Vol.8 ヒロシマ
Vol.8

ヒロシマ

深澤直人

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

日本を代表するデザイナーの深澤直人は、同じくデザイナーのジャスパー・モリソンとともに「スーパーノーマル」というデザインの考えを提唱しています。デザインとはいったいなにかということに一石を投じるこの理念は、普遍性とその豊かさをあらためて私たちに気づかせてくれました。一見するとなんの変哲もない「ノーマル」なものは、気取ることなく日常にすっと馴染みます。つまりそれは、時が経っても色褪せることなく、価値を保ち続けることができるのです。

金属や樹脂を最先端の3D技術で加工し、ハイテクな椅子が数多く登場した2000年代。そんななか素朴な木の表情をもった「ヒロシマ」は多くの人に衝撃を与えました。サイズはW560×D530×H765×SH425mm

その理念を体現し、世界に認められた日本の名作椅子が深澤によるマルニ木工の「ヒロシマ」です。製品から「スーパーノーマル」を感じさせるアップル社もその美意識に共鳴し、アメリカ・カリフォルニア州の本社で使用しているといいます。さて、この「ヒロシマ」は一見するとシンプルに見えますが、溶けるように滑らかな曲面を描く深澤のデザインと、それを支える優れた木工技術の融合が生み出した一脚です。繊細なラインは正確な図面化が難しく、まず職人の手の動きを数値化したプログラミング技術を使って3次元加工機で成形されるといいます。その後、職人が一脚一脚を磨いて完成。こうした最新の工作機械と職人の確かな技術が融合し、工業製品でありながらも手作業の温かみを感じさせる椅子を実現させているのです。

こうして生まれた「スーパーノーマル」な一脚は、どのような空間にも調和するので国内外のレストランでも多く使用されています。飽きることなく使い続けられるこの椅子は、まさに白米のような存在。ダイニングチェアとしてはゆとりある座面で、ゆったりと寛ぎのひと時を過ごすことができます。その存在はさりげなく上質で、空間の質そのものも格上げしてくれることでしょう。

アームから背もたれにかけて一切の平面がない3次曲面で構成されています。猫足のクラシックな家具を得意としてきたマルニ木工の技術を現代的に生かしたデザインです。

樹種はビーチ、オーク、ウォールナットからセレクトできるほか、板座の他に張座タイプも展開するなど豊富なバリュエーションの中から組み合わせることができます。素材はいくつかの樹種から選べますが、時を経ても価値の変わらぬデザインで、経年変化をしていく過程を楽しむという意味では、白木を選ぶのがお薦めです。

Vol.8 ヒロシマ