ふたつの表示系複雑機構を搭載した、究極の一本。
CHANEL シャネル

ふたつの表示系複雑機構を搭載した、究極の一本。

岩崎 寛(STASH)・写真
photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki

シャネルがレディスの「プルミエール」で本格的に腕時計ブランドの歩みを始めてから、今年は30年の節目となる。一方で初の自社製ムーブメントを開発、搭載モデル「ムッシュー ドゥ シャネル」を発表して2年目のシーズン。円熟と進歩が重なる今季、バーゼルワールドで発表された新作がプラチナ製ケースの「ムッシュー ドゥ シャネル」である。

艶のあるブラック・ダイヤルは、高温で焼成するグランフー・エナメルの技法によるものだ。漆黒でありながら澄んだ液体のような透明感を見せる、魅惑の質感。ブラックをキーカラーのひとつとするシャネルならではの黒が、プラチナの白と引き立てあう。ジャンピングアワー表示の窓の形は香水「シャネルN°5」のボトルストッパーのフォルムであり、パリ・ヴァンドーム広場の形でもある。重厚でありながらファッショナブルなスタイルは、ほかにはない。

しかも目を向けるべきは外見だけではなく、開発に5年を要した自社ムーブメント「CHANEL キャリバー1.ジャンピングアワー」の独創性でもある。6時位置にジャンピングアワーの窓を開き、分表示は俯角240度にまで展開するダイナミックなレトログラード表示。「表示系のコンプリケーション」と言われる複雑機構をふたつ、スモールセコンドを挟んで縦に配置した。ユニークなデザインにより、時刻を看る眼は上下に走ることになる。時・分・秒のプロポーションが独特のラインを描き、ひとの装いを眺めるような視線を誘導するのである。普通の3針アナログ時計では決してできないことを、シャネルはムーブメントから構築してみせた。

そのプラクティスを美的に表現した、世界で100本限定となる今回のモデル。手巻きで3日間のロング・パワーリザーブとスペックにも優れ、シースルーバックから全景を見渡す構成も美しい。いかに限定数が少なくとも、指名したい理由が尽きない腕時計である。

ムッシュー ドゥ シャネル

手巻き、プラチナ、ケース径40㎜、高温焼成エナメル文字盤、ジャンピングアワー、レトログラード式分表示、スモールセコンド、パワーリザーブ3日間、シースルーバック、アリゲーター革ストラップ、30ⅿ防水、世界限定100本。¥7,506,000
シャネル(時計・宝飾)TEL:0120-159-559
ふたつの表示系複雑機構を搭載した、究極の一本。