もはやリアルにフォーミュラカー!? 優雅なハードコア、マクラーレンの720S スパイダーに乗って。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第95回 McLAREN 720S SPIDER /マクラーレン 720S スパイダー

    もはやリアルにフォーミュラカー!? 優雅なハードコア、マクラーレンの720S スパイダーに乗って。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    これぞスーパーカーらしい優美で大胆なエアロデザイン。

    今回、マクラーレンのスーパーシリーズである720S スパイダーのステアリングを握った。まず感動したのは、マクラーレンたらしめるすべての特徴が、前回乗ったエントリーモデルの570S スパイダーにも完璧に備わっていたってことなんだ。カーボンモノコックによるバスタブ型シャシーの剛性感がもたらすハンドリングの素晴らしさや、車体との一体感。加速とともに姿勢を低くして路面と大気の間を切り裂いていくスーパーカーならではの挙動とか、570S スパイダーにも十分なほど備わっていて、まず話をそこから始めたいと思った。570S スパイダーはマクラーレンの本質を堪能できる。それは間違いないのね。
    でも実際にディーラーで570S スパイダーと720S スパイダーが並んでいて、720S スパイダーに心が惹かれたなら絶対にそちらを選ぶべきだと思う。なぜなら両者の違いは、デザインがすべてを物語っているからなんだ。大胆かつハイエンド、それでいてリアフェイスのど真ん中にエキゾーストエンドを配置するようなぶっ飛んだ720S スパイダーのスタイリングは、このクルマのアイデンティティを完璧に表現している。
    それゆえアフターチューンで馬力とトルクをそれぞれ200ずつ上げたとしても、570S スパイダーは720S スパイダーになりえないし、720S スパイダーのデザインとキャラクターとの調和には似ても似つかないなにがしかになるはず。言い換えれば、マクラーレンは車種ごとに演奏するユニットが決まっていて、メンバーを変えると破綻してしまうほどの完成度がそもそも備わっていると言えるのかも。
    だから「その違いはなにか」と問われれば、同じ曲を演奏してもユニットが変われば「まるで違う曲のように聴こえる」という感覚に近い。たとえば出だしから720S スパイダーはエキゾーストノートが陰影に富んでいて、低速では不機嫌さを隠さない。570S スパイダーは低速、中速、高速に至る一連の流れにシームレスな「乗りやすさ」という通奏低音があるけど、720S スパイダーは中速から高速、超高速域で速度とともに本性を現す。でもライバルのように、速度とともに「もっと踏め」と好戦的になるのとも、高い回転数を保ちながら官能的なタナトスの世界へ誘われるのとも違っている。

    F1の美学を突き詰めた、ハードコアなスパイダー

    軽量なボディがエアロダイナミクスで路面に押しつけられるように、かつ路面入力をクルマ全体でボディブローのように感じながら突き進む。そのリアルでスリリングなハイスピード感は、ハードボイルドでとことんクールだ。そしてその時、このぶっ飛んだデザインと愚直で男くさいレーシーな世界観から、「やっぱり英国車なんだ」ということが理解できるんだ。
    マクラーレンのアダプティブサスペンションであるプロアクティブ・シャシー・コントロールⅡは、しなやかなだけじゃなくて、トラックモードではハードな超高速域のリアルさをちゃんと演出できる。そんなアドレナリンの荒波の先になにが待ち受けるかは、オーナーにしか知り得ない領域って感じだったね。素晴らしい冒険を――。ボン・ヴォヤージュでしょう(笑)。
    そしてスパイダーならではのオープンスポーツの魅力と、新開発のバスタブ型シャシーのモノケージⅡ-Sは、峠やワインディングでこそ真価を発揮する。2.1mを超えるワイドな車幅に特大のタイヤを4個付け、乗員を真ん中に、すぐ後ろによく回るハイパワーユニットを置く。これでたった1332kg(乾燥重量)しかない軽量ボディですよ。
    ワインディングを流すだけなら、ほぼノンブレーキのシフト操作だけでご機嫌なドライブができる。ルーフを開けて、すぐ背後から届くエンジンサウンドを聞きながらリラックス。アクセルだけで車体をコントロールしていると、スピンとは無縁の大型カートをドライブしてるって感じ。これだけで十分その調和は感じられるんだけど、ひとたびアクセルを踏み込めば神経が車体に接続され、車体はさらにワインディングのカーブと三位一体をなす。このクルマに乗れている時の、どこにもほころびのない一体感の素晴らしさは何物にも代えがたい。
    スキール音を発生させないように注意しながらワインディングを走るのに夢中になっていると、イメージは完全にフォーミュラカーなんだよね。ナンバープレートの付いたフォーミュラカーで、ワインディングを駆け抜けてるって感じ。さらに車幅のわりに構造上、助手席との距離がとても近いのね(笑)。「クルマの構造上、やむをえまい?」とパートナーの手を取り、ハイランドの絶景を疾走する。そんな英国紳士が目に浮かぶようだね(笑)。

    • 走行性能のポイントとなる車幅は2.16ⅿとフルサイズ。

    • カーボンと皮革があしらわれたラグジュアリーなインテリア。

    • ディヘドラルドアを開け、コックピットに身体を差し入れるように搭乗する。

    • ダブルスキン構造により、サイドを貫通する特徴的なエアチャンネル。

    • 720馬力を叩き出す4ℓ V8エンジンは、最高時速341㎞を記録する。

    • リアウイングは内蔵され、速度に応じて可動する仕様。

    ●サイズ(全長×全幅×全高):4544×2161×1194㎜
    ●エンジン形式:V型8気筒DOHCツインターボ
    ●排気量:3994㏄
    ●最高出力:720PS/7500rpm
    ●駆動方式:MR(ミッドシップエンジン後輪駆動)
    ●車両価格:¥41,676,800(税込)

    問い合わせ先/マクラーレン・オートモーティブ
    https://cars.mclaren.com
    マクラーレン東京 TEL:03-6438-1963
    マクラーレン麻布 TEL:03-3446-0555
    マクラーレン名古屋 TEL:052-528-5855
    マクラーレン大阪 TEL:06-6714-7888
    マクラーレン福岡 TEL:092-611-8899