家具としてデザインした、温もりの佇まい。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    家具としてデザインした、温もりの佇まい。

    アクタスが監修した「ノルディックグリーン」など全5色が登場。アマゾンにて販売。実勢価格¥360,800(税込)

    日立の家電のベクトルが変化を見せていて面白い。なによりデザインに対しての変化が顕著なのだ。2 01 9年秋に取り上げたIHクッキングヒーターの時にも紹介したように、同社は「Less but Seductive(一見控えめなれど、人を魅了するモノのありよう)」をコンセプトに掲げ、一人ひとりに寄り添い、暮らしをデザインするとしている。そして次に向き合ったのは冷蔵庫だ。
    「真空チルド」や「まるごとチルド」、冷蔵庫の温度帯を自在に変えられる「ぴったりセレクト」など機能面での進化に注力してきた同社が、インテリアの一部として冷蔵庫を捉え、アクタスと協創して家具のような一台を生み出したのだ。開発期間は約半年と短く、そのスピーディさも本気度の表れと言えるだろう。
    「DESIGN NORMAL」というコンセプトのもと、目指したのはインテリアの個性に合わせて選べる冷蔵庫だ。深い森の木立のようなノルディックグリーンやフロストガラスを採用したフロストホワイト、クールな質感で光の当たり方によって印象が変わるスモーキーグレーなど、北欧からインスピレーションを得たカラーリングを採用することで、日照時間が短く、室内で過ごす時間が長い北欧ならではの“インテリアを楽しむ文化”を暮らしにもたらしてくれる。アクタスとのコラボで生まれたこれらの3カラーの他にも、幾何学的なパターンを採用したシックなイメージのジオメトリックブラックや、ファブリックの織りを抽象化したパターンでフレッシュさや明るさを感じさせるキャンバスブルーがラインアップ。日立のデザイナーが生き生きとした表情を見せて「アクタスとのワークショップで刺激を受けて、これまでにない新しい発想でデザインができた」と語っていたのが印象的だった。
    ドアのガラス面をより広く見せるために周囲の樹脂部品の幅のスリム化を図ったり、ハンドル部分をマットに仕上げることで光の反射によるノイズを抑え、手触りもよくしているなど、日々触れたり、ふと目にした時の印象まで考えながら設計されているのが好ましい。
    5カラーすべてが左開きと右開きを選べるほか、幅60㎝と設置性もよく、470ℓのちょうどよいサイズ感。冷蔵室の棚全体がチルドの温度帯に保てる「まるごとチルド」や、肉や魚の鮮度が長もちする「特鮮氷温ルーム」、整理のしやすい「高さかわるん棚」など同社で人気の機能も備えている。
    北欧テイストのインテリアが好きな人はもちろんだが、温もりのある日本の部屋にもおさまりがよさそうだ。「部屋に合う冷蔵庫が見つからない」と嘆いていた人は選択肢に入れる価値あり。日立のデザイン、次の一手に期待がかかる。

    やわらかなグリーンは、ありそうでなかった絶妙な色み。温かみのあるインテリアに、優しく溶け込む。

    神原サリー
    新聞社勤務を経て「家電コンシェルジュ」として独立。豊富な知識と積極的な取材をもとに、独自の視点で情報を発信している。2016年、広尾に「家電アトリエ」を開設。テレビ出演や執筆、コンサルティングなど幅広く活躍中。
    ※Pen本誌より転載