デジタル一眼に新しい風を吹き込む、ニコンのヘリテージデザイン

  • 文:ガンダーラ井上
  • 写真:宇田川淳

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電子ビューファインダーを内蔵するミラーレスカメラ。ニコン Z マウント採用。ニコンDXフォーマット有効画素2088万画素。本体質量約445ℊ(バッテリー、SDカードを含み、ボディキャップを除く)。上から、Z fc 28㎜ f/2.8 Special Editionキット(オープン価格)、Z fc 16-50VR SL レンズキット(オープン価格) 

このカメラを見た瞬間に既視感を覚えたなら、あなたはフィルムカメラの経験者だと推測する。ニコン「Z fc」は最新のミラーレスカメラでありながら、外観はフィルム時代の名機ニコン「FM2」を範としたデザインで、持つ悦びも感じられる一台。本機のデザインを担当したのはニコンに入社して7年目の鈴木舟だ。デジタルネイティブ世代だが、祖父が長く使い続けていたニコン「FM」を形見として譲り受け、アナログ機の存在を後追いで知って使い始めた。

すなわち、彼にとってフィルムで撮影することは特別な体験であり、その目的を果たす道具としてのフィルムカメラの存在感を身体で理解している。

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デザイナーの鈴木舟がニコンZfcのスタイリングのために描いたスケッチ。紙にボールペンで手描きするというアナログな手法が用いられている。

ニコンFM2へ捧げたオマージュは見た目の部分だけではない。カメラを頻繁に買い換えることは稀で、1台のカメラを大切に使い続けていた時代におけるカメラのあり方まで含めて再解釈し、デザインに反映させていると鈴木は語る。

「スペックも重要ですが、これからのカメラ作りには数値的ではなく“自分の気に入ったもの”であるかという視点が重要になると思います。そうやって選んでいただいたユーザーに対し、愛着を持って使い続けていただけるようなデザインにする。それがカメラを作る側の姿勢として必要だと思います。

今回、ニコンFM2をデザインのメインモチーフとする中で、その佇まいや雰囲気を再現することを意識しました。表層的な特徴だけでなく、全体のサイズ感やプロポーションを整えることで、かたちはまったく同じでなくても現れてくる印象が同じになることを心がけてデザインしています」

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各パーツのバランスやプロポーションを検証するために3Dプリンターで出力されたモックアップ。奥の2点の素材は石膏で、黒い樹脂製のモデルが最終版に近いもの。

そもそもフィルムを使うFM2とミラーレスカメラのZ fcでは構造が根本的に異なる。そこに元ネタをコピーしたパーツを載せただけでは、違和感だらけのコスプレ状態に。この課題を解決すべく、デジタルの新しい骨格にフィットさせるデザインのチューニングを施すことで、懐かしさを現在の視点で解釈した新しいスタイルが誕生した。

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FM2時代と同様の、直立するフォントのNikon表記をヘリテージデザインとして採用。現在の斜体ロゴとは全く異なる印象を与えてくれる。画像提供:ニコン

本機の正面に刻まれているのは、ニコンFM2時代に刻まれていた旧ロゴ。これは外観を構成する重要な要素であることから、必須条件として守り抜いたとのこと。「当時のロゴに愛着を感じてくださる古くからのファンだけでなく、知らないユーザー層にも、ニコンにはこんなカメラがあったことを知ってもらうきっかけになれば、という思いもあります」

ニコンには数多くの名機が存在するが、今回ニコンFM2がメインモチーフとして採用された理由は何だろう?「ニコンFM2は発売当時プロのサブ機として信頼を得ていた一方で、写真を学ぶ入門機として写真学校の生徒さんの大多数が持っている定番中の定番カメラでもありました。ニコンZfcも、本格的なカメラを使ったことのない方に手にしてもらい写真をもっとよく知って欲しいですし、コアな写真愛好家の方にもぜひ使っていただきたいです」

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プレミアムエクステリアは、カメラの定番を感じさせるアンバーブラウンとサンドベージュ、彩度を抑えたナチュラルグレーとホワイト、そしてフレッシュな印象のコーラルピンクとミントグリーンの6色を用意。※「Z fc発売記念 プレミアムエクステリア張替キャンペーン」は2022年5月9日をもって終了。今後は有償のみ(ホワイトとアンバーブラウンは終了)。

ニコンZ fcは、ボディの黒い張り革(人工皮革)を好みの色に変えて楽しむこともできる。用意されているのは6色。一度購入した後でも、気分を変えたい時に選べるのは、ニコンの粋な計らいだ。「今回あえて〝カラバリ〞ではなく〝張替え〞にしたのは、愛着のあるカメラを長く使い続けて欲しいという思いからです。張替えに出して、新たな装いで戻ってくる、このドキドキ感も含めた世界観も楽しんでいただきたいですね」

ニコンZ fcに込められた思いとは、アナログ操作のダイヤルをはじめとする精密機器としての感触と、最新技術がもたらす高画質の融合だ。伝説の名機がもつ 趣を追体験できるだけでなく、カジュアルに使いこなせる操作性も盛り込まれている。長年続けてきたカメラ開発の歴史があるからこそ成立するヘリテージデザイン。それは単なる懐古趣味とは一線を画すものだ。

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鈴木 舟

神奈川県生まれ。2014年多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻を卒業。同年に株式会社ニコンに入社。「KeyMission 80」や「COOLPIX P1000」などを手がけた後、ミラーレスカメラのデザインに従事。

製品情報

NIKON
https://www.nikon-image.com