ベルルッティ 高級靴の名を継ぐ、服好きのための服

  • 写真:江森康之
  • 文:高橋一史
Share:

語れる服 Vol.4:アーティスティック・ディレクターが紹介する、「ベルルッティ」の最新春夏コレクション。

趣向を凝らしたテーラードジャケット

まずはテーラードジャケットのアイコンを解説します。ジャケットを脱いだときに目を奪われるのが、美しい茶色のコットン裏地です。大多数のジャケットにこれを採用しているのはなぜでしょうか。
「いちばんの理由は、丈夫だからです。われわれはこのソフトなシルク混コットン裏地を“カプチーノ・ライニング”と呼んでいます。一着のジャケットを長く着続けていただきたいのです。私自身が服を捨てることなく収集するのが大好きなものですから」。古着から新品まで200着ものジャケットを個人所有し、「フェイバリット・コレクションはポリスマンジャケット」と笑う彼の趣味がよく表れたディテールといえるでしょう。19世紀末~20世紀初頭の衣服に通じる味わい深さもあります。イタリアの職人が手仕事で取り付けた裏地には複雑なダーツやタックが入り、さらに袖裏だけ別布に変えることで体の動きに柔軟に対応させています。
自身が愛用するスーツのジャケット脱いで、ディテールを説明するサルトリ。
さらに一目でベルルッティと分かるディテールが袖口の第1ボタンホールと襟裏に配された革パーツ。革製品で名を成した同ブランドならではの、革小物と同品質の素材を使った贅沢な仕立てです。もう一つ、サルトリが「とにかく好きなデザイン」と語るアイコンが、袖口の斜めカット。シャツカフスのディテールを応用し、スポーティでモダンなニュアンスを表現しています。

色鮮やかな2014年春夏コレクション

“ベルルッティ=モード”でもあることに目を向けると、ほかの高級紳士服ブランドとの違いがさらに明確になるかもしれません。同ブランドはパリの老舗「ルイ・ヴィトン」を有するファッショングループ「LVMH」に属し、ベルルッティもシーズン毎にパリメンズコレクションで新作を発表しています。17世紀建造のホテル「オテル ドゥ サリー」を会場にした2014年春夏コレクションでは、大勢の男性モデルをフィーチャーして、異なるシチュエーションでの装いをプレゼンテーション。中でも強烈な印象を残したのが、目にも鮮やかな色彩のコーディネートです。男の装いにヴィヴィッドカラーが戻ってきた最新トレンドの流れを汲んだ提案といえるでしょう。
ハット ¥73,500、バッグ ¥500,000(予価)、ジャケット、ジレ 、パンツはいずれも参考商品。
色彩世界を代表するアイテムとしてここでピックアップしたのが、リネンの3ピース・セットアップスーツ。シワ感が涼しげなリネン素材も、クリアな発色のブルーも、今季取り入れたい気分に満ちています。ジャケットは背面にアクションプリーツつきのカジュアル仕様です。
「1950年代フランスのワーカージャケットをイメージしました。腰位置にダイヤゴナルポケット(斜めポケット)を配し、ウエスト横をベルトで絞れるようにして機能を充実させた服です。パンツは細くタイトにして、全体のシルエットがモダンになるように仕上げています。そして大切なのは、これがイタリアの一流職人によるハンドメイドの仕立てということ。ワークなのにエレガント、という点が新しいのです。とてもビューティフルな服に仕上がったことを誇りに思っています」
セットアップスーツのスタイリングルック。

