ラグ&ボーン、ブルーデニム+白シャツの美学

  • 写真:江森康之
  • 文:高橋一史

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語れる服 Vol.3:NY在住英国人デザイナーが話す、「ラグ&ボーン」の服づくりの心。

デザインを担当するマーカス・ウェインライト(Marcus Wainwright
マネージメントを担当するデヴィッド・ネヴィル(David Neville)

上写真:ラグ&ボーン表参道店にて。右がマーカス・ウェインライト、 左は デヴィッド・ネヴィル

デニムのオリジナリティ

ラグ&ボーンのデニムの大きなセールスポイントが、ウエストに付けられたコットン裏地です。一般のデニムではここにもインディゴ染めの生地が使われるため、シャツをインして着るとこすれて色落ちすることがあります。このデニムでは安心してドレッシーな着こなしができるのです。「1850年くらいのタキシードパンツの裏地をイメージ」とマーカス。着やすさの工夫は細部にも渡っています。
「フロントのボタンホールは通常では直線カットとなるところを、斜めにしています。生地が堅い生デニムでも急いで着脱できるようにアレンジしました。深いヒップポケットは手を入れやすいように計算した仕様で、このポケットを裏で補強する『隠しリベット』は、ビンテージデニムの名残りです」
ヒップポケット内側の縫製糸がイエローなのは、工場のシステムがゆるく、糸色を揃えていなかった20世紀前期~中期のデニムの再現。各リベットは被せでなく、本格的な打ち抜きで“本物”を主張しています。凝ったディテールも、日本が世界に誇る「カイハラ」製の生地も、すべては穿き込んだあとに出る美しさや味のため。製造はアメリカ国内に徹底してこだわっています。
「ブランドスタートのときにアジアの某国で300着ほどデニムを製造しましたが、最悪な仕上がりになってしまって。そこでケンタッキーの古い工場につくり直してもらったら、品質が素晴らしくて感動しました。一生涯デニムを縫い続けている職人に出会い、物づくりの大切さを知り、それがラグ&ボーンの方向性を決定づけました。残念ながらあの工場は倒産してしまったけれど、私たちのデニムはアメリカ生産を続けています」

写真:ページで紹介しているデニムはブランド設立当初から続く、やや細身ストレートの定番モデル「RB15」¥21,000

ラグ&ボーンのルーツ

マーカスは会社員時代にメキシコのビーチで運命的な女性に出会い、彼女を追ってニューヨークに来て結婚したというユニークな経歴の持ち主。彼に続いてデヴィッドが渡米して、ブランドに参画しました。いつもベストを着てスラックスを愛用する紳士的なデヴィッドが、当時の様子を語ります。
「彼とはロンドン郊外の全寮制学校の先輩と後輩でした。私は銀行に勤めていたのですが、ファッションに興味がありニューヨークに住んでともに仕事をすることに。スタートから最初の3年間は稼げなかったですよ。最後の1ペニーまで使い果たしましたから(笑)。でもいつか成功すると信じて続けました。軌道に乗り出したきっかけは『バーニーズ ニューヨーク』がパートナーになってくれたこと。日本で最初に買い付けてくれたのは『ユナイテッド アローズ』や『ジャーナル スタンダード』などです」
スタイリッシュに穿けながらビンテージ感も味わえることで、世界的に評判になったラグ&ボーンのデニム。ただし、リベット裏の刻印模様の由来を知る人までは少ないようです。デヴィッドが模様についてこっそりと教えてくれました。
「この図案は、マーカスが育てていたインディゴ染料の原料となる葉っぱがモチーフ。自分たちのルーツとなる気持ちがここに込められています」
今ではニューヨークコレクションのランウェイでメンズ・レディスのフルラインを発表するまでに成長し、モード界でも知られるラグ&ボーンですが、設立当初の服づくりへの愛情はしっかりと守られているのです。

上写真:ラグ&ボーン表参道店のデニムコーナー。ブルー、インディゴの生デニムが中心のクールなラインアップ。ブラックの生デニムは日本限定。

アンダーウェアのように、毎日着る新ライン

ハンガーに掛けたボタンダウンシャツ¥25,200
彼らはデニムと同様に、スタンダードなカジュアルアイテムも長年つくり続けています。スリムな白いボタンダウン・シャツもその一つ。ボタンはペイントが剥げ落ちたようなエイジング仕様で、ラグ&ボーンのアイコンです。
「ボタンは素晴らしい加工技術を持つアルゼンチンの工場製です。自分でボタンを塗って剥がしてサンプルをつくったんですよ」とマーカス。
こうした彼ら自身がデイリーに着ているような服が、2013年冬から「スタンダード イシュ-」ラインとして定番リリースされることになりました。まずはビンテージテイストのTシャツとチノパンが展開されます。以前の服と同型のアイテムもあり、今後はブランド織りネームが順次新しく変更されます。
テーブルに置いたパーカ ¥36,750
「スタンダード イシュ-」のペルー産コットンTシャツ ¥9,450

「男は、朝起きてクローゼットを開いても、結局、お気に入りの服を着ちゃうことが多いですよね。アンダーウェアのように毎日繰り返し着続けられる服をライン化しました。軍モノのTシャツやパンツなどのタイムレスなアイテムを、ハイクオリティなファブリックで置き換えています」

特に彼のお気に入りの服はどれでしょうか?

「う~ん、選べないなあ。自分がいいと思うものだけをつくってますから。特にTシャツは全部好きですよ」

スタンダード イシューには、英国出身者ならではのミリタリーウェアのテイストが息づいています。

「学校がミリタリースクールだったから、ミリタリーフォーマルの感覚と実用的なアメリカのアイテムが融合しているのでしょう。二人のメンタリティはやはり英国なんです。アメリカ人ならTシャツのフロントに大きなブランドロゴを入れたデザインをしますが、ラグ&ボーンがそうしないのは英国のセンスだから。私たちのワークウェアは“アメリカ調”で、サルトリアのテーラリングは“英国調”ともいえます」



クラシックでタイムレスな服のために

日本では特にメンズでワークカジュアルのイメージが強いラグ&ボーンですが、テーラリングにも力を注いでいます。アメリカ本国では、地元ブルックリンの老舗テーラー工房「マーティン・グリーンフィールド」で仕立てた高級スーツも展開中。残念ながら今冬の日本では販売されていないのですが、この工房と同じパターンを使ったセットアップスーツ(上写真)なら手に入ります。
「ラグ&ボーンは高品質な日本製生地の服が多く、このジャケットも日本の『ニッケ』のもの。そういえばライニングも日本製ですね(笑) ほかで特に気に入っている生地が、グレーのパーカ(前ページ参照)。スウェットは日本製が世界最高です、It's Cool !!」
表参道店のエントランス。
ベーシックアイテムのラインアップ。

表参道の裏通りに佇む一軒家の直営店では、半地下の1階がメンズ、2階と3階がレディスに分かれています。細身からワイドまでの様々なデニムも、スタンダード イシューも揃い、年間通して着られるアイテムが充実しています。もちろんショーで発表されたモードなデザインもあります。

最後にマーカスとデヴィッドから、店を訪れる人へのメッセージを。

「この店のお客様は、とてもロイヤル(忠実)な人たち。服を気に入ると何度も足を運んでくれます。家に持ち帰ってからディテールの細かさに気づいて、愛着をもっていただくことが多いようです。店ではクラシックでタイムレスな服を購入できます。20年も30年も着続けたくなるアイテムがきっと見つかるはず。私たちはこれからも、男性が外見に自信をつけられるファッションをつくり続けていきます」


写真上から:テーラードジャケット (パンツとセットで)¥168,000


Marcus Wainwright マーカス・ウェインライト
David Neville デヴィッド・ネヴィル
ともに英国Wellington Collegeの同級生で2002年、アメリカにて「ラグ&ボーン」をスタート。2005年からレディスを展開し、2010年にアメリカ「CFDAメンズウェア部門大賞」受賞。同年10月、東京に海外初の路面店をオープン。

rag&bone the Omotesando Store
東京都渋谷区神宮前5-12-3
TEL 03-6805-1630
営業時間 : 12時~20時
定休日 : 月曜

問い合わせ先/Pred PR TEL : 03-5428-6484
rag&bone http://www.rag-bone.com/



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