シャルドネとソーヴィニヨン・ブラン主体で、ここまでパワ...
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鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

シャルドネとソーヴィニヨン・ブラン主体で、ここまでパワフルな個性派を造れるとは……。

ミスター・フィールグッド セイル・ザ・シップ・ヴィンヤード

今年から来年にかけて、新たなナチュラルワインの生産者が続々と市場にお目見えする。長野県上田市の田口航さんもそのひとり。自身で造ったワインの一般販売をこの夏に始めた。ワインの名前はミスター・フィールグッドだ。

ワインの色合いはやや薄めの黄金色。始めにライムのような香りもするが、全体としてはトロピカルフルーツのような印象が強い。何より口に含むと、そのパワーに驚く。とろりとした質感で、甘いパイナップルのようなフレーバーが広がる。そしてほんのわずかに感じられる苦味が、全体を引き締めている。長野県ではよくみられるシャルドネやソーヴィニヨン・ブランのワインとは異なる、唯一無二の個性を放っている。

田口さんは上田市富士山、「東山」と呼ばれている台地にブドウ園を拓きブドウを育てている。栽培品種は白4品種、赤6品種とかなり多い。白用品種はシャルドネとソーヴィニヨン・ブランが主体だが、プティマンサンやロワールのナチュラルワインの造り手たちのワインで見られるロモランタンといった超個性派品種も手がける。このワインはプティマンサンを除くこれら3つの品種をすべて用いて造られているのだ。彼はワインを造るという自分の夢を実現するために、長野県の「千曲川ワインバレー東地区」と言われる、日本全国の中でも気候に恵まれた千曲川流域で畑を探した。

ここに至るまでの道のりは紆余曲折があった。大学での専攻は数理統計学だった。しかし、いまから15〜16年前、学生だった田口さんはスペインワインに出合い、ワインの魅力の虜になる。その後いったんは就職するも夢を諦めきれずに退社。天橋立ワイナリーに就職した。独立を目指してから、アレキサンドル・バンという造り手のソーヴィニヨン・ブランのナチュラルワインに出合い衝撃を受ける。バンのワインは、いままで彼が味わっていたソーヴィニヨン・ブランとは別物だった。

「凝縮した果実味、旨味のあるエキス、ハチミツやフルーツの香りに圧倒されました。それまで抱いていたソーヴィニヨン・ブランのイメージが覆されました」と田口さん。自分が目指したいワインはこれだと思った。彼がナチュラルワインを意識して飲み始めたのはそれからだ。

国内外のナチュラルワインの造り手たちのワインや考え方や生き方に触れるにつれて、彼のワイン造りの方向性も定まった。栽培では化学肥料や化学合成農薬、除草剤を使わずに、虫や微生物を大切に、土壌にも負担をかけない農法をとる。そして、醸造では酸や糖分、他に添加物を加えずに野生酵母で発酵させる。このワインについては亜硫酸も無添加だ。

もうひとつ、特筆すべきはブドウの収穫時期だ。実はいま、主流のソーヴィニヨン・ブランは、よくグラッシーといわれる青草やハーブのニュアンスが強い。こうしたワインを造るためにグラッシーな香りの素となる物質の量を意識してやや早めに収穫するのだが、田口さんは、収穫をギリギリまで待って自分が考える完熟さを追求し、ボディ感や果実感を出した。

こうして誕生したのが、これほどまでに旨味あふれる味わい。デビューしたての造り手の情熱が凝縮した、パワフルな一本だ。

ワインの味わいと同様に、ラベルもインパクトがある。「自分のワインを囲んで家族・友人と楽しい時間、人生を過ごしてほしい」という思いがワインの名前に込められている。イメージは「楽しく、明るく、ハッピーに」。田口さんが好きだというアーティスト(ザ・フー、クラッシュ、ビートルズ、ロバート・ジョンソン、はっぴいえんどなど)とナチュラルワインのイメージにはどこか似通ったところがある。同じ名前でリリースされた赤ワインもあり、こちらもお薦め。

ブドウ畑のある一帯を、筆者は日本でも屈指のワイン用ブドウの適地だとみている。雨は少ないし、夏は冷涼(最近でこそ温暖化によって気候が変わってきたが)でクーラーもいらないといわれていた。また、土壌の水はけもいい。photo:Ko Taguchi

自社管理面積/3.1ヘクタール

栽培醸造家名/田口航

品種と産地/シャルドネ52%、ソーヴィニヨン・ブラン41%、その他ロモランタン、シュナンブランなどヴィニフェラ数種7%(すべて長野県上田市富士山)

容量/750ml

価格/¥2,860(税込)

造り/ふたつのロットに分けて仕込んでいる。ソーヴィニヨン・ブラン:房ごと果汁を搾ってから、落し蓋式ステンレスタンクで冷却し翌日デブルバージュ。その後常温で静置し野生酵母の発酵を待つ。6日後発酵スタート。さらに7日後、発酵が旺盛になったことを確認しタンクをセラーへ移動(室温16℃)。14日後、発酵終了。ステンレスタンクにて密閉貯酒。シャルドネ:房ごと果汁を搾ってから、落し蓋式ステンレスタンクで冷却し翌日デブルバージュ。常温で静置し野生酵母の発酵を待つ。プレスから3日後発酵スタート。翌日、発酵が旺盛になったことを確認しタンクをセラーへ移動(室温16℃)。3日後、樽入れ(7、8年目のオーク樽)。35日後発酵終了。貯酒。シャルドネを樽に入れてから約6カ月後、上記ソーヴィニヨン・ブランとひとつのタンクに合わせ、翌日瓶詰め。仕込みから瓶詰めまで亜硫酸無添加。無濾過。補糖、補酸、その他添加物一切なし。

栽培/2016年春、開園。植栽前の1度の耕起以外は不耕起栽培。除草剤無し、無施肥。化学合成農薬不使用。休眠期の石灰硫黄合剤とボルドー液のみのビオロジック栽培。2019ヴィンテージはほとんどが4年目の木より。2年目の収穫。収穫日:ソーヴィニヨンブラン9月22日〜23日、シャルドネ10月5日〜6日

問い合せ先/セイル・ザ・シップ・ヴィンヤード
www.facebook.com/tagck11

※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。

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