【Penが選んだ、今月のアート】
建築家の妹島和世と西沢立衛。着工したばかりの建築を含め、世界中で進行するプロジェクトにフォーカスした本展では、ふたりのユニットであるSANAAのプロジェクトを中心に、それぞれの事務所での仕事も紹介。現在の両名の考えを知る貴重な機会だ。

「建築が周囲の環境の中でどうあるべきか、環境とどう連続していけるのか、以前から重視していることです」
妹島和世と西沢立衛は語る。「場の歴史的なコンテクストから具体的な特色まで、幅広い状況に建物はどう溶け込み、連なるように存在できるのか」
本展を開催する建築ギャラリーでは、2003年にもSANAA展が行われている。金沢21世紀美術館の建設が進んでいた時のことで、「建築としてのフレームの中で建築と周囲をどうつないでいけるのか」と、具体的な計画を模型で示す内容だった。今回は、建築と周辺との関わりをダイナミックに探り続ける現在の考え方そのものを知る内容となっている。
「建築とは、概念としての抽象性と同時に、具体的な考察の積み重ね。本展示では、建築のあり方そのものを思考する過程を紹介しています」と妹島。
抽象的な考察と、具体的な考察と。双方を行き来するように進められるプロジェクトのあり方が、会場から伝わってくる。展示はまだ完成していないプロジェクトが中心。開放感や透明感を貫きながらも、一つひとつが大きく異なり、より大らかで複雑な建築となってきたことが興味深い。
「自由なカーブ、曲線も増えてきました。環境とより一体化する言語を探る過程で生まれた等高線のような造形です。設計ツールが進化したこともありますが、東日本大震災以降、建築と自然、自然と人間の生活そのものについてこれまで以上に深く考えるようになったことが、私たちの近年のプロジェクトの背景にあります」と西沢。
その各々において繰り広げられる多種多様な行為をつなぐことも、両名が常に心にとどめていることだ。
「ひとが集まるということは、どのような状況にあってもなくならない重要なこと。だからこそ、建築家だけでなく参加する人々自身が集まり方を考える状況が生まれていくことの大切さを考え続けています」と妹島は語る。
そうした「新しい公園」のような場を探る好例が、22年の完成に向けて工事が進むシドニー、ニューサウスウェールズ州立美術館の増築プロジェクトだ。既存美術館に隣接し、高低差のある敷地に建てられる同館は、大きさ違いの屋根とボックスで構成されており、その屋根がテラスや広場を生む。
「ランドブリッジや海抜0mの位置に残されたオイルタンクなど、街が拓かれてきた歴史を物語る一帯であり、公園から海に向かって歩くことは街の歴史を遡ることにもなる。また、美術館内から屋外へ、公園の一部を歩いて館内に再び戻るというように、さまざまなあり方で環境に触れられることを考えました」と両名。
国内におけるプロジェクトからは、来年着工予定の「新香川県立体育館」を紹介。また、12月に刊行予定の作品集のためにSANAAが制作した作品集見本も会場に展示され、彼らの思考が伝わってくる。
環境と生活が織りまぜられるように考察される時、どのような風景が生まれるのか。進行形の試みが、私たちの思考を触発する。
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『妹島和世+西沢立衛/SANAA展「環境と建築」』
開催期間:10/22~2022/3/20
会場:TOTOギャラリー・間
TEL:03-3402-1010
開館時間: 11時~18時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月、祝、12/27~2022/1/6
無料 ※要予約、開催の詳細はサイトで確認を
https://jp.toto.com/gallerma/index.htm
※臨時休止、展覧会会期や入場可能な日時の変更、入場制限などが行われる場合があります。
※こちらはPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集よりPen編集部が再編集した記事です。