40~60年代のエッセンスを蘇らせて

ストライプジャケット ¥383,250、パンツは参考商品。
ノスタルジックな「フレンチワーカー」をモダンにしたルック。
今春夏コレクションを物語るテーマが「フレンチワーカー」です。1950年代の労働者のユニフォームが掲載された百科事典をサルトリがひも解いて生まれたアイディアで、港で働く人、郵便局員などが着ていた服の機能や生地の風合いが、さりげなく取り入れられています。この話を聞いて「贅を尽くしたラグジュアリーブランドとワークウェアにどのような接点があるのだろう」と疑問に思う人もいるでしょう。 この、社会的には対極にある両者の世界観を分け隔てしない発想こそが、サルトリのセンスなのです。ビクトリア王朝時代の貴族の衣服も、20世紀の炭鉱労働者のジーンズも、彼の中ではすべて対等な存在価値をもっているに違いありません。
「ストライプのシャツ・ジャケットもユニークな一着です」とサルトリが語ります。
「前から見ると普通のテーラードですが、後ろの肩がラグラン仕様になっており、腕を動かしやすくなっています。素材は、コットン・リネン・シルクで、とても軽量。暑いときにさっと脱いで手に持ってもいいですね」。スラックス仕立てのヘリンボーン織りのコットンパンツは、デニムの糸を用いて日本のメーカーと共同でつくったこだわりの逸品。「ブリーチ加工してエクリュ色にした撚糸をムラ染色し、デニムと同様の織り方で生地にしました。エクリュの裏糸が表に表れているので独特の風合いになっています」
シャツ¥105,000(予価)
スカーフふうのシャツにも、彼の服づくりのポリシーが凝縮されています。
「ご注目いただきたいのがフロント、裾、カフスにプリントしたオレンジのライン。服のサイズごとに幅を変化させました。小柄な人や、逆に背が高い人の服に同じライン幅の生地を使うと、最適な見栄えになりません。何種類ものプリント生地をつくるのは生産効率が悪いですが、それをやってこそベルルッティなのです。袖の筒も一般のシャツでは身頃の脇と一緒にミシンで縫いますが、袖筒を別につくってから、手縫いで身頃に取り付けています。イタリアのサルト仕立てだからこそ、腕を上げ下げしても裾が持ち上がらず、着心地も快適なシャツにできるのです」。ボタンホールも手縫いされた、服好きにはたまらない一着です。

サルトリがディレクションする革製品

スクエアバッグ ¥500,000(予価)、キャメルとネイビーのコンビカラーのドキュメントホルダー ¥320,000(予価)
革製品の新作、それがもっとも気になるという人も多いでしょう。サルトリがベルルッティのアーティスティック・ディレクターに就任してから、革モノもすべて彼がディレクションするようになりました。今季春夏の新型バッグで注目なのは、ツートーンコンビのビジネスバッグと、斬新なフォルムのクラッチバッグです。
「ドクターバッグにインスパイアされたバッグは容量が大きく、オフィスワークにも一泊出張にも対応します。表革部分にベルルッティ伝統の『ヴェネツィア・レザー』を使い、フロントとバックは撥水加工したヌバック。われわれがドキュメントホルダーと呼ぶハンドルなしのバッグでユニークなのは、トップのコンテンポラリーな斜めカット。素材はこれもヴェネツィアレザーです」。どちらのバッグもスポーティな服装にも似合うデザインになっています。
ビスポーク・マウンテンブーツ ¥1,000,000~(オーダー価格)
サルトリに最近のお気に入りの靴について尋ねました。彼が迷うことなく一例に挙げたのが、パティーヌ仕上げの色彩とステッチワークが美しいマウンテンブーツ。
「これはとても私らしい発想から生まれた一足です。イタリア製で、製法はクラシックな登山靴で用いられてきた、水の侵入を防ぐノルウィージャン製法。いまではイタリア国内でもつくれる工房が少なくなりましたね。アウトソールはオリジナルのラバーですが、ミッドソールもインソールも革です。足に触れる箇所には必ず革を用いるのが私のこだわりなのです」
ロレンツォ(ローファー )¥138,600
もう一つ「皆さんにどうしてもご紹介したい」と見せてくれたのが、スマートなフォルムのローファー。
「『ロレンツォ』と名づけた靴で、素材は薄くて丈夫なカンガルー革です。ホラ見てください、こんなに曲がるんですよ! とても柔軟で軽量で、夏のリラックスした装いに最適な靴だと考えています」。「ジー ゼニア」でクリエイティブ ディレクターを務めていた時代から服づくりを専門としていたサルトリですが、ベルルッティの長い歴史を継承する靴にも夢中になっているようです。

