“真実の瞬間”はパドルシフトに触れると訪れる!? AMG GT 4ドアクーペ、その隠された素顔とは。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第98回 MERCEDES-AMG GT 63 S 4MATIC+ / メルセデスAMG GT 63 S 4マティック+

    “真実の瞬間”はパドルシフトに触れると訪れる!? AMG GT 4ドアクーペ、その隠された素顔とは。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    AMGが独自開発した車種としては2台目になるGT 4ドアクーペ。

    メルセデスの2シータースポーツカー、AMG GTの4ドア版で、4人乗れるスポーツフラッグシップとして誕生したAMG GT 4ドアクーペ。ワイルドでアメリカンなV8エンジンを搭載した他に類を見ないスポーツカーとして、AMG GTに惚れ込んでいた自分にとって、この4ドア版は乗ってみると肩透かしを食らった感があったんだ。「あれ、ワイルドでアメリカンな4ドアじゃないの?」ってね。いや実際、AMG GT 4ドアクーペに期待していたことは、AMG GTの野性味あふれるエンジンに、Sクラスの乗り心地と大人の余裕を兼ね備えたスーパー4ドアスポーツといったところだった。
    それがどうだろう。AMG GT 4ドアクーペは、エキゾーストノートは鳴りを潜めているのに、足まわりはリアルなスポーツカーのそれ。ステアリングから伝わる情報の解像度がやたら高く、ロードノイズも拾うので、Sクラスの快適さとは似ても似つかない。でもAMGオーラだけはやたらすごいのね。「なんだお前は、俺を過小評価するつもりか?」みたいな、他を寄せつけないオーラに満ち満ちている(笑)。気位の高い、理解しがたい専門家が、ドライバーを見定めているようなところがある。
    けれどもそれは街乗りをしている時の話で、結論から言うとAMG GT 4ドアクーペには本性を現すためのカギがあって、レースモードでは自分でパドルシフトの操作を行わないとまったく本性を現さないんだな。自動変速で走ると、たとえレースモードであっても、さっさとシフトを上げてなめらかに走ろうとする。そもそもモードの違いに目が覚めるような変化はないし、車体は全長を感じさせない4輪駆動の超絶安定モードで、V8エンジンのトルクフルな走りを軽快に演出している。でもパドルシフトを操作し、シフトを手動に変えると世界は一変するんだ。実際は峠を走り込んだんだけど、その走行性能は明らかにサーキットに持ち込むべきスポーツカーであり、スーパースポーツにも迫る。やっと心を開いたかという喜びとともに、「相棒」と呼びたい一体感が生まれる。

    AMG独自開発による、新たな旗艦モデルが登場。

    エモーショナルにV8エンジンは咆哮し、2.1tの車体がコーナーに食らいついていく。4輪駆動ならではのトルクベクタリングと、後輪操舵による低重心を感じさせるステアリングフィール、さらにはなめらかかつ尽きないトルクで、安定してコーナリングのネガティブをねじ伏せていく。車体の長さや重さを持て余す瞬間は、ナローな峠であっても一切なし。解像度が高いステアリングインフォメーションは、ここにきて冷静に路面状況を伝え、サーキットを攻めるのに必要な役は満願成就で揃ってる。これで車体が軽ければ、完全にスーパースポーツという走りが隠されているんだ。
    多くのAMGモデルはサーキットに持ち込むと、自分を取り戻したかのように伸び伸びと走る印象があるけど、AMG GT 4ドアクーペは基本ポテンシャルが高いからか、必要以上にスポーティさやレーシーさを演出しない判断をクルマ自身が行う。ちょっと飛ばすぐらいの感覚だと全然、本気にならないのね。完全にサーキットに照準を合わせたプロダクトで、その変貌っぷりに「峠でホント悪かったね」と嫌みのひとつも言いたくなったよね(笑)。乗り越えようとする者だけに、心を開くような職人的な敷居の高さがあるんだな。
    誰にでも運転できる快適な車種がもてはやされる時代だけど、このクルマは4人が乗れて荷物が積めるサーキット仕様。レースを目的にはしていないけど、誰にでも魅力がわかるオープンマインドなクルマじゃない。でもこれは、AMGのリアルなんだ。巧妙な電子制御によるリアル。ヒップホップで言えばトラックメーカーであり、ターンテーブリストであるDJプレミア、あるいは現在のシーンだとラッパーのスクールボーイQですよ。
    彼らの言う真実やリアル、またはハードコアという言葉は、一見すごく閉じていて、「わかる者だけわかればいい」という突き放した表現の中に削ぎ落とされた本質が宿る。AMGもまったくそれと同じで、マーケティングのために軸は絶対ぶれない。メルセデスはチューナーのAMGを自社ブランドにして、AMG独自開発の車種であるAMG GTを世に出したわけだけど、今後はこのAMGブランドこそがメルセデスのリアルというように先鋭化していく気がするんだ。最善か、無か――。かつてメルセデスが謳ったハードコアそのもののキャッチフレーズは、AMGが取り戻していく。そういう意気を感じる一台だったね。

    • スリーポインテッドスターを筆頭に、押し出しの強さが強調されたフロントマスク。

    • 0-100km/hの加速はメルセデスAMG最速の3.2秒。

    • ネオンカラーに映える豪奢なインテリア。

    • 前後重量バランスは53:47。シャシーはEクラスと共有だが剛性はより高められている。

    • オプションで固定式カーボン製リアウィングを装着可能。

    • 荷室容量は461ℓで、ゴルフバッグ2個を収納できる。

    メルセデスAMG GT 63 S 4マティック+
    ●サイズ(全長×全幅×全高):5050×1955×1445㎜
    ●エンジン形式:V型8気筒DOHCツインターボ
    ●排気量:3982cc
    ●最高出力:639PS
    ●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥23,970,000(税込)

    問い合わせ先/メルセデス・コール
    TEL:0120-190-610
    www.mercedes-benz.co.jp