セブンティ エイト パーセント、「78%+22%=100%」の数式とは?

  • 写真:江森康之
  • 文:高橋一史

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語れる服 Vol.2:デザイナーが解き明かす、「セブンティ エイト パーセント」のコンストラクション。

コンテンポラリーな配色、ヴィンテージな形。

ブランドの基本となるテーマは、長年使い込むためのバッグづくり。セブンティ・エイト・パーセント(78%)の名称は、完成度78%の新品を所有者が使って22%の味わいを加え、100%にするというコンセプトに由来しています。ブランドのアイコンといえるブリーフケースが「Back to Old School」コレクション(上写真 各¥63,000)。ヴィンテージも最新テクノロジーも愛するシャイ・レヴィらしい、バイカラーのモードな配色と、永遠性のあるフォルムが共存するバッグです。「1930~50年代のヨーロッパの学生鞄を、現代的にアレンジ。建築の世界では同じ設計図を用いて資材をガラス、メタルなどに変えて異なる建物をつくることがあります。それと同じ発想で、素材を変えてまったく別のものを誕生させたのです」
セブンティ・エイト・パーセントが大人の仕事鞄にふさわしい理由は、素材の確かさにもあります。ハンドルやフラップのレザーは、イタリア・トスカーナ地方で植物タンニン鞣しされたもの。本体は、日本の倉敷で織られた高密度の超長繊維綿キャンバス(帆布)で、撥水性を高めるワックス・コーティングも施されています。「ブランドをスタートさせるときに、デザインのドローイングを持参してアメリカ、中国、ヨーロッパで帆布を探しました。でも良いものに出合うことができず、偶然日本人デザイナーの帆布バッグを見て、これだ! と。そして、倉敷でテントやシートなどの布を80年間ほど製造している伝統工場への発注を決めました」。レヴィは今年5月に来日したとき、初めて工場に足を運びました。それは感動的な経験だったようです。「訪れる前から布の生産プロセスがたいへんなことは知っていましたが、その素晴らしさを改めて実感しました。糸から生地になるまで一週間ほどかかる作業で、65歳くらいの技術者が旧式の織機を修理しながら織っているのです。ただ、後継者がいないため、『いずれなくなってしまうんだろうね』と技術者は言っていました。機械は残ったとしても、布づくりに関わる人がいなくなれば歴史が途絶えます。日本の帆布は美しいのに残念なことです」

ディテールには意味がある。

デイリーに荒っぽく扱ってこそ真価を発揮する彼のバッグは、そのための耐久性や使い勝手が入念に考えられています。「本体には型崩れを防ぐ芯を入れ、レザーフラップの裏側も補強しています。そのフラップにはマグネットを仕込み、ストラップを金具に通さなくても本体につくようにしています。内部に仕分けポケットが多いのは、デジタル機器を効率よく収納するため。外側には財布など頻繁に使うものを入れるファスナーポケットをつけ、サイドにはペンポケットも装備。クリエイティブな人をターゲットに想定しているので、シンプルな見た目の中にも彼らが働きやすい機能をもたせました」。さらに実用性に偏らず、大人のファッションに落とし込むところがレヴィの持ち味。裏地にドレスシャツのような光沢のあるストライプ柄生地を配して、人前で荷物を出し入れしたとき印象に残る、上品なムードを演出。まさにスーツスタイルでサマになる大人のバッグといえるでしょう。
映画の主人公、インディアナ・ジョーンズに敬意を表し、演じた俳優をもじったパロディネームの「HARRISON FOLD」コレクション(上写真 ¥33,600)は、ウォータースポーツ用防水バッグの構造を取り入れたメッセンジャーバッグ。「アウトドア用バックパックをデザインした経験を活かして、体に負荷がかからないエルゴノミクスな要素を取り入れています。レザーストラップの留め金の位置にループ状のパーツをつけ、指を差し込むことで簡単にストラップが外せる工夫も。このバッグは体の左側に斜め掛けすることを想定して、ストラップの位置をセンターからずらしています。フラップ代わりに折り返す本体の上部も開きやすいよう斜めにカットしています」。折り返しの内側には、オープンポケットとペンポケットが。本体裏面にもファスナーポケットがあり、街歩きならストラップを外す必要もなく快適に過ごせるでしょう。

ベルリンで学んで、香港に移住。

シャイ・レヴィのキャリアは、プロダクトデザインを学んだ学生時代に遡ります。イスラエル・エルサレムのデザイン学校を経て、ドイツ・ベルリンのデザイン学校に進学。卒業後、母国でデザインコンサルタントの会社を立ち上げました。今の活動につながるきっかけになったのは、バッグのデザインを依頼されたこと。「香港に工場を持つアウトドアブランドのデザインでした。数シーズンのコレクションを手がけ、約10年前に香港へ移住して、会社を新たに設立して自分のブランドをつくりました」。セブンティ・エイト・パーセントは、現地の高級セレクトショップ「レーンクロフォード」が高く評価して、最初のコレクションから取り扱いを開始。洗練されたイメージを伴い、ブランドは好調なスタートを切りました。いまでは、クラッチバッグとしても活用できるiPad mini用からMac Book Air用までのケース(上写真¥18,375~)も加わり、ラインアップが拡大しています。
祖父がもっていた古い物が大好きだったという彼ですが、バッグにエイジング加工や洗い加工を施しません。ヴィンテージふうに装うプロダクトのほうが売りやすい今の時代に、なぜそうしないのでしょうか。「ヴィンテージは確かにトレンドですが、それっぽく見せるデザインは自分のスタイルではないからです。セカンドハンドは、個々のストーリーがあるから素晴らしいのです。セブンティ・エイト・パーセントに、もつ人が自分だけのストーリーを加えていただきたい。コンサバティブなスーツ姿の人がこのバッグを持ち、少しだけクリエイティブなスピリットをアピールするような使い方が理想的です」。彼が常にもち歩くレザーの小さなノートには、青インクのペンで描かれたアイディアスケッチやコメントがぎっしり詰まっています。ユニークなのは、デザインと一緒に様々な人の顔が描かれていること。これは使う人をイメージしたスケッチなのかと思いきや、「いえ……何だか判りません(笑) ただの落書きなんですよね。その場で思いついたことをメモってるだけで」。無意識から生まれたユーモラスな人物は、温もりのある彼の感性の代弁者なのかもしれません。

Shai Levy シャイ・レヴィ
バッグデザイナー。2007年に香港で会社を設立し、2009年にブランドをスタート。笑みを絶やさず穏やかな物腰ながら、バッグの解説を始めると止まらなくなるエネルギッシュな一面も。家族を連れて3回も旅行に来たことがある日本好き。

問い合わせ先/ワーキングユニット・ジャパン www.jp.workingunit.com

Seventy Eight Percent www.seventyeightpercent.com


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