パリの老舗が参画したオーダーメイド

それでは最後に、サルトリとともに来日した二人の職人をご紹介しましょう。今後、皆さんとお会いする機会が増えるでしょう日本担当のフランス本国スタッフです。ベルルッティは現在、顧客の個別の望みに応えるオーダーメイド(グラン・ムジュール)にも力を注いでいます。LVMHは2012年にパリの老舗テーラーブランド「アルニス」を傘下に収め、オーダーメイド部門の足がかりとしました。アルニスについてサルトリが話します。
「プレタポルテ(既成品)は主にイタリア生産ですが、オーダーメイドは元アルニスのフランス工房で仕立てられます。襟が細くポケット位置が高い、プレタポルテをベースにしたスーツをオーダーすることができます」
16歳でオーダーメイドの世界に足を踏み入れた元アルニスの「マスターテーラー」カリムが語ります。
「私は採寸、型紙、裁断、縫製のすべてを一人で行う『カッター&テーラー』です。ベルルッティでも一般の仕立て屋と同様に、お客様の要望を叶えることをもっとも重視しています。あえてわれわれならではのスタイルを挙げるなら、着丈が短めということでしょうか。でもプレタポルテほど明確に表れている違いではありませんし、お客様の好みでいかようにも変更できます。仕様のご相談のときは、お客様がポケットに何を入れるかなども聞き、それぞれの生活スタイルに合う仕立てをご提案しています」 。ベルルティに移ったいまでも、アルニス時代に知り合った日本の顧客に会えることを楽しみにしているそうです。
靴のオーダーはベルルッティのファンにはお馴染みのシステムです。担当の職人が来日して採寸し、フランスで製造されます。納期の目安は、およそ8ヶ月~1年ほど。日本を始めイギリスやイタリアなど各国を担当する「マスターシューメーカー」のアンソニーは、この道20年のベテランで、年4回ほど日本に来ています。
「ベルルッティで働き始めてまだ間もないのですが、ここで働けるのは職人にとって誇らしいことです。フランスでは誰もが知っている歴史が長いブランドですから。日本のお客様はとても緻密な仕事を好まれますね。それは、職人には嬉しいことですから、日本人のために働くのが大好きなのです」

長い歴史を持ちながら若々しく、保守的であり前衛的。そんな多様性がベルルッティにはあります。一つ確かなのは、服にも革小物にも、つくり手の魂が深く刻み込まれているということ。人の手がかかったこのブランドの製品を手に入れたなら、どうぞ長くご愛用ください。それがサルトリを始めとするスタッフ皆の願いなのですから。

写真上段:右、アレッサンドロ・サルトリ。左はスーツ職人のカリム。
写真中段:上、アルニス時代の顧客の仮縫いジャケット。下、裁断の様子を見せるカリム。
写真下段:靴の木型の製造工程をデモンストレーションする靴職人のアンソニー。

Alessandro Sartori アレッサンドロ・サルトリ
1966年イタリア生まれ。ジー ゼニアでクリエイティブディレクターを務めたのち、2011年6月にベルルッティのアーティスティック・ディレクターに就任し、ファッション部門を創設。Pen onlineで取材した2013年12月は、翌年1月のパリメンズコレ発表前の忙しい最中。来日前にアメリカ・マイアミのストアオープンに顔を出し、日本でも短い滞在でモデルフィッティングのためすぐにフランスに帰国した。

問い合わせ先/ベルルッティ・インフォメーション・デスク TEL:0120-203-718(フリーダイヤル)
Berluti



関連記事
語れる服 Vol.1:ムッシュー・ラスネール―フランス発、ユーモアと洗練のニット
語れる服 Vol.2:セブンティ エイト パーセント―「78%+22%=100%」の数式とは?
語れる服 Vol.3:ラグ&ボーン―ブルーデニム+白シャツの美学
語れる服 Vol.5:suzuki takayuki―アイデアは100年前の西洋ワークウエアから
語れる服 Vol.6:ミュールバウアー―4代目が変革した帽子のデザイン
語れる服 Vol.7: ジョン ローレンス サリバン―シャープでミニマルな、定番というスタイル