新旧メディアをフル装備した、万能プレーヤー

    Share:

    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    新旧メディアをフル装備した、万能プレーヤー

    7mm厚アルミフロントパネルや3mm厚アルミサイドパネルを採用し、高品位なデザインに。¥308,000(税込)

    世界的に見るとCDやSACDなどのディスクメディアは退潮傾向だが、日本ではまだまだ音楽聴取の主流メディアの地位にある。オーディオ・メーカーから、ハイエンドなCDプレーヤーがいまでも多くリリースされている。その最新がテクニクスの「SLーG700」だ。
    私のようにオーディオ体験の歴史が長いと、「えっ? テクニクスがSACDなの?」と驚く。20年近く前、ポストCDフォーマットとして当時の松下電器が推すDVDーAUDIOと、ソニーが推すSACDが覇を競い、結局SACDが勝った。ハイエンドなユーザーはSACDが好きで、SACDは着実に新譜でもリリースされている。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のプライベートレーベルは当初、CDのみでアルバムをリリースしていたが、いまやSACDが標準のフォーマットだ。
    最新のディスクフォーマット、MQACDに対応したのも話題。人が感じる音の時間の細かさに着目し、それを信号に活かす新デジタル音声技術として開発されたのが、MQA(『スタジオの音質を保証』という意味)だ。MQAは既にファイルのダウンロードやストリーミングで聴くことができるが、日本では独自にCDにMQA信号を書き込んだMQACDが考案され、いま、ユニバーサル ミュージックやワーナーミュージックから名作がどんどんリリースされている状況だ。ところが、MQACDを再生するCDプレーヤーが、これまでほとんどなかったのが問題だった。そこでSLーG700の登場が大いに歓迎されるわけだ。
    これだけでも凄いのに、WiーFi、AirPlay、Bluetooth対応という現代的なネットワークリスニングも可能にした、まさに新旧オーディオ・メディアが総結集したスーパープレーヤーでもあるのだ。なんでもできるというと、逆に質的な不十分さを感じるかもしれないが、いや、技術的にも音的なこだわりの観点でも、大いに刮目されるのである。
    開発者は音づくりについてこう言った。「アナログ的な音、厚みや重みがあって、かつ違和感なく、すっと心に入ってくる音を目指しました。情報量と空間表現という点に加えて、低域の押し出し感、音楽性を意識しました。数字では見えないところをどうやって表現するかを常に意識してチューニングを行いました」
    その成果は上々だ。非常に質感が高く、細かな音楽的表情がクリアに再現され、しかも、温かな音調が聴ける。特にSACDとMQACDの再生が素晴らしい。精緻で緻密でヒューマンなSACD、ダイナミックでブリリアントなMQACDというメディアの違いを見事に活写している。すべての現存メディアを高品位で楽しみたい音楽ファンにお薦めしたいプレーヤーだ。

    デジタルから元のアナログ波形を形成するD/A回路には、上位クラスのDAC「AK4497」を搭載。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載