2021年も残すところ約2カ月。新型コロナウイルスのかつてない感染拡大が起きる中、延期されていた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるなど、誰もが記憶に深く残るような一年だった。そしていま、過去の日本美術を題材に、さまざまな世相をえぐり取りながら、思い込みや先入観を解き放つような作品を制作している芸術家がいる。
それが千葉市美術館にて『福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧』を開催中の福田美蘭だ。福田は東京藝術大学を卒業後、最年少で安井賞を受賞して注目を集め、主に過去の名画を独自の視点で改変する作品で知られてきた。今回は浮世絵や江戸絵画のコレクションで定評のある千葉市美術館の名品とコラボレーション。菱川師宣から葛飾北斎、それに曾我蕭白などの作品を福田が自らセレクトし、それらに着想を得て描いた16点の新作などを公開している。
『閉じた屏風の中の獅子』は、曾我蕭白の『獅子虎図屏風』をあえて閉じた形に描き、蝶に向かって激しく吠える虎の焦燥感を引き出した作品だ。ちょうど目の前の蝶に驚いて、岩にしがみつく虎の滑稽な様子に思わずくすっと笑ってしまう。一方で鈴木其一の『芒野図屏風』をモチーフにした『芒野図屏風・3D』では、其一の描いた霞に覆われたすすきの風景を3D画像に再構成している。立体視によって霞が見え隠れするわけだが、思いもつかない斬新な仕掛けに驚いてしまう。
大胆なまでの見立ては『風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗』においても鮮やかだ。ここでは煙に悩まされる姿を描いた月岡芳年の同名の浮世絵から、煙を五輪マークに変えることで、一部の人々が抱いていた「オリンピックがけむたい」という複雑な心情を表している。また恋した小姓に会いたいとの思いで、町に火をつける大罪を犯して梯子を登っていく芳年の『松竹梅湯島掛額』を参照した作品では、五輪のマスコットを引用し、後戻りせずに五輪の開催に突き進んだ国の姿を描いている。この他、祝賀御列の儀のパレードを伊藤若冲の『乗興舟』にならって風景絵巻として表したり、尖閣諸島を石庭に見立てた作品もあって、福田の「奇想」ともいえるアイデアに頭を揺さぶられるのだ。
ラストには江戸時代に病気の魔除けとして描かれた『疱瘡絵』にならって、現在、コロナの影響で襲名披露の日程が決まっていない市川団十郎に伝わる「にらみ」を表現。コロナ終息を願う護符として、来館者に「にらみ」の目の部分の印刷物を配布している。福田の大規模な個展としては2013年の東京都美術館以来、約8年ぶりだ。美術の見方に新たな気づきをもたらすだけでなく、作品を通して世の中の出来事を問い直す、刺激と発見に満ちた展覧会に向き合いたい。




『福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧』
開催期間:2021年10月2日(土)~12月19日(日)
開催場所:千葉市美術館
千葉県千葉市中央区中央3-10-8
TEL:043-221-2311
開館時間:10時~18時 金・土曜日は20時まで開館。※入館は閉館の30分前まで
休館日:10/4(月)、11/1(月)、12/6(月) 休室日:10/11(月)、11/15(月)
入場料:一般¥1,200(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.ccma-net.jp