スタルクを知らしめた、エスプリの利いた名作。

  • 文:佐藤早苗
  • 編集:山田泰巨

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Vol.69
スタルクを知らしめた、エスプリの利いた名作。
コステス

フィリップ・スタルク

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

フィリップ・スタルクが1984年にパリの「カフェ・コスト」のインテリアデザインを手がけた際に生まれた、3本脚が特徴的な椅子「コステス」。翌年からドリアデで生産が始まり、スタルクの地位を確固たるものにした、まさに彼の出世作といえる名作椅子です。

オールレザーのシンプルな「コステス」。3本脚の均整のとれた美しさが際立ちます。サイズはW475×D580×H800×SH470mm

若くして、ピエール・カルダンのもとでアートディレクターとして家具デザインを担当していたフィリップ・スタルク。独立後はパリのクラブ「マン・ブルー」「レ・ヴァン・ドゥーシュ」のインテリアを手がけ、知名度を上げていきます。1982年にフランソワ・ミッテラン大統領の目に留まり、大統領公邸であるエリゼ宮のプライベートスペースの内装を担当し、一躍注目を浴びます。

そうした追い風のなか、84年にパリのレ・アール地区に完成した「カフェ・コスト」のファッショナブルなインテリアデザインは世界中のメディアに取り上げられました。当時の彼はまだ30代半ば。その後の活躍はご存じの通りです。

残念ながら「カフェ・コスト」は現存しませんが、そのためにデザインした椅子「コステス」はいまでも販売されています。3本脚なのは、カフェのスタッフがサービスをしやすいように配慮がされたものなのだとか。カーブを描いたシェルも、座る人の背中を支えながら腕を動かしやすい設計になっています。85年からドリアデが生産し、イタリアデザイン界ではそれまで知られていなかったスタルクの存在感を示しました。その後、ひと回り大きな4本脚の「キング・コステス」もラインナップに加わり、素材のバリエーションも豊富に。スタルク自身もこのチェアについて「小さくてスマート、軽く、手頃な価格であり、座り心地もいい。大成功したし誇りに思っている」と語っています。

こちらは「コステス」よりひと回り大きくゆったり座れる4本脚の「キング コステス」。サイズはW505✕D560✕H810✕SH470mm

黒いスチールチューブの脚に、ブラックレザーのシート、マホガニーの合板のシェルを組み合わせた「キング・コステス」。「カフェ・コスト」のオリジナルはブラックレザーのシート、マホガニーのプライウッドでできたシェルを組合せたもので、それを彷彿とさせます。