あの名曲「卒業」にも影響が!? 尾崎豊のクリエイションを支えた8冊の愛読書。

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:今泉愛子

Share:

1992年4月25日、ロックミュージシャン尾崎豊は26歳の若さでこの世を去った。あれから29回目の4月を迎えた。稀有な才能を持つ詩人でもあった尾崎だが、彼のクリエイションを支えた行為のひとつが、読書だった。曲名や歌詞にその影響を読み取れる、尾崎のイマジネーションを育んだ本をここで紹介しよう。


【関連記事】4月25日は尾崎豊の命日──楽曲のモチーフとなった、ゆかりの地を訪ねて。

【関連記事】平成最後のPenは、伝説のロックシンガーにクローズアップ! 永久保存版「尾崎豊、アイラブユー」特集は4月15日発売。


言語感覚を磨き、創造力を広げた本との出合い。

校舎の影 芝生の上 すいこまれる空――「卒業」は、少年の姿がありありと思い浮かぶ印象的なフレーズで始まるが、石川啄木『一握の砂』所収の短歌「不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし 十五の心」に刺激されたものであろうとの指摘がある。実は、尾崎豊は父の影響で幼い頃から短歌に馴染んでいた。10代の頃から、葛藤や飢餓感を瑞々しい言葉で表現していた尾崎。当時、愛を論理的に分析したエーリッヒ・フロム『愛するということ』を熟読していたことも興味深いエピソードだ。

「十七歳の地図」の歌入れ前日に一気読みしたという、村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』には「太陽の破片」という言葉を使った歌が出てくる。尾崎はそれを自身の曲名に使った。もちろん歌詞はまるで違うが、インスピレーションを受けたのは間違いないだろう。「LOVE WAY」の「共同条理の原理の嘘」という歌詞からは、見城徹(現・幻冬舎)から薦められて読んだ吉本隆明『共同幻想論』の影響が感じられる。20代になった尾崎はわかりやすさとは対極にあるなにかを探り、本を手にしていたのかもしれない。

『一握の砂』石川啄木 著 東雲堂書店版 1910年 ※絶版

26歳で早世した明治を代表する歌人が24歳の時に発表した歌集。心に浮かぶ悲しみや後悔、嫉妬など心の弱さを包み隠さず表現することで多くの人の共感を集めた。1首を1行ではなく3行で表記し、詩のような奥行きを感じさせる。

1.『共同幻想論』吉本隆明 著 河出書房新社 1968年 ※絶版

詩人、評論家である著者が、60年安保闘争後に発表した国家論。共同幻想とは人間が人間と関わり合うことで生じる観念で、国家も共同幻想に過ぎないと提言。生と死、家族制度や天皇制などを考察する。

2.『マンハッタン少年日記』ジム・キャロル 著 梅沢葉子 訳 晶文社 1982年 ¥1,944(税込)

詩人で、のちにロックンローラーとしてもデビューした著者が自身の13歳からの3年間を綴った日記。バスケットボールに打ち込み、ひったくりやドラッグに手を染めるハチャメチャな日々を記録する一方で、少年らしい内面を吐露している。

3.『愛するということ』エーリッヒ・フロム 著 鈴木 晶 訳 紀伊國屋書店 1991年 ¥1,362(税込)

冒頭で「たいていの人は愛の問題を、愛するという問題、愛する能力の問題としてではなく、愛されるという問題として捉えている」と指摘。恋に落ちる状態、自己愛、信じること、愛と性の関係、宗教との関わりを論じる。

4.『コインロッカー・ベイビーズ』村上 龍 著 講談社 2009年 ¥961(税込)

コインロッカーに置き去りにされ、施設で育ったキクとハシ。やがてハシはミスターDのプロデュースで歌手としてデビュー。キクは深海に眠るダチュラを使って街の破壊を企む。壊れかけたふたりの心を圧倒的なスピード感で描いたヒット小説。

5.『ライ麦畑でつかまえて』J.D.サリンジャー 著 野崎 孝 訳 白水社 1984年 ¥950

クリスマス休暇前に高校を退学になった主人公のホールデンはひとり、ニューヨークの街をさまよう。友人や女の子、大人たちとのやりとりや、学校や社会への反発、自分自身への苛立ちを友だちに語りかけるような言葉で綴った青春小説。

『地球 絶滅動物記』今泉忠明 著 今泉吉典 監修 竹書房 1986年 ¥9,228(税込)
こぶをもたないキリンのようなラクダ、二足歩行したゾウのように大きなナマケモノ、『種の起源』の著者ダーウィンが発見したフォークランドオオカミなど、絶滅した動物約100種の姿を描き、生息した時代や地域、体長などを紹介している。

『内なる画家の眼』ベティ・エドワーズ 著 北村孝一 訳 エルテ出版  1988年 ※絶版
どうすれば、もっと創造的になれるのか。画家であり教育者でもある著者が、物をより深く見る力を養い、直感を磨いて意識を言語化。潜在能力を解放するためのメソッドを公開している。

こちらの記事は、2019年Pen5/1・15号「尾崎豊、アイラブユー」特集からの再編記事になります。