建築的なこだわりから
生活への眼差しに転換した、
初期の代表作。

説明とともに、「おかしな言い方ですが、この家はいまの僕たちだとつくれない自信があります」と谷尻さん。 「まさに初期衝動でつくった住宅ですね。いまはそこでの生活や、これまでの経験、知識を交えて複雑に考えてしまう。まずこの家には収納がないでしょう。そして庇がない。こうして見返すとあの頃の私たちを説教したくなる」と、吉田さんも笑って続けます。
「けれどいい意味で、いまにはない勢いがあります。だからこそ建築としての純度が高くて大好きな作品。ただ、ここで生活の純度が低いことに気がついて、私たちは建築に通う“空気”をつくっていくことを考え始めるんです。この家以降、もっと生活に目を向けていきます」
依頼主が諸事情からこの住宅を手放すことになったと聞き、「かわいい子どものような建築」だというふたりはサポーズデザインオフィスで住宅の購入を決めました。いま、この家はふたりが携わる「絶景不動産」で宿泊用のレジデンスとして貸し出す準備を進めています。
「私たちの空間を体験してもらうためのゲストハウス。東京事務所に併設する『社食堂』と同じように宿泊して体験してもらったらどうだろうと思ったんです」

上:天気がよいと大きな窓の向こうに宮島が一望できる。眼前にはJR山陽本線、広島電鉄の路面電車が走る。鉄粉の飛来や塩害に配慮し、コンクリートをステインで塗装して、錆びたような仕上げにすることで外観の経年変化にも対応している。
中:寝室からダイニングルームを見下ろす。椅子はサポーズデザインオフィスのオリジナルデザイン。
下:ダイニングルームから半階下がった寝室から見上げると、ダイニングルームのコンクリートスラブ(床)が見える。