ドイツでは最新鋭潜水艦の外殻に使用する特殊鋼を開発。これを「Uボート・スチール」と呼ぶ。2つの世界大戦で活躍して映画にもなった伝説的なUボートではなく、Unterseeboot(ウンターゼーボート、水の下の船)の略であり、潜水艦の総称なので誤解のないように。優れた海水耐性はもちろん、磁気帯びしにくく、割れにくい強靱な特性を備えていることから、ドイツ時計のジンでは「Uボート・スチール」をケースとリューズに使用したダイバーズウォッチ「Uシリーズ」を2005年から展開。今年はダイヤルにユニークなスクラッチ加工を施した新作「U1.DS」が登場した。
このスクラッチ加工は、ヘアライン仕上げと同じように光の反射を抑える艶消し効果をもつが、筋目にはランダムな長短があり、より複雑になるため、腕の角度などによってダイヤルの表情にさまざまなニュアンスをもたらすことになる。加工はすべて手作業でパターンも完全に不規則。スクラッチを繰り返すことは工程上できないので、模様はすべて唯一無二。いわばユニークピースであることも魅力といえるだろう。
ダイヤルから紹介したが、「U1.DS」は1000m防水のハイスペック・ダイバーズ。前述した「Uボート・スチール」を使用したケースと逆回転防止ベゼルには、ジン独自のテギメント加工も施されている。金属の表面に炭素分子を焼き入れすることで、セラミックと同等以上の表面硬度を実現。少しばかり荒っぽく扱っても、擦り傷などが残らない。逆回転防止ベゼルも特殊な結合方式を採用しており、衝撃などで外れる怖れは皆無。外周の溝によってグローブでも操作しやすく、リューズも手首に当たらない4時位置。蓄光式夜光が塗布された時分針とインデックスは太いキャンドル形が基本なので、海中での視認性も優れている。
欧州潜水器具規格にもとづく船級協会・認証機関による検査・認証や、潜水深度1000mの耐圧保証も取得するなど、機能や耐久性はまさに折り紙付き。プロユースを前提としたこだわりを隅々まで徹底したダイバーズウォッチなのである。それもそのはずで、ジンはドイツ軍のパイロットだったヘルムート・ジンが1961年にフランクフルトで創業。高機能で頑強なパイロットウォッチを始めとして、過酷な環境下でも信頼できる時計づくりで知られており、ハイレベルな品質を追求してきたからだ。
ダイヤルもベゼルもフラットな平面でシャープに造形するなど、いかにもドイツらしい端正なシルエットも魅力だが、グレーベースで質実剛健ともいえるカラーリングだけに、「U1.DS」のスクラッチダイヤルは際立った個性を放つ。タダ者ではない超本格派の風情が濃厚に漂うダイバーズモデルといえるだろう。
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