているのだが、シンプルな画面の仕上がりは貧乏臭さをまるで感じさせない。また、主人公を筆頭に追い詰められた人物が次々に登場するけれども、この人たちも必要以上に心のうちを台詞で説明したり、何かあるたびに大仰に絶叫したりしない。実は演出に抑制が効いていて、だからこそ要所要所で飛び出すブルータルな描写の衝撃が、より増しているといえる。このメリハリが、9時間連続視聴さえ可能にしているのではないかと思う。

監督・脚本は映画『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年)を手がけたファン・ドンヒョク。聾学校における性的虐待事件を描いた同作は実話に基づいており、鑑賞後しばらくズーンと打ちのめされる力作だった。今回も完全に荒唐無稽なデス・ゲームものと見せて実は、富めるものが弱者を食い物にする社会の絶望を切々と描き出している。シーズン2の製作も噂される『イカゲーム』。すでに12時間ほど予定は空けてあるので、早く続きを観せてほしいところだ。

『イカゲーム』

原作・制作:ファン・ドンヒョク
出演/イ・ジョンジェ、パク・ヘス、ウィ・ハジュン
1シーズン全9話 Netflixで独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81040344

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