もはや“アンタッチャブル”なクールネス!? BMW M8 クーペは、デ・ニーロ・アプローチで真価を見せる。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第112回 BMW M8 COUPE COMPETITION / BMW M8 クーペ コンペティション

    もはや“アンタッチャブル”なクールネス!? BMW M8 クーペは、デ・ニーロ・アプローチで真価を見せる。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    待望のMシリーズの頂点に立つM8 クーペ コンペティション。

    ロサンゼルスのビバリーヒルズやベルエア、ハリウッドヒルズといったアメリカ西海岸のセレブエリアは、間違いなく世界中の高級車が集まるホットゾーン。それと同時に北米の高級車市場のトレンドがわかる場所でもある。復活したBMWの旗艦シリーズである8シリーズクーペは、明確にそんな北米の高級車市場をターゲットにしてきた。

    V8エンジンで明るくラグジュアリーなインテリア、車体のサイズは大きくて贅沢な2ドアの2+2シーター仕様。後部座席はほぼ手荷物を置くためのスペースで、基本的にユーティリティ性に乏しい大型クーペは、見た目重視のカテゴリーに入ると言える。男性が乗るイメージが強いけれど、この界隈でスポーツカーはいたってジェンダーレスな乗り物でもあるんだな。

    そんないかにもロサンゼルスの富裕層に好まれそうな8シリーズクーペのド直球な感じを、デヴィッド・リンチ監督の映画でも知られる彼の地、マルホランド・ドライブになぞらえて「マルホランド感」と表現したいのね(笑)。今回乗った8シリーズの高性能バージョンであるM8 クーペは、マルホランドの住民もターゲットではあるものの、ただ無闇にパワーを上げただけじゃない。完全に腹を決めてきたところがあるんだ。

    わかりやすいスポーティさやラグジュアリー性の記号を排して、いま一度ブランドの本質を問い直している。それは徹頭徹尾、「BMWらしくクールに行こう」ってことなんだな。たとえばセレブリティな俳優で言うと、ハリウッドの煌びやかな映画産業から自分探しを兼ねた原点回帰のために、ニューヨークのブロードウェイに舞台を移したって感じ(笑)。

    わかりやすいところだと、シフトノブはクリスタル製から革巻き仕様へ。もっと本質的なところだと変幻自在な走りっぷりと、その排気音にある。8シリーズのスポーツ・プラスモードでは、明快すぎるぐらいV8エンジンのワイルドさが際立っていたのに対して、M8は走りのモードであるMモードでさえ音はほとんど変わらない。BMWの走りの頂点に位置付けられるM8なのに、「それでいいの?」って不安になるぐらいですよ(笑)。けれどもその静かな低音に耳を澄ませば、BMWが向かおうとしている先が見えてくる。

    まずコンフォートモードで走り出すと、低音が濃密な気配のように漂ってきて、アクセルを入れて初めて明瞭にV8エンジンであることが主張される。さらに加速すると、低くて粒立った音が溶け合っていくようなV12エンジン感がある。この時点ではスパルタンの“ス”の字もなくて(笑)、メルセデス・ベンツのSLシリーズのような大人のクーペという趣だね。エアサスには浮ついたマルホランド感もあるし(笑)、時々ドンという路面入力をモロに受けてしまう以外は、Mシリーズとか走りのフラッグシップという感じはしない。

    高次元の走りを実現した、旗艦シリーズの最新クーペ

    M8の本領と言えるのは、DSC(横滑り防止機能)を切って作動させる後輪駆動の2駆モードとスポーツ4輪駆動モードにある。M5にもあった後輪駆動モードなんだけど、M8ではDSCを切らないと作動しないのがミソ。電動アクチュエーターによってブレーキの踏み代に対する制動が強くなり、後輪駆動モードでは鼻先とともに「車重が軽くなった」と錯覚させられるほどキレのいい走りが楽しめる。特に4輪駆動の通常モードからの変化は歴然としていて、ナローなワインディングなんかは持て余し気味だった車体もキレッキレに駆け抜けられるんだ。

    これはロバート・デ・ニーロが映画『アイリッシュマン』で、CGの力を借りて20代を演じている感じと言えばわかるかな(笑)。まぁ、それでも貫禄は抜けないんだけど(笑)、懐かしい感覚とともに熱狂できる感じ。「おぉ、コレでいいじゃん」と思いつつも、スポーツ4輪駆動モードにするとすべてが安定していて、さらに驚かされるんだ。

    オーバー気味だったステアリングの傾向はフラットのややアンダーぐらいに変貌し、挙動がソリッドに制御される。1.8トンの車重に対する最適解は間違いなくスポーツ4輪駆動であり、後輪駆動ではやはり車重が少々ネガティブな要因だったことに気付かされる。

    このハイレベルにバランスの取れた走りが、M8の名称にふさわしい。コンペティション(競技)の称号は、サーキットで試したくなる速さの追求とは別に、御年77歳のデ・ニーロの俳優人生を投影した佇まいの完成度に近いと言うべきかもしれない。最強のBMWクーペですよ、間違いなく。

    DSCを切っている時点で恐ろしく速いクーペなんだけれど、やっぱり音もほとんど変わらないのね。車外に出れば派手に鳴っているんだけど、コックピットの中では「やっと普通のスポーツカーになったぐらいかな」って音。このドライバーを取り巻いているサウンドが凶暴性を秘めたデーモニッシュな音で、ものすごくクールなんだ。静けさの中に野獣が潜んでいるような、狂気を秘めたエレガンスであり、BMWの新しいマナーと美学を見出したって感じなんだよね。

    BMWと言えば直列6気筒エンジンのイメージが強いけれど、あの低音かつ整流された美しい音色を、V型8気筒エンジンで再現するのではなく引用している。安易なわかりやすさに陥らない知性とともに、ブランド全体を新たな時代へと牽引していく。これぞ旗艦シリーズのフラッグシップたる役割でしょう。

    • 美しいカーブを描くボンネット。0-100km/h加速は3.2秒を達成。

    • ステアリングホイールには赤いMモードボタンを装備。

    • 足元には専用のカーボンセラミックブレーキを搭載。

    • 走りの細かいセッティングが可能になったシフトノブ周辺。

    • モデルバッジやキドニーグリルはハイグロスブラックの仕様。

    • リアルーフに連なる控えめなスポイラーが奥ゆかしい。

    ●サイズ(全長×全幅×全高):4870×1905×1360mm
    ●エンジン形式:V型8気筒DOHCツインターボ
    ●排気量:4394cc
    ●最高出力:625PS/6000rpm
    ●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥24,440,000(税込)

    ●問い合わせ先/BMWカスタマー・インタラクション・センター
    TEL:0120-269-437
    www.bmw.co.jp