愛や反抗を歌にしても、 どこか切ないんです──人気シンガーソングライター石崎ひゅーいに影響を与えた、尾崎豊の存在

  • 写真:柏田テツヲ
  • 文:柴 那典
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石崎ひゅーい●1984年、茨城県生まれ。2012年にミニアルバム『第三惑星交響曲』 でデビュー。ライブ活動を行うかたわら、数多くの作品を発表。菅田将暉に「さよならエレジー」を楽曲提供するなど、人気、実力ともに兼ね備えたシンガーソングライター。

来年2022年は尾崎豊没後30周年の節目を迎える。混迷を極める時代の中で、いまも世代、性別、国境を超えて愛され、歌い継がれている尾崎の音楽。ここでは現在のJ-POPシーンを牽引する20代、30代、40代の実力派シンガーソングライターにスポットを当て、その魅力を語ってもらった。まずは人気、実力ともに兼ね備えたシンガーソングライター石崎ひゅーいの証言に注目したい。


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「もちろん同じことをしようとは思っていないんですけど、受け継いでいる意思のようなものはある気がします」

シンガーソングライターの石崎ひゅーいは、取材で開口一番、尾崎豊についてこう語った。2008 年、当時組んでいたバンドで横浜のライブハウス に立っていた石崎を見出したのが、尾崎を手がけた音楽プロデューサーの須藤晃だった。「最初はビビリました。 人しかお客さんがいないのに、目の前に須藤さんがいたんです。子どもの頃から尾崎さんのことが好きで、NHK の特番で須藤さんが尾崎さんについて語る映像も 観ていたし、本も読んでいたので、すぐにわかった。ライブ後、バンドのCD を買ってもらって、その時に『尾崎さんが好きです』という話をしました」

その後、12年にソロ・アーティストとしてメジャーデビュー。須藤は制作のパートナーとして歩んできた。

「須藤さんにはずっと『ひとりでやれ』と言われていたんです。バンドでやるメッセージじゃないって。それでも僕はずっとバンドにこだわっていたんですけれど、バンドもくすぶっている状態だった。須藤さんにお願いしてシンガーソングライターとしてやっていこ うと決意するタイミングがあって、そうしていまに至っています」

石崎が尾崎に出会ったのは小学生の頃。テレビドラマ『この世の果て』で「OH MY LITTLE GIRL」を耳にした。

「ものすごくいい声だなっていう印象がありました。子どもながらに心からいい曲だとも思ったし。で、その後にNHK の特番で観た尾崎さんのライブが本当にすごかったんです。感情と直結している歌で、こんな歌い方あるんだと。その衝撃が、僕にとっての音楽の原体験ですね」


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ずっと心に残るのは、 歌に込められた感情

中学年でバンドを始め、高校の頃には地元である茨城県・水戸のライブハウスに出演するようになった。バンドの方向性は当時の流行だったメロコアやミクスチャーロックだったが、尾崎はずっと憧れの存在だった。「最初から、尾崎さんみたいにライブをやりたい、あんな風になりたいという憧れはありました。バンドをやりな がらも、家でギターを弾きつつ『OH MY LITTLE GIRL』や『COOKIE』『シェリー』『 Forget・me not』を歌っていました」

石崎は、尾崎の歌の世界のどんなところに魅力を感じたのだろうか。

「歌詞で言うと、僕は『COOKIE』が好きです。『Hey おいらの愛しい人よ おいらのためにクッキーを焼いてくれ 温かいミルクもいれてくれ』 って、尾崎さんが書いた歌詞の中でいちばんかわいい歌詞なんじゃないかな。実際はとてもチャーミングな人なんだろうと思います。若い頃のライブを観ても、お茶目なところがありますよね。それに、尾崎さんって、愛を歌 っても、反抗を歌にしても、どこかに切なさがある。そこもすごく好きで す。自分もそうした部分は無意識のどこかで影響を受けています。切ないほうが腑に落ちる。ハッピーなことを書こうとしても、切なくなってしまうんです。それは尾崎さんのソングライティングを見てきたからかもしれない」

また、シンガーとしての在り方、歌 の表現も大きなポイントだと言う。

「最も影響を受けているのは、歌いっぷりみたいなものだと思います。うまく歌うとかきれいに歌うとかじゃないんですよ。感情のままにさらけ出すということが、歌を歌うということの根本にある。歌と感情を並列に出していくというような表現方法ではないでし ょうか。そこには自分も大いに影響されてますね」


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さらに石崎は、尾崎の楽曲以外に、すべてをさらけ出す人間的な部分にも心惹かれていると続けた。

「簡単な言葉で言っちゃうと、『いなたさ』だと思います。人間的なダサさというか。それを恥ずかしげもなく出す。それがエモいというところにつながるんじゃないかなと。須藤さんがプロデュースしている尾崎さんの作品って、そういうエモい部分が多いなぁっ て感じます。とにかく裸っていうか、 身になにも纏ってないんです」

尾崎の歌が時代を超えて影響力をもち続けている理由も、そんなところにありそうだ。

「服装やCDのジャケットって、時代の流行に左右されやすい。けれど、歌の中にある感情みたいなものって、ずっと変わらないと思うんです。それがめちゃくちゃ強いと、ずっと残る。尾崎さんの歌を聴いていると、そういうことを感じます」

※Pen2019年5/1・15号「尾崎豊、アイラブユー」特集よりPen編集部が再編集した記事です。