ふだん使いできるスーパーカー、「マクラーレンGT」で南仏を快適に駆け抜ける!

  • 文:大嶋慧子

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マクラーレンGTは、エンジンをリアミドシップレイアウトで搭載する。エンジンは4.0リッターV型8気筒ツインターボ。日本での価格は2645万円〜

今年6月、スーパーカーの俊敏性とグランドツアラーの快適性を備えた「マクラーレンGT」の発表会が日本で行われ、大きな話題となりました。そして、いよいよ日本での発売も間近となったこの時期、その実力を体感するグローバル テスト ドライブが南仏で開催されました。そもそもマクラーレンの一般的なイメージは、F1ゆずりのハイパフォーマンスなスーパーカー。路上を走っている姿を見たことがある人は、まだそれほど多くないでしょう。そのオーナーのイメージも、ステイタスやスタイルを求める富裕層であると同時に、クルマ好きの中のクルマ好き、といったところでしょう。けれどもこの「GT」は、そんなマクラーレンへの印象をある意味、覆す一台といえます。

訪れた南仏でGTの実車を前にして心を奪われるのは、そのラグジュアリーかつ上品なスタイリングです。特に斜め後ろから見ると、なだらかな曲線と曲面の交差が絶妙で、このクルマの特徴がよく表れています。前方に回って見ても、良い意味でスーパーカーらしくない、どこか穏やかで抑制が効いた印象。しかし、やはりこのクルマで特筆すべきは、ドライバーとの一体感を重視した、グランドツアラーとしての操作性と利便性です。長いドライブでも疲れない快適な乗り心地に加え、スーパーカーで最大級の荷室を備えていること、徹底的に軽量化されたカーボンモノコック製ボディの運転のしやすさなど、長時間走り続けることを前提とした「安心感」を兼ね備えているのです。

インテリアは「パイオニア」「リュクス」「MSOアトリエ」の3種類が用意されており、それぞれ素材や色など選択肢は豊富。カシミヤをブレンドしたシート表革も用意されており、これは乗用車として世界初。

ツアーでは、グローバルコミュニケーション&PRディレクターのピエール スコット氏のプレゼンテーションも行われた。「サーキット走行のパフォーマンスを備えながらも、大陸横断旅行も可能という多様性のあるクルマ」と紹介。コースはサントロペの湾を挟んだ反対側の街、サントマキシムからスタート。そこから北へ向かい、ヴェルトン自然公園の北を回ってカンヌへ降りるというルート。総距離は約310㎞。

南仏の田舎道からハイウェイまで、快適さは失われない。

南仏の小さな街は道路がきれいに整備されているとは限らず、所々に思わぬ段差も。そんな時はリフトモードが役に立つ。

シートに座ると意外に車高が高く、周りの景色が見やすいことに驚きます。座り心地もまるで自分用にあつらえたように収まりが良く、上質なレザーの肌触りも快適です。「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の3 つの走りが選べるアクティブ・ダイナミクス・ハンドリング・モードで、「コンフォート」モードを選択。走り出しはごく普通のGT車といった雰囲気でエンジン音もかなり静かで、滑るような走り出し。雨量に応じて作動するワイパーはキレも良く、雨中のドライブでも視界にまったく問題なし。

峠道に入るまでドラギニャン、カラといった、まるで映画に出てくるような小さな街並みが続き目を楽しませます。しかしここは、道路整備が行きわたっていない南仏の田舎町。いたるところに段差が目につきます。そしてこの段差は、低車高車にとって大敵。そこで頼りになるのは、車高をリフトアップするリフトモードのスイッチです。これを事前に操作することでクルマは難なく段差をクリア。その後ある程度走っていけば、車高は自然に戻ります。その動作は車高調整が行われたことがわからないほどスムーズです。

ヴェルドン自然公園のカステラーヌやセネあたりは、湖や山を臨む風光明媚なエリアだが、道は蛇行を繰り返す。

ラ・マルトルにさしかかるあたりから穏やかな登りとなりますが、驚くのは路面からのショックを上手く吸収するサスペンションの効果です。ここから大きな段差はなくなっていきますが、小さな段差や舗装の継ぎ目は依然、いたるところに残ります。マクラーレンGTの「プロアクティブ2」サスペンションは、路面状況や運転者の挙動に合わせて電子制御してくれるもの。多少コンディションの悪い上り坂でもいたってスムースに難なく走り続けます。

下り坂になっても快適さは変わらない。身体が左右にほぼぶれることがないので、助手席に座っていても安心。

下り坂にさしかかると、カーブの多い道なので自然とブレーキを踏む機会も増えますが、スムーズなハンドリングは変わらず快適なまま。しかし最後にハイウェイに入ると、クルマはいままでと表情を変えます。音は静寂から獣の遠吠えのようなエンジン音に。制限速度ギリギリのスピードで走っているにもかかわらず、車体は60〜70㎞で走っている時よりもさらに安定。同乗したモータージャーナリストの金子浩久氏いわく、「アクセルを踏んでエンジンを回せば回すほど、音が研ぎ澄まされてくる。そして同時にパワーもみなぎってくる。これが、マクラーレンの精緻なV8エンジンの特徴です。とはいってもイタリアのライバルたちの派手な音に比べて、この車は抑制的。そこが英国車のマクラーレンらしいところでもあり、乗り心地を左右するところでもあります」とのこと。さすが、0-100km/h加速3.2秒、0-200km/h加速9.0秒、最高速度は326km/hのクルマの実力。こんなところが、スーパーカーのDNAをもつGTならではの特徴なのです。

「マクラーレンGT」で南仏の田舎道を駆け抜けて、ロングドライブを充分に楽しんだ今回。その快適さを体感して、実用的なマクラーレンもやはり魅力的、という結論に達しました。

GTをデザインしたマクラーレンのデザインディレクター、ロブ・メルビル氏.。新しいデザインだが、誰もが見てすぐマクラーレンだと分かるというところが課題だったとか。

●問い合わせ先/マクラーレン・オートモーティブ https://jp.cars.mclaren